Rotstufen!!─何もしなくても異世界魔王になれて、勇者に討伐されかけたので日本に帰ってきました─

甘都生てうる@なにまお!!

文字の大きさ
上 下
95 / 173
第4章 (元)魔王と勇者の憩場に

✨21話1Part ヴァルハラ独立国家編完結です!ここからは一時日常ネタ...?

しおりを挟む
 

「......あ、ルイーズ!!......て、え?」


 聖火崎たかさきが屋敷に戻ると(フレアリカは途中で眠ってしまい、今も車の中に居る)、そこには輝く緋色の髪に翠色の瞳を持つ5唯聖勇者の1人、ルイーズ·Rレィフィラ·エウリコットが聖槍顕現のための依代である加工枝を握って立っていた。

 ......が、彼女にしては珍しく、女物の豪勢なドレスを身にまとっている。女戦士にしては細く鍛え上げられた足を薄いレースが覆っており、それの内上部には茶色で短めのフィッシュテールスカートを履いている。豪奢なジュエリーが飾られたそれに負けず劣らず、トップスもまた豪華だ。

 その身なりに、聖火崎はまず目を見開いて静かに驚き、そのままの顔できょどきょどと返事をしている。


「お、ジャンヌ!......あの後、すぐにここヴァルハラ独立国家に向かったと門番に聞いたのだが、大丈夫だったか?」

「え、ええ。この通りよ。む、むしろそっちが大丈夫だったの?」

「ああ。アヴィスフィアの件については、やはり思うことが多々ある。が、いつまでもめそめそしていては彼女が悲しむしな。......にしても、そんなに挙動不審で、どうしたんだ?何かあったのか?」

「見慣れない格好をしてるから......」


 女っぽい格好をしないルイーズのドレス姿は、聖火崎の脳裏にしっかりと焼き付いた。そして......


「そ、そうなの......って、る、瑠凪るな!?」

「はーいあっちあっち!ここに運ぶなよ、庭園東口の倉庫に運べって何回も言っただろ!ったく......あ、聖火崎......」

「あ、主様?」


 だれかに指示しながらトコトコと歩いてきた瑠凪もまた、聖火崎の見慣れない格好をしていた。......真っ黒の軍服に黒い短パン、片足のみ同色のタイツを身にまとい、全体を包むように漆黒で金色の刺繍が所々にあしらわれたコートを羽織っている。

 スニーカーと指ぬき手袋も黒と、全身真っ黒な姿の瑠凪は、聖火崎の姿を視界に捉えるなり共に歩いてきた或斗あるとの背に隠れてしまった。


「......ど、どうなさいました......?」

「別に......」

「なら隠れなくていいじゃない。どうせ戦う時には、お互い軍服なんだから。......ってか、その手の物騒なものは何よ!」


 1歩1歩近づいてくる2人を眺めていた聖火崎が指摘したのは、或斗の右手に握られている銃。大人の男性が手を目一杯広げたのと同じぐらいの大きさである、聖銃よりも大きな銃。


「ああ、これか?......これは......げほっげほっ、大昔にウィズオート皇国群島東側で作られていた銃を、復元して使えるようにしたものらしい。確か......モスキート?」

「......蚊?その突き出た銃口でグサッと刺すの?」

「......は?」「......は?」

「あー、ベレッタ·Modello1938Aっつー銃だ。愛称がモスキート。おはよう聖火崎!半日見てなかったけど、元気そうでなによりだ!」


 何言ってんだあんた、と言わんばかりの表情でお互いを眺める聖火崎と或斗の間に高らかと声を上げながら入ってきたのは、下界13代目(元)魔王にして歴代最弱魔王と呼ばれている青年·緑丘 望桜みどりがおか まおだ。


「(元)魔王から元気に挨拶される勇者......私今、デジャヴを体感したわ」

「何でだよ。そこは未視感じゃないのかよ」


 瑠凪のツッコミを耳に入れてもなお、うんうんと頷き続ける聖火崎は、車の中から聞こえてくるフレアリカではない声に、あー、そういえば......と、望桜達を呼びつけて、


的李まとい帝亜羅てぃあらちゃん、鐘音べるね、マモン、それからガブリエルを呼んで、会議室を借りてちょうだい」

「え、いきなりなんだよ」

「天使を捕まえたの。それもガブリエルに負けず劣らずの神気を持ってる天使。それなりに上位の天使と見たの。天界についての話を聞くにはうってつけだわ」


 瑠凪の講義とも取れる声を完全無視した聖火崎は、つかつかと車の方に力強く歩みを進めていった。そして車のドアを開き、縄で縛られた赤毛の天使の首根っこを掴んでずるずると運んでくる。


「うわ、お前縛ったのかよ。容赦ねえ......」

「当たり前よ。殺されかけたし、私の大事な友達にも怖い思いをさせたんだもの。同種だからって酷いことをするつもりはないわ。ただ、話を聞かせてもらうだけ」


 冷徹な視線を赤毛の天使の方に向けた聖火崎は、にやりと意地悪げに笑みを浮かべて見せたのだった。



 ──────────────Now Loading──────────────



「あー......頭痛い。或斗、頭痛薬取って」


 ......兵庫県明石市南明石のマンションの一室。綺麗な室内は年明けに向けてとクリスマス前に間に合わせるために早めに行った大掃除のおかげでピカピカ。オシャレなインテリアも暁の日光に照らされていつも以上に眩しく見える。

 その一室内にあるリビングキッチンにて絶賛稼働中の炬燵の中に下半身を入れてぬくぬくと過ごしている堕天使は、藍色の髪を乱雑に束ねた頭のまま液晶タブレットを下敷きにするのにも構わずに天板に突っ伏し呻き声を上げた。

 その堕天使に或斗あると、と呼ばれた青年は近くにあった頭痛薬をぱっと取って手渡すと、その堕天使に心配そうに声をかけた。そして堕天使の方に手にドリンクを持ったまま近づいていき、


「大丈夫ですか?主様......?」

「あー......分かんない、ただ日本の神事が侮れないって事だけはわかった、何がクリスマスだよ......頭痛い、怠い、動きたくないぃ~......」


 そのまま炬燵に足を入れ、未だに呻き続ける瑠凪の返答を聞いて"メリークルシミマス"が頭にちらついたが無視し、気休め程度に部屋のカーテンを閉め切った。

 ......まだ日の出直後という早朝も早朝を極めきったような時間帯であるにも関わらず、クリスマスから新年の日本の毎年恒例神事ラッシュによる神気過多は既に猛威を振るいまくっている。しかもまだそのラッシュの1番手前、クリスマスだ。クリスマスでこれでは、これから先が不安で仕方がない。


「今日、シフト入ってなくて良かったですね。......けほけほ、」

「ほんとにねぇ~......」

「......え?」


 そしてそのまま続けられる2人の会話に素っ頓狂な声を上げて反応したのが、2人の同居人、通称"ニートJK"沙流川 太鳳さるがわ たおだ。言葉通り『え?』って顔のまま2人の方を向き直った彼女は、2人の言葉に異論というか自室との相違点というか、とにかくそーいったものばかりだと言いたげに口を開いた。


「いや、いやいやいや」

「ん?」

「どしたの太鳳、気でも狂った?」

「んんー、もしかしたらそうかもしれな......じゃなくて、るったん確か今日、シフト入ってたよね?」

「お前は何を言ってるんだ?」

「え、ボクがおかしいの!?............あー、いつものパターンね。はいはい」


 しかしそれを言ったら言ったで、彼女の同居人2人は"お前は何を言ってるんだ"とばかりにわざとらしく小首を傾げてなんとも不思議そうにしている。

 そして彼女もこの空気に覚えがあるようで、慣れた手つきでその場の空気を軽くあしらった。


「ところで......あるきゅん、その体勢とドリンクは一体......?」


 そしていつの間にやら呻き続ける瑠凪を腕の中に抱き込み、ぎゅーっと抱きしめる或斗に太鳳はつっこみながらもソファから炬燵に移動した。


「ああ、わらび餅ドリンクだ。あとは......1日の主様分補給......と、魔力補給」

「普通に補給できるんじゃないの?ってかいつものタピオカじゃなかったのね!?」

「確かにできない事はないのやもしれんが、俺はこれで十分。むしろこっちがいい位だからな」

「相変わらずるったん好きだねぇ......」


 そう言って半ば呆れながら瑠凪の方に視線を移す太鳳。


「うー......ぅおえ、なんか気分悪くなってきた......お仕事できない、むり。神気のばか、ばかー......ぉえ、」


 自身の体調不良神気過多の原因である"神気"にぶちぶちと文句を言いながら、或斗の腕の中でぎゅっと縮こまる瑠凪。顔色は既に蒼白を通り越して土色だ。その様子を見兼ねた太鳳が、スマホ片手に或斗に声をかける。


「ねーねー、るったん本気でつらそうだから救急車呼んだら?ってか前にもまおまおにそんな事聞いた事あるんだけど」


 沙流川の言う"まおまおにも聞いた事がある"とは、まだ葵雲に会う前に瑠凪が職場で絶賛体調不良(あの時は魔力停滞)でとてつもなく苦しんでいた時の事だ。あの時も"同居人がやめろと言うから"という理由で救急車を呼ぼうかという断ったのだ。


「お前は馬鹿なのか?主様を魔力停滞や神気過多で日本の病院に入院させたとしても、原因不明のままとりあえず程度に点滴を打たれるだけだ。更には身体中の隅から隅まで精密検査された挙句、高額な"検査代"と"入院代"をもっていかれるだけなのだぞ!?うっ、げっほげほ」

「後半はドラマの見すぎなとこあるかもだけど......でも、それだと出費が痛いからって理由でもとれるんだけど、あるきゅんだったら普通はお金よりるったんを優先するよね?」


 或斗のちょっと滑稽じみた例え話に軽く触れながらも、目の前の堕天使に理由を単刀直入に訊ねた。


「だから、主様の体についても優先しているではないか。主様が下等生物である人間ごときに、身体中を触られまくるやもしれんのが俺は嫌なのだ。それに医者に係るなら、日本の者ではなくラグナロクの者にするに決まっているであろう」

「あーなるほど。日本の医者じゃどっちみち神気過多解決できないもんね~。そもそも1発ぱなせば治るし」

「そういうことだ」


 やっと理解した様子のニートJKに満足気な笑みを浮かべた或斗は、腕の中で未だに呻き続ける主人の方に向き直った。


「......うぷ、うぉえ......」

「......今日はお粥だな」


 口許くちもとに近くにあったタオルを当てて、必死に耐えている瑠凪の様子を見て、或斗はそう、残念そうに呟いた。


「そーだねー......ねえあるきゅん、ボク達もご飯、おかゆなわけじゃないよね?」

「あれは簡単だし、費用もかからん」

「え、え?」

「主様はオムライスが好きだ。だが体調不良時にオムライスは重いし、かといってお粥も白一色だと味気ない。卵がゆだな」

「え、ええー!?ボク達も!?ボク達だけでももっとしっかりしたの食べようよー!」

「却下。今日は一日お粥だ!!......けほっけほっ、」

「やだーぁ!!」


 太鳳の講義の声を華麗に無視した或斗は、時折咳き込みながらも自身のスマホのカレンダーアプリの予定の欄に"ほうれん草、ヨーグルト、ごま、アーモンドチョコを買う"と書き足したのであった。どうせすぐ行くけどな、と内心ぼやきながら。


「とりあえず、買い物に......」


 そして、そう言いながら12月23日の予定欄から、12月のカレンダーの所に戻ったところだった。


「......あ、そういえば......」


 クリスマス、そう赤字で書かれている横が、小さくサンタやらトナカイやらの絵文字でデコレーションされているのが、或斗の視界の隅に入り込んで来た。



 ───────────────To Be Continued─────────────


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...