Rotstufen!!─何もしなくても異世界魔王になれて、勇者に討伐されかけたので日本に帰ってきました─

甘都生てうる@なにまお!!

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第2章 Alea iacta est!(本編本格始動の章です)

✨10話1Part 勇者、命の危機...そんな事とはつゆ知らずなのです。そんな中、大悪魔は一体どんな作戦を練るのか...?

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「これは仮定の話なんだけど、もしかしたら、ほんっっとうにもしかしたら聖火崎や翠川が明日......」


 固唾を飲んで、先にどう続くのかと耳を澄まして続きを待った。帝亜羅は場に流れる夜中特有の沈黙にただならない空気が便乗していて、帝亜羅は額に汗がじわりと滲むのを感じた。手には一応麦茶の入ったコップを握っている。


「......殺されるかもしれない」


 耳に入ってきた言葉に帝亜羅は驚いた、というより先程よりさらに沢山の疑問符を頭上に浮かべた。なんで、聖火崎さん達が......?って考えた後、はっとした。自分は先程まで葵が交信している人物は勇者軍なわけない、と仮定していたため、消去法的に相手は魔王軍関係者か魔界の人物ということになる。魔王軍や悪魔からなら勇者が命を狙われるのはごく自然なことのはずなのに。

 そこまで考えて帝亜羅はにへらっと笑い、冷や汗を浮かべた。それならどうしてそんな自然な事に、こんなただならない空気がこの場を充たしているのだろうか。


「それ、どういうこと?聖火崎さん達は悪魔に狙われてるの?それって、普通の事じゃ......」

「まあ、それならそうなんだけど......」

「勇者軍の誰かに狙われてるの?」

「......うん」


 帝亜羅は体中から力が抜けて、思わず倒れそうになるのを必死にこらえた。

 ......ラファエルとアリエルに殺されかけたあと、帝亜羅はfikipediaや學園図書室、書店等で悪魔や天使について、そしてそれら関係の史実を片っ端から調べあげ、箇条書きにまとめた。

 そして同じように晴瑠陽にパソコン内の下界の様々な記録を見せてもらい、殴り書きで必死に書き留めたノート。

 そのノートの記録した時、勇者軍の項目にはこう書いたのだ。


『人間界勇者軍 地位と原則について

   1位は皇帝、人間界をまとめる王。2位は元帥と勇者

   勇者と元帥は同位で対等。ただ、元帥の中でも"総帥"の地位が与えられる天空五    
   稜郭の管理人である元帥は特別格なため、位が少し高い。元帥は四方から1人ずつ    
   戦闘力の高い人物を集めた位。

   3位は大臣、四方と中央区から3人ずつ、政治的権力が高い人物を集めた位。

   元帥と大臣、そして勇者は全員が味方である。

   世界を救う英雄は5唯聖武器を所持した勇者。原則として、元帥は勇者を、勇者は  
   元帥を殺めるような事はあってはならない。一般の兵が味方を傷つけることもあ  
   ってはならない。そして原則は絶対厳守するべき、尊重される物であり、破った  
   者には神判により罰を与えること。』


 ......あの記録にある"原則"を尊重するのなら、勇者軍の中の人が聖火崎さん達を殺すことは、あってはならない事のはずなのに。


「なんで......?」

「......聖火崎は人間界西方にある、聖教の、神判審議会に使役される勇者なんだけど......審議会は政治にかなり口出ししやすいんだ。現在人間界の国教は聖教だから、聖教の本拠地を根城とする審議会は所属してる大臣や元帥、そして勇者の権力が強い......他の三方よりもね」


 パソコンの電源を落とし部屋のスイッチを入れて麦茶を口に含み、数秒ぼーっとした。


「世界を救った勇者は、所詮世界が平和になって、それが続いてるうちは必要ないでしょ?......人間界は今、国のトップが物凄く腐ってる......ほんと哀れ」

「......その殺そうとしてる人にとって聖火崎さんは、他の勇者の人達も邪魔なの......?」

「そうなんだと思う。新聖剣勇者はどうか知らないけど、聖火崎と翠川は、大部分の腐ってる人達にとっては邪魔になることしか言わなさそうだし。例えば......」


 沈黙がやがて、重苦しい空気をひしひしと2人の体に染み込ませ始めた頃、再び葵は口を開いた。


「大天使相手に啖呵切って、"人間が悪魔を根絶やしにして、もう2度と魔王軍の軍兵共に殺される人がこの世にいない、勇者という存在が不要な世界になるまでは返せない"とか」

「っ!!」

「僕がさっき言った"世界平和が続いてるうちは勇者は必要ない"って、一時的にって意味なんだけど、聖火崎の"勇者という存在が不要な世界"は永久にって意味だから」

「......」

「ここで僕から君に1つ四方機関と皇帝の意向に関して1つ伝えておくと......少なくとも四方機関のうち2つは既に完全に腐りきってる......悪魔を勇者暗殺のための兵として雇うくらいには、ね」

「え......」


 勇者暗殺のための兵として悪魔を雇う......そこまで聞いて帝亜羅は目の前の少年を見た。......いつもは片側をハーフアップにしているのを今はしておらず、長めの横髪を首の周りに軽く巻いている。華奢でいかにも元気っ子といった雰囲気を常に漂わせ、お菓子が食べたいと駄々を捏ねてはあどけない笑顔を浮かべる。そんな少年だが正体は異界の大悪魔。

 そして先日、帝亜羅に自身の体中の傷の事をふいと打ち明けて、勇者と元魔王にこてんぱんにされた大悪魔。......そうか、あの時は......


「......堺市役所屋上の時私達を襲いに来てた理由は、聖火崎さん達を殺すため......?でも、アオンモールにエクスプロージョンを打ち込んでそれが当たってなかったって分かった後、失敗しちゃったって言ってたよね......?殺すのが目的だったんなら、その時点じゃまだ失敗じゃなかったんじゃ......」

「ああ......僕はあの時既にリストレイント·コントローラーの術中だったの。それで本当は主に聖火崎のメンタルをへし折るために、向こうの人間をエクスプロージョンで大量虐殺してから、心が完全に折れた聖火崎を生きたまま連れて帰る算段だったんだ。だけど失敗したでしょ?」

「望桜さんが防いでたから当たってなかったからね」

「それで、そこまでの計画が失敗したら、詠唱を唱えて殺すよう命令がなされてた。......でも望桜が止めてくれた。元だけど、やっぱり魔王って凄いんだね」


 そう言ってにこっと笑ってみせた葵に、帝亜羅は思わず和んでしまいそうになった。深刻な話の真っ最中なのに。


「僕は今でも人間は大嫌い。だから神判審議会の勇者暗殺兵としての使役のスカウトに、喜んで参加したんだ。これでまたたくさん殺せるし、それに怒られないからいいな~って......」

「......」

「そして僕の他にあと1人声をかけられてて、実際に参加した悪魔がいたんだ。......あれ、誰だったかな......」

「......じゃあ、その人が襲ってくる可能性もあるわけなんだ」

「うん。まあ、さっき話してた聖火崎達を殺すかもって人は他の奴なんだけど......」

「......カノープス?」

「そ、イヴ·カノープス。勇者軍総帥にして下界第2位の金持ち。あ、ちなみに1位はマモンね」

「総帥......ってことは、聖火崎さん達より権力的にも、武力的にも強い......?」

「That's Right(そのとおり)!だから殺される可能性が高いんだ!」

「......」

「政治的に邪魔だから、例え一時的だとしても世界を救った勇者である聖火崎と翠川を殺したいらしい」

「......そんなの、あんまりだと思う」


 帝亜羅は腸が煮えくり返るように、怒りがふつふつと湧き上がってくる感覚を身に感じた。

 ......世界を救ったのに、政治的に邪魔だから、自分達にとって邪魔な存在になり得そうだからという理由だけで命を狙われる。......そんなのはあんまりだ。残酷すぎる......聖火崎さん達は、ただ純粋に世界の平和だけを願って戦ってきたはずなのに。

 ......そんな人達の考えを知らないまま、また聖火崎さん達は14代目魔王率いる魔王軍と戦うために、もっと強くなろうとするんだろう。いつか世界中が魔王軍の手によって2度と血に染められることが無い世界にする為に、きっと。


「だって聖火崎さんも翠川さんも、その人達も含めた"みんな"の幸せだけを願って戦ってきたんだよね!?それなのにたったそれだけの理由で命を狙われるの!?」

「うん。それに僕の聞いた話によると、"行方不明になった"とかじゃなくて、"魔王軍関係者との謀反を企てた疑い"で処刑されたことになるらしい」

「っ!!殺された挙句世界を救った英雄の座から、悪役にまで引きずり下ろされるの!?そんなの、惨すぎるよ!!!」

「......でしょ、僕も惨すぎると思う。けどそれが現実なんだ」

「っ......なんで、そんな......」

「......だから聖火崎達が殺されないように、みんなでそいつをやっつけちゃおうよっていう計画を練ってたの!!」


 周りの重苦しい沈黙を晴らすかのようにぱっと笑顔になった葵に、帝亜羅はつられて笑みを浮かべた。そのくらい満面の笑みを少年が浮かべたのだ。


「えっ、そうだったの!?もしかして......」

「にっしっし!!強力な助っ人だよ!!......南方軍頭領元帥の、アヴィスフィア·Q·ティヴォリ、略してアヴィ!!」

「さっきの人のこと?そんな凄い人なんだ......!!」

「そーなの!!5歳で王都立の魔道士学院を首席で卒業して、7歳から勇者軍の元帥として軍を率いている大天才なんだ!!」

「めっちゃ凄い!!」

「今は14歳で、現在も元帥として勇者軍の中枢を担う大魔道士なの!!」

「えっ......14、歳......?」


 年齢を聞いて帝亜羅は思わず、ずっと手に持っていたコップを落としそうになった。......あれ?歳下......?


「......あの、葵くん?」

「なに?」

「その、元帥とか勇者になる人の平均年齢って......だいたい何歳くらい?できれば普通の人の平均寿命も一緒に......お願い、しまふ......」

「なんで敬語?......んーと、僕は8代目くらいまでしか知らないんだけど......だいたい100か200くらいじゃなかったかな?勇者は寿命がとてつもな~く長いから1000くらいかな!!」

「100か200?だったら、めっちゃ凄いじゃんその子!!」

「そうなんだよ!!」


 とりあえずその子がとんでもなく凄い、天才大魔道士だってことはわかった。でもひとつ疑問が......


「その子は勇者軍の人なんだよね、どうやって知り合ったの?」

「んーと......僕は2~7代目の時もだけど、8代目の時に魔王軍の軍勢をざっと3万人くらい減らすっていう謀反起こして辞めさせられてるから......」

「けっこうさらっと味方裏切ったね」

「だって暇だったんだもん!!で、その時から人間界にこっそり遊びに行ったりとかし始めて、たまたま会った」

「たまたま?」

「たまたまっていうか、元老院に遊びに行った時かな?」

「その時は具体的に何して遊んだの......?」

「元老院の魔道士達とドンパチやった!!」

「うわあ......」

「その時に知り合ったんだ!!」

「それじゃあ、お友達なんだ!」

「そ!それからはずっと、たまに魔界にあるマモンの館の、闘技場を借りてから弾幕ごっこで遊んでるの!!」

「弾幕ごっこって?」

「高火力の高速弾幕を互いに撃ち合いながら空中で戦う遊び!!」

「うわあ......」


 もうこれ以上聞くのはやめにしよう、多分過去に戦争か虐殺か弾幕ごっこしかやってないぞこの子。そう考えて帝亜羅はそれ以上聞くのをやめた。


「へえー、いいお友達なんだ......あ、そろそろ寝ないと望桜さんと的李さんに怒られるよ?」

「あ!!ほんとだ!!僕はソファで寝るから、おやすみ!!」

「うん、おやすみなさい!!」



 ───────────────To Be Continued──────────────


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