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第2章 Alea iacta est!(本編本格始動の章です)

6話5Part 聖弓勇者と聖槍勇者、少年悪魔に手こずっているようですね。大丈夫でしょうか...?

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「さて......トドメといくかっ!!」


 そう言って、少年悪魔はヴァナルガンドを振り下ろした......


 その時だった。


 ヒュッ、ガッ!!キィンッ!!


「ルイー......ズ......!」

「仲間をそう易々と殺させるわけがないだろう......仮にも、100年は共に戦ってきた仲間をっ、」


 今度は聖槍勇者が横槍を入れた。振り下ろされたヴァナルガンドと聖火崎の間に入って、攻撃を凌いだ。


 ぐ、ぐぐ......


「殺させて、たまるかああああああ!!!」

「ちっ、まだここまで力を残してたんだね......いつも僕らの邪魔ばっかり......人間如きが!!」


 ドッ、ギュンッ


 ガッ、キィィンッ!!!......ザッ、


「ぐっ、」


 ザクッ、ポタ、ポタポタ......


「君も、邪魔するんだね......」

「邪魔ではない!!100年来共に戦ってきた仲間を、親友を、助けない阿呆がどこにいる!!」


 肋は折れ、全身傷だらけになりながらも構えた聖槍の切っ先を、少年悪魔の方に向けるルイーズ。

 そしてそれを、憎らしげに見つめる少年悪魔。


「......いつもそう、綺麗事しか言わない......!! 《インフェルノ·バレット》!!」


 キィィン!!


「ぐ、」


 ガッ、ズバッ、ガッキィィン!!!!ドーンッ


「ごふっ......」

「......もういい、君達まとめて灰になれ「やーーめーーろーー!!!!!」

「......ちっ、どいつもこいつも......!!」


 ルイーズの首を撥ねようとした少年悪魔をとめたのは......望桜であった。


「アスモデウスっ!!お前、何やってるんだよ!!」

「だって、人間はいつも、自分たちに都合のいいことばかり言って、気に入らない奴がいたら、すぐ痛めつけて殺すしっ......」

「そういうことが言いたいんじゃねえ!!お前はあの人に、1代目になんて言われたんだっ!?」

「っ!!」


 横たわり荒い息を繰り返す聖火崎も、聖槍に体重を預けかろうじて立っているルイーズも、主を必死に治療しようと自身の魔力が尽きてもなお最善を尽くす或斗も、皆望桜の必死な演説に耳を傾けた。

 いつの間にか合流していた的李、鐘音、太鳳も同じく、結界の維持でふらふらになった体で、耳を澄まして聞いていた。


「ただの文献で読んだだけの俺より、より詳しく、より鮮明に覚えてるはずだっ!!1代目は、何がしたくて8000年前、お前を軍をあげて、大きな損害をだしながらも仲間に引き入れたんだっ!?」

「っ、それは......」


 ───『アスモデウス、俺はこの軍を率いる魔王として、お前に力を借りたい、そう思ったから仲間にしたんだ』


『お前は下界にも、"最凶の爆炎獣"で名が通っているだろ?そして俺達は"世界征服"を試みようとしてる。でも俺は、暴力に頼る征服じゃなくて、平和な世界征服がしたいんだ。そしてお前が魔王軍にいれば、お前の火力を見せるだけで、殺されたくない奴は味方に入ってくるだろう。一見は結局脅しみたいなもんだが、裏を返せば誰にも怪我させずに征服できるってことだ』


                                     『だから、これからよろしく頼むぞ!』─────────


「っでも結局、失敗したよ!!結局暴力に頼る羽目になったしさ!!」

「だから魔王軍は1代目が失敗したら2代目が、2代目が失敗したら3代目がってやってきたんだろうが!!!それに人間から攻撃してきて、それを防いだ結果のあれなんだろ!!」

「でも今までの8000年で成功したことなんて、1度もない!!」

「そーれーでーもー!!!魔王軍はやり続けるんだよ!!!世界をひとつにまとめる為に!!!」


 望桜と少年悪魔の必死の言い争いが続く。それは子供同士の喧嘩ようでありながら、世界の命運を、一応かけた争いであった。

 そしてその言い争いの最中、少年悪魔の身体中に広がっていた紋様が、薄くなり始めた。


「魔法が......解けていってる......だと......?」

「信じ......られない......」

「っ、しっかりしろジャンヌ!!」

「失敗ばっかりなのに、どうしてそんなに続けようとするの !!?」

「それは!!、今ここに居る奴らならできるって、信じてるからだよ!!!」

「っ......なんでそんなに、盲目的に信じて......られる?」

「......自分のことを純粋に信じてくれてる奴らを信じるのに、理由がいるのか?」

「......っう、ううう......」


 ────『俺の軍には、本当に最悪で最高に楽しい奴らばっかりだろ!』

『うん。まだ殺戮より面白いこと見つけられてないけど、つまらなくはないし、僕はいいと思う、かな』

『そうか!ならいいじゃねえか!!俺の軍は、純粋で楽しいやつらばっかりだからな!!』

『ほええー、つまり純粋なら、互いに信じあってるってこと?』

                                                 『まあそういう事だな!!』────────────


 ポタ、ポタポタ......


 少年悪魔の、アスモデウスの瞳から、涙が頬を伝って滴り落ちた。


「......本当は誰かに、大丈夫って声、かけてもらいたかっただけなんじゃないんですか?」


 リストレイント·コントローラーが完全に解け、いつしか詠唱によって解除されていたリミッターも元に戻った少年悪魔は、完全に魔力がなくなってしまった為、悪魔体を保っていられなくなったらしい。

 和装こそ変わらないものの、痛々しかった角と尻尾、機械翼も今はしまわれており、もうただの少年の姿だ。


 そしてその場の空気中の魔力濃度が下がっため目を覚ました帝亜羅が、そっと声をかけた。


「帝亜羅ちゃん、いくら人間に恨みがあったとしても、あいつは貴方の腕を切り落としたし、壱弦聖邪戦争の時、160万人の命を奪ったのよ?」


 神気による恐るべき回復能力で、既に血は止まり、さながらただの軽傷しか負っていなかったかような様子で帝亜羅の元に駆け寄り、腕の様子をみる聖火崎。


「......そうかもしれません、聖火崎さん。でも、アスモデウスさんがやった事の取り返しがつかないように、下界?の人達がアスモデウスさんにやった事、アスモデウスさんの心につけたトラウマも二度と癒えないし、取り返しもつかないと思うんです」

「帝亜羅ちゃん......」

「帝、亜羅......?」


 帝亜羅の話にもまた、耳を傾けた勇者と少年。勇者は同種族のやった事、詳しくは知らないが、幼い頃の聖火崎は禁書庫で目にした事があった。......人間が生み出した悪魔の観察誌。中身は知らないが、恐らくは......


 そして少年は帝亜羅の話を聞いて、顔を上げた。過去のトラウマ......今もなお、魔王軍最高火力と"空天の覇者"と呼ばれる程になっても、未だ生まれ故郷のある人間界西方には立ち入ったことがない。立ち入ることが出来ない。怖いから。


 ......昔の事を、弱かった自分の事を、そして何より力にだけ頼ることしか知らなかった自分を早く忘れたいから。


「でも、取り返しがつかないから何もしない、じゃなくて、やった事を忘れずに生活していけばいいと思うんです。ほんと、忘れずに今を楽しんでください。そしたらいつか、自分が狩り取っちゃった命が、まだ続いてたらこんなことしてたのかも、こうやって色んなことして楽しんでたかもって思うんじゃないでしょうか......あ、私個人の意見ですけど......ちょっと綺麗事すぎますよね......」


 長くなってすみません......と申し訳なさそうに小声で呟く帝亜羅。言っていることは確かに綺麗事だが、随分立派なことを言う子が居るものだなと感心する聖火崎とルイーズ。

 望桜は、申し訳ないけど攫われたのが帝亜羅ちゃんで良かった、と心から女子高生に感謝した。

 的李と鐘音はあまり興味が無いようだが、それでも帝亜羅の言ったことをしかと心に刻んだ。

 魔力を使い果たした事から来る疲労の所為か、いつの間にか眠ってしまっている或斗。

 その原因となった瑠凪は、まだ万全ではないが傷が直されており、それも知らずに共に眠っている。こちらは血液不足からくる眠気のようだ。

 その様子を微笑ましそうに眺める太鳳は、急にハッとして帝亜羅の落とされた腕を拾ってきて、精霊術で繋げようと頑張っている。


 ......そして少年......アスモデウスは、未だ驚いた顔で帝亜羅の話の内容を、心の中で繰り返していて、


「......はは、こんな人間も居たんだね。望桜、帝亜羅、......ありがとう。......とと、そろそろ、限界......みたい......」


 そう言って意識を失い、ふらりと後ろに倒れた。


「......はいっ!!繋がったよ~帝亜羅ちゃん!!」

「わっ!!太鳳先輩、ありがとうございます!!」

「あー......本気で疲れた......あるきゅん達おぶって帰るのか......面倒くさっ!!あるきゅん起きて!!」

「んぅ......なんだこんな夜更けに......夜食は食うなよ......zzz」

「夜更けじゃないよー!!起きてー!!」

「太......鳳......?どしたの......?うっ、寒い......」

「あーるったん!!大丈夫!?119!!119しないと!!」

「輸血が必要だろうな......あっ、帝亜羅ちゃん、大丈夫か?」

「はい!大丈夫です!!腕も治りましたし!!」

「ほえー、精霊術ってすげえな!!」


 各々市役所の屋上にて覚醒(1部除く)し始める。そんななか、聖火崎が帝亜羅の方に近づいて、声をかけた。


「帝亜羅ちゃん」

「どうしたんですか聖火崎さん?」

「 《スリープ》」

「えっ......zzz」

「 《イレース·メモリー》」

「......望桜、帝亜羅ちゃんの記憶を消したわ」

「おう、さんきゅーな」

「あと、その......今日は、ありがとう......助かったわ」

「まあ、部下の始末は上司がつけるもんだからな!」

「面識がねえ!!とか言ってたくせに......」

「ああ!?お前だって下界で今1番権力があるのは俺だって言ってたじゃねえか!!」

「それとこれは別よ!!まだ14代目がいない今、1番最近まで権力をふるってた貴方が偉いのは当たり前よ!!」

「そーいうものかぁ......」

「「......それで、その迷惑をかけてくれた悪魔は......」」


 すー、すー......と規則正しく幸せそうな寝息をたてて眠っている。そしてそれを見て中性男子コンの変態元魔王は......


(めっっちゃ可愛い!!すー、すーって、戦闘中とのギャップ!!なんだこれ!可愛いがすぎるぞ......!!にしても1代目は尊敬されてて、現役の時から面識あるんだよな......くっっそ!!俺も現役の時あってれば、魔王の権限とかであんなことやこんなこと......ぐふふ(ry  )


 真面目な顔で立っているが現在、頭の中はお花畑である。


「......1......代目......様......そこは......だめ......です......よ......」

「......しょ......うがない......でしょ......い......やし......てあげ......るん......だから......」


(どんな寝言だよ!!何したんだよ1代目!!羨ましい!!!!瑠凪と或斗を好きなようにしたのか!!)


 盛大な早とちりである。生憎、望桜はマジの頭がお花畑野郎だ。末期である。


「なんか、考えてることが分かるから嫌だわ......」

「あ?何の話だよ!!」

「な、なんでもないわ......」


 唯一、考えてることを察した勇者は、後に仲間になんか、引いたとだけ語ったという。いつ手を出すか分からないから。でも敵軍の恋愛(?)事情は知らないと2人の中だけで留めたという。



 ───────────────To Be Continued



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