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一章

13 (フリスト 追憶)

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 俺はこの国の生まれではない。 そもそも、この国には獣人などあまりいない。

 幼い頃から、それなり見目はよかったせいなのか…。
 幼かった俺は、心無い大人に拐かされて、隷属の魔石を腕に埋められた。

 裕福でも無かったが、幸せだった家族との生活から切り離され、貴族のペットのような生活を過ごすことになった。

 心はついて行かず『魔石さえなければ…。

 完全獣化すれば、この環境から逃げられたかもしれないのに!』

 心で、いつもそう思っていた気がする。

 逆らおうとすれば、魔石の強制力で、無理矢理に体と心の動きは捻じ曲げられた。
その上、鞭で打たれる生活に、俺の心は日に日に何も感じられなくなっていった。
 生きながらにして、死んでいくようだった。


 幼いのに慈悲深く、とても強いあの方に救われるまでは…。

 救われたあの日から、俺は強くなる為に、この屋敷の騎士の先輩に剣術を教えてもらい、強くなろうと努力した。

 恩人であり、家族と引き離された俺の、家族になってくれたオルルーン公爵家の皆のおかげで今の俺があるんだと思える。


 そんな日々を、過ごしていたある日、衰弱した少年をスクルド様が拾った。

『昔の俺のようだ…。 人が自分に手を、差し伸べてくれるわけがないと、諦めている瞳をしている』

 だから俺は、動けない彼を小脇に抱え、強引に運ぶことにしたのだが…。

 今思えば、衰弱した体に酷な事をしたな、おんぶしてやれば良かったかなと思ったのは、サーフェスには伝えてやらない。

 あの時にもし、お姫様抱っこしてやってたら、あいつの後々の反応も、面白そうだったけどな。

 サーフェスは、お嬢様の為に、寝る間を惜しんで、剣術や魔術に力を入れている。

 もちろん、足手まといにならない為の、知識やマナーもだけど。 そこは俺も見習わなくてはと、思いつつ苦手なのだ…。

 彼は、最初はできなくても、努力と地道な鍛錬で、どんどんとハミルンギア様と俺の教えることを、吸収していく。

 俺達もそれが楽しくて、ふたり揃ってスクルドにたまに愚痴られている…。

 彼の努力が、お嬢様の守りになるんだから、俺達は聞かないふりをする。

 二人は意識し合ってるようで、自分達では全くと言っていい程、気づいていない。
どうなる事やら。


 彼らが一緒になれる未来、そんな道筋があれば良いのにな。

 いつかそんな道行きを、見つけてやれたら良いのにな。


「従者が同席するなど!!」

 …と辞退したサーフェスを、無理やりティータイムの仲間に入れ、にこやかにお茶をしているスクルド。

 見慣れた俺らにしかわからな程度に、サーフェスは頰を染め緩やかに弧を描く。 そんな彼らの姿を横目に、俺はいつもそう願うのだ。

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