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はじまり

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めいちゃん、きちんとシートベルトをつけてね」

「うん。お母さん。ちゃんとつけたよ。文鳥さん、あまり疲れないように箱を平らに……。心がけが大事……」

 何やら自分に言い聞かせるように、つぶやいている。 

 二人連れが、そんなやり取りをした後に、何やら振動を感じる。しかもたぶん箱を持ってるやつが、めいと言うのか。
 斜めにならない様に、気をつけているようだが、箱が斜めになりズルズルと下へとすべり落ちる。
 タンタンタン…、カサカサと、音を立てながら、箱の中をジャンプして移動し、足場がいいであろう場所に移動する。

「もう少しの辛抱だから我慢しててね。もう少しでお家に着くよ」 

 あおに語りかける様に、優しい声音に威嚇しかけたくちばしを噤む。

『まぁ仕方ねぇか。少しなら我慢してやるか…』

 パッと見、ただの文鳥に過ぎないあおに、そんな事を思われていたなんて、めいと言う少女は知らない。


 目的地についたのか、続いていた振動は、やんでいた。その代わりに、箱を持って、移動しているのか揺れが変わった。


「文鳥さん~っ。到着したよ~!」

 めいと呼ばれた少女だろうか。元気に声をかけてくる。
 振動がやみ、どこか硬いところに置かれた様な感覚が、あおを襲う。

 ゆっくりゆっくりと、紙で出来ている箱を開けているらしく、少しずつ光量が増えてきた。

『今だ!』

 そう思いとびだしたのは、明るいキッチンの1室だった。

 隙きを見て、ここから逃げてやるんだ。そういう思いが強かったからか、人の手が届きにくい、上部の棚の上に身を潜めた。

「こっちへおいでよ~。怖い事しないから」

 年若い娘? の方が、なにか足場に乗り、声をかけながら手を伸ばしてくる。
 捕まりそうだと反射的に身体大きく見せる為に、くねくねと小さな体を揺らしながら、「きゃるるるるぅ」と、威嚇をする。嘴の先で咬みつき、渾身のひねりを入れる。

「いてててて…。そんなに怖かった? ごめんね。すごく驚かせたみたいで……」

 咬みついたその手に、嫌な事をされると覚悟をしていたあおは、その心配の滲んだ声と優しい手つきに動揺し、少し咬む力を弱めた。

「ごめんね。到着してすぐだし、驚いたね。大丈夫…大丈夫だから…」


 動揺に追い打ちをかける様に、優しく手のひらで包まれたその背中をなだめる様に撫でられた。
 初めての感覚に、思わず身を委ねてしまう。

「あのね、私今度ね、高校生になったの。すごくワクワクする半面、とっても不安なの。だから、君をお迎えしたんだよ? すぐには無理かもだけど、仲良くなりたいね。これから宜しくね」

 そう言って、彼女は何故だか儚く感じられる笑みを浮かべた。

 こうしてあおは、本鳥にとっては不本意であったが、本来の姿を晒すことなく、小鳥遊たかなし家にお邪魔する事になった。

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