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本編

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「レイの世界の牛舎と鶏小屋のイメージを見せて貰えないだろうか」

「これから酵母を作りに行こう!」

 そうわくわくと、厨房へと向かっていると、お父様に呼び止められた。

「レイスに動物を召喚してもらうのに参考にしたくてな」

 あんまり詳しくないですよと念を押し、餌の保管、牛の飲む水、飼い葉の与える場所のイメージを伝える。

「参考になったよ。世話する人とか、小屋が完成したらまた教えてくれ」

 そういうやり取りの後、その場を立ち去って行った。

 うわ~…。牛とか鶏買う事決定か。でもアイスクリームメーカーが出来たら、チョコやイチゴ味のものも作りたい……、ってカカオあるのかな。それはそれで楽しみ。

 レイス様は、植物は召喚出来ないのかしら。お米も食べたいし、探して貰えたらいいな。

「考え事?」

 レイス様が悪戯が成功したかの様に笑い言った。

「厨房にまたいくんでしょう? 僕も一緒に行くよ」

 行こう? とでも言いたげに、微笑むと私の手を掬い上げ、手を繋いで歩いていく。

 や……、無理無理。恋人でもない人と手を繋ぐなんて……。

 あわあわとした私に気がついたように「いや?」と聞かれては、もうこのままついて行くしかなかった。

「あら、厨房に行くの?」

「は…、はい! レモンで酵母を作りたいので! 日数がかかるから、今のうちにやっとこうかなって思いまして…」

「そういえば、時間がかかるのよね…。手伝える事がありそうだわ。仲のいい二人には邪魔かしら」

 なんて妖艶な笑みを浮かべるお母様。この家の人にはかなう気がしない……。

「そんなこと言うと、レイが照れちゃうでしょう!」

「そういうレイスも心做しか顔が赤いわ~、ふふっ」

「母上~…」

 恨みがましい声で、それだけ呟くレイス様。普段は格好いいのに今はなんだか可愛らしい。

 二人と一緒に厨房に行くと、普段来ないお母様の登場に、ラフェルさんもミランさんもクレイさんもファルトさんも、ただただ困惑しているみたいだった。
他の下働きの様な料理人さんも、言うまでもなく戸惑っている。

 ついてきたものは仕方ないので、開き直って瓶を出す。手を洗いレモンの皮を剥いて、白い薄皮を丁寧に剥がしていく。

 包丁でレモンをスライスすると、蜂蜜をもらい蜂蜜レモンを作る要領で、消毒をしてもらった少し大きなな瓶に詰めていく。

「これで5日程上下にひっくり返しながら、置けば酵母が出来ると思います。せっかくお母様に来ていただいたので、パンチェッタの時間を5日程進めて頂くことは出来ますか?」

「良いわよ、5日くらいね」

 そういうとパンチェッタに手をかざし、何やら呪文を唱える。

 パッと見の変化はよくわからなかったけど、熟成させてなくても美味しいので、味見分だけ水で洗い流し、一口サイズにして、フライパンで焼く。

「脂身から出た油を使って目玉焼きとかも美味しいんですよ!」

「食べてみたいわ!」

「うん! 今度作って欲しいな」

 2人にねだられ、近々作ろうと思った。

「ハチミツレモン? とか言うのの方は時間進めなくていいのかしら?」

 申し訳ないので自然につくろうと思ってたけど、お言葉に甘える事にする。

「大体5日くらいでシュワシュワとしだすはずなんですが…、お願い出来ますか?」

 そういうと、蜂蜜レモンだった代物が明らかに泡立ち始める。

「おぉ! すごい!」

「役に立ったみたいで良かったわ。今日は時間があるから、レイちゃんの作業を見てるわ。また何かあったら言ってね」

 時短の魅力に負けて、パン作りの発酵時間を早めてもらったりしつつ、パンの生地を作ってしまった。
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