(本編完結)悪夢の狭間と夢のつづき

皇ひびき

文字の大きさ
上 下
14 / 17
番外編

2 (紅葉 視点)

しおりを挟む
 仕事の仕入れの関係で、車で取引先を訪ねた帰り道。狐くんとからすくんを脇道で見つけた。
雄か雌かは詳しくないので、便宜上そう呼ぶ。

 狐くんの方は意識を失っており、近づいてみるけどからすくんは、騒ぎもせずに、私を見ていた。

 言葉を発したところで、通じる訳はないのに。

「この子を看病したいの。家に連れて行っていいかしら? それに心配なら貴方もついてくる?」

 そう言って狐くんを抱き上げると、狐を車内に寝かせる。
 余程疲れていたのか、それとも弱っていたのか…。狐くんは目を覚まさない。

その後からすくんの様子を伺っていると、タンタンタン……。ジャンプをする様に、両足でこちらに歩いてきた。跳んできたと言うのが正しいのかな。そうして、狐くんの脇へと乗り込み、心配そうに狐を見つめていた。
 それが私と彼らとの出会いだった。


 ネットで調べた食材を与えても、からすくんは心配そうに狐くんを見ているだけ。君もお腹空いてるだろうに…。

 意識を取り戻した狐くんに、少し蒸したささみをあげた。

 クンクンと匂いを嗅ぎながら、食べても平気なものかと様子を伺っている感じか。

「変なモノ入れてないのにな~…」

 つい溢すと、意を決めた様に狐くんもからすくんもあげたささみを食べ始める。


 つい私は亡くしてしまった、かつての友達を思い出し、狐くんを撫でる。

 警戒心の強い狐くんは、私の事を咬んで流血させはしたけど、警戒していない時に不意に触ると、咬まれても仕方ないのかもしれない。特に食事中は反射的に動いてしまうみたいだし…。

 かつての友達が触っても咬まなかったので、完全に油断していた気がする。

『そりゃあ、そうよね…。いくらあの子に似ていても、あの子が帰って来たわけではないもの…』

 少しずつ仲良くなって、『このまま一緒にいられたらいいのに』そんな叶いもしないとわかっていることを、願ってしまう私がいた。

 あの子は生を全う出来なかった。けれど、あんな事が起きなければ、別れの時は違う意味で、もっと悲しかったと思う。


 そんな時に彼らがあやかしだとわかった。

 彼らは私を置いて行ったりしないのね…。いつか逆に私が彼らを置いて逝くのかもしれないけど…。

 天寿を全うすれば、きっとそういう事だろう。私は妖怪が怖いというよりも、いつか喪うのが怖かったからか、恐怖感よりもずっと同じ時を生きてくれる存在として、すとんと受け入れてしまった。

 他に迎えたほむらやちゃんや琥珀こはくくんや銀くんとも、いつか死という別れは来るのだろう。

 でも、きょうくんや紫雫しずくくんが同じ悲しみを背負い、一緒にいてくれるなら、私は、そんな日々も悪くないと思えた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧乏神の嫁入り

石田空
キャラ文芸
先祖が貧乏神のせいで、どれだけ事業を起こしても失敗ばかりしている中村家。 この年もめでたく御店を売りに出すことになり、長屋生活が終わらないと嘆いているいろりの元に、一発逆転の縁談の話が舞い込んだ。 風水師として名を馳せる鎮目家に、ぜひともと呼ばれたのだ。 貧乏神の末裔だけど受け入れてもらえるかしらと思いながらウキウキで嫁入りしたら……鎮目家の虚弱体質な跡取りのもとに嫁入りしろという。 貧乏神なのに、虚弱体質な旦那様の元に嫁いで大丈夫? いろりと桃矢のおかしなおかしな夫婦愛。 *カクヨム、エブリスタにも掲載中。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

海の見える家で……

梨香
キャラ文芸
祖母の突然の死で十五歳まで暮らした港町へ帰った智章は見知らぬ女子高校生と出会う。祖母の死とその女の子は何か関係があるのか? 祖母の死が切っ掛けになり、智章の特殊能力、実父、義理の父、そして奔放な母との関係などが浮き彫りになっていく。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

処理中です...