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 紅葉もみじさんに警戒している、ほむら達を説得しながら、彼女が持ってきた蒸した鶏肉を目の前に出す。


 紅葉もみじさんも少し離れた所で様子を見ている。

「私が近くにいると食べづらいよね~」

 そう言いながら、俺に鶏の胸肉を渡すと、かなり離れた場所にしゃがみんで、様子を窺ってるのが、彼女らしいというかなんというか。

『彼女の料理は俺も紫雫しずくも食ってるけど、変なモノは入ってないよ。ここの野菜とか、人間のテリトリーで奴らが嫌がる事をしなければ俺達も、お前達もココに置いてくれるってさ』

 キュウウ~と小さく唸ると、ほむら達はお腹を空かせていたみたいで、自分たちの前に置かれた皿に乗っている鶏肉に食いついた。

「美味いか? 良かった…。お前達が無事で…」

 兄さん達は、なんとか生き抜けるだろうと思ってたけど、こいつ等は人間に化けてやり過ごすことも出来ない。

 最後まで見届けたかったけど、彼らの生活を圧迫したくもない。別れを選んだのは苦渋の選択だったと今でも思う…。

 彼らの食事が終わった頃…。

「もふもふ…。可愛い……。撫でたい…」

 しょんぼりとした呟きが、遠くから聞こえてきた。

 はぁ~…、ため息ひとつつくと狐の姿へと变化へんげする。

「こいつらにはまだ警戒とかあるだろうし、酷なんで俺で勘弁してやって…?」

きょうくん、優しい! 紫雫しずくくんも撫でていい? お疲れ様の気持ちも込めて!」

 俺達が大人しく撫でられていると、おもむろに紅葉もみじさんは立ち上がる。

「せっかくきょうくん、綺麗な毛並みなんだし、ブラッシングもしたい! ブラシも持ってくる!」

 そう言って、足早に裏口のドアへと消えていった。

『あの人…、あんまり怖くないだろ? 俺が警戒して噛みついても、怒らなかった。俺も紫雫しずくも、あやかしだってわかってもあんな感じのままなんだ…』

 キュウウ~……そう小さく鳴くと、帰ってきた紅葉もみじさんにほむら達が鼻を寄せる。

 まだ警戒は完全には解けてないだろうけれど、恐怖心を抑えながらも少し歩み寄ろうとしてくれたのだろう。

「ありがとう。嬉しいよ。でも無理しないでね? ゆっくり仲良くなれたらそれで嬉しいから!」

 そう言って笑う紅葉もみじさんに、合流したばかりの狐達は小さく首を傾げた。

 近い未来、皆で仲良く過ごせたら幸せだなと思う。

 紅葉もみじさんの撫でテクとブラッシングに、いつも通りにうっとりと骨抜きになる俺と紫雫しずくを見て、自分達にもやってとほむら達が行動しだすのに、そう時間はかからなかった。
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