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第3章
外面のいい男1
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慌ててお母さんが僕の畳んである衣服を大きめのバッグに回収し、チャックを閉める。
先生はぼくが使っていたクッションを戸棚へ隠し、「犬伏くん、段ボールの名簡易隠れて」と小声で言う。
ぼくはベッド下の段ボール箱の中へ入り、内側の紐を口で引っ張って出入り口の扉を閉じた。そのまま息を殺して隼人に感づかれてしまわないかとドキドキする。
渡辺先生がドアを開けると隼人が保健室へ入ってくる足音がする。なんで、まだ授業の時間のはずなのに……保健室にやって来るんだよ!?
「穂積くん、どうしたの? 具合でも悪いのかしら?」と先生が訊けば、隼人が「違います」と答える。
「渉のやつのことが心配で見に来たんです。俺の運転したバイクに酔ったみたいなんで」
「あら、恋人の様子を見に、わざわざ教室から抜け出してきたってこと?」
「恋人じゃありません。後、ズルして教室から出てきたわけでもないです」
キッパリと隼人が言い切る。
じゃあ、なんでここにいるんだよ? と思っていれば、「一時限目は英語で統一試験やセンターなんかの過去問演習だったんです」
「穂積くんは獣医希望だったものね。英語も必須かしら?」
「はい、そうです。得意中の得意科目です。満点を出してきたました」
「ああ……そう。それはすごいわね」
隼人のやつ、自慢してるわけ!? とぼくの怒りのボルテージが、があっと一気に上がる。
バイク屋をやっているおじさんは、バイクに乗るのが趣味なおばさんと意気投合して結婚した。
おばさんは小児科医の先生だから隼人の家は、金持ちのほうである。
その関係か隼人は子供の頃から英語塾に通っていて英語がペラペラに喋れる。海外の観光客の人に場所を聞かれたり、バスの時刻とか、電車の乗り換えなんかを聞かれても、日本語で喋っているときと大差なく英語で喋るのだ。
身振り手振りをしたり、スマホの翻訳アプリで四苦八苦してるぼくとは大違い。
おまけに洋書なんかも読んでいて一部の女子からは「図書室の王子様」なんて呼ばれて注目されている。
こっちは英語でガヤ入れるときリテイクしまくり。ジャパニーズ・イングリッシュアウトなんて言われるのに……。
人間のときなら笑顔で流せることが、犬になっているせいか流せない。ううっと低く唸りたい気分になるが、ここで姿を見られたら厄介なことになると自分に言い聞かせて、我慢する。
「そのまま自習で言いと先生から言われたので、『渉の様子を五分だけ見て来ます』と伝えて教室から出てきたんです」
「さすが優等生くん。ビックリだわ」
「ありがとうございます。おい、渉。いつまでグーグー寝てるんだよ」
いきなり仕切り用カーテンをしゃっと勢いよく開けられて、ぼくの心臓はドキ! として口から飛び出しそうになる。
「あれ? おばさん、どうしてここに……」と隼人が戸惑いの声をあげる。
「あー……久しぶりね、隼人くん。こんにちは」
「はい、お久しぶりです。こんちは。あいつ……具合悪いんですか?」
「え、ええ、そうなのよ。渡辺先生から『お腹が痛い』って喚いてるって連絡があったから、迎えに来たの。早退よ。きっと夜中にこっそり夜食でも食べたんだわ。声優の仕事でストレスが溜まっているみたいだから。生のラーメンをバリバリ頬張ったのかも!」
(お母さん、違う! 確かにヤケ食いしたのは確かだけど、それは仕事とダンスレッスンでお腹が減っただけ。声優の仕事は楽しいんだよ)「キャン、キャン、キャン!」
あっと思って口をつぐんだがもう遅い。勢いあまって鳴いてしまった……。
「あれ? なんで犬の声が……?」
訝しむような声を出して隼人が保健室の中をうろつき始める。
心臓がバクバクして、体が勝手に震え始める。
「気のせいじゃない? 隼人くん、わたしは何も聞こえなかったけど……」
「いいえ、おばさん、空耳じゃありません。確かにあれは犬の声でした。声からして小型犬か中型犬?」
「ほ、ほら、あれよ! 学校の近くに住んでいる北島さんちのおじいちゃん! あそこのおうちのワンちゃん、日がな一日鳴いているでしょ。この時間は、お散歩の時間だし!? 今日は一年生がサッカーの授業をしているから『参加したい!』って思ってグラウンドで鳴いているんじゃない?」
先生がどうにかして隼人を納得させようとするが、疑り深い隼人は渡辺先生の意見に耳を貸さない。
「そうでしょうか? グラウンドにいる生徒たちの声が聞こえますが、グラウンドの向こうには防球ネットとフェンスがあります。そこを隔てて歩道と車道があるんです。犬がグラウンドに乱入でもしない限り、あんな大きな声は聞こえるはずがありません」
「え、ええ、そうかしら?」
万事休す! このまま見つかっちゃうのも時間の問題!? なんて思っていたら廊下から「キャー!」と女子たちの叫び声がする。
そこで先生が「そうだったわ!」と大げさなくらいに大声で話す。
「隣の視聴覚室ではALTの先生が二年生の英語の授業をしているのよ! なんでもホラー映画を見るとか言ってたわ。ゾンビもので、ワンちゃんのゾンビも出るとか言ってたわね。それで犬の鳴き声がしたんだわ。穂積くん、耳がいい!」
先生はぼくが使っていたクッションを戸棚へ隠し、「犬伏くん、段ボールの名簡易隠れて」と小声で言う。
ぼくはベッド下の段ボール箱の中へ入り、内側の紐を口で引っ張って出入り口の扉を閉じた。そのまま息を殺して隼人に感づかれてしまわないかとドキドキする。
渡辺先生がドアを開けると隼人が保健室へ入ってくる足音がする。なんで、まだ授業の時間のはずなのに……保健室にやって来るんだよ!?
「穂積くん、どうしたの? 具合でも悪いのかしら?」と先生が訊けば、隼人が「違います」と答える。
「渉のやつのことが心配で見に来たんです。俺の運転したバイクに酔ったみたいなんで」
「あら、恋人の様子を見に、わざわざ教室から抜け出してきたってこと?」
「恋人じゃありません。後、ズルして教室から出てきたわけでもないです」
キッパリと隼人が言い切る。
じゃあ、なんでここにいるんだよ? と思っていれば、「一時限目は英語で統一試験やセンターなんかの過去問演習だったんです」
「穂積くんは獣医希望だったものね。英語も必須かしら?」
「はい、そうです。得意中の得意科目です。満点を出してきたました」
「ああ……そう。それはすごいわね」
隼人のやつ、自慢してるわけ!? とぼくの怒りのボルテージが、があっと一気に上がる。
バイク屋をやっているおじさんは、バイクに乗るのが趣味なおばさんと意気投合して結婚した。
おばさんは小児科医の先生だから隼人の家は、金持ちのほうである。
その関係か隼人は子供の頃から英語塾に通っていて英語がペラペラに喋れる。海外の観光客の人に場所を聞かれたり、バスの時刻とか、電車の乗り換えなんかを聞かれても、日本語で喋っているときと大差なく英語で喋るのだ。
身振り手振りをしたり、スマホの翻訳アプリで四苦八苦してるぼくとは大違い。
おまけに洋書なんかも読んでいて一部の女子からは「図書室の王子様」なんて呼ばれて注目されている。
こっちは英語でガヤ入れるときリテイクしまくり。ジャパニーズ・イングリッシュアウトなんて言われるのに……。
人間のときなら笑顔で流せることが、犬になっているせいか流せない。ううっと低く唸りたい気分になるが、ここで姿を見られたら厄介なことになると自分に言い聞かせて、我慢する。
「そのまま自習で言いと先生から言われたので、『渉の様子を五分だけ見て来ます』と伝えて教室から出てきたんです」
「さすが優等生くん。ビックリだわ」
「ありがとうございます。おい、渉。いつまでグーグー寝てるんだよ」
いきなり仕切り用カーテンをしゃっと勢いよく開けられて、ぼくの心臓はドキ! として口から飛び出しそうになる。
「あれ? おばさん、どうしてここに……」と隼人が戸惑いの声をあげる。
「あー……久しぶりね、隼人くん。こんにちは」
「はい、お久しぶりです。こんちは。あいつ……具合悪いんですか?」
「え、ええ、そうなのよ。渡辺先生から『お腹が痛い』って喚いてるって連絡があったから、迎えに来たの。早退よ。きっと夜中にこっそり夜食でも食べたんだわ。声優の仕事でストレスが溜まっているみたいだから。生のラーメンをバリバリ頬張ったのかも!」
(お母さん、違う! 確かにヤケ食いしたのは確かだけど、それは仕事とダンスレッスンでお腹が減っただけ。声優の仕事は楽しいんだよ)「キャン、キャン、キャン!」
あっと思って口をつぐんだがもう遅い。勢いあまって鳴いてしまった……。
「あれ? なんで犬の声が……?」
訝しむような声を出して隼人が保健室の中をうろつき始める。
心臓がバクバクして、体が勝手に震え始める。
「気のせいじゃない? 隼人くん、わたしは何も聞こえなかったけど……」
「いいえ、おばさん、空耳じゃありません。確かにあれは犬の声でした。声からして小型犬か中型犬?」
「ほ、ほら、あれよ! 学校の近くに住んでいる北島さんちのおじいちゃん! あそこのおうちのワンちゃん、日がな一日鳴いているでしょ。この時間は、お散歩の時間だし!? 今日は一年生がサッカーの授業をしているから『参加したい!』って思ってグラウンドで鳴いているんじゃない?」
先生がどうにかして隼人を納得させようとするが、疑り深い隼人は渡辺先生の意見に耳を貸さない。
「そうでしょうか? グラウンドにいる生徒たちの声が聞こえますが、グラウンドの向こうには防球ネットとフェンスがあります。そこを隔てて歩道と車道があるんです。犬がグラウンドに乱入でもしない限り、あんな大きな声は聞こえるはずがありません」
「え、ええ、そうかしら?」
万事休す! このまま見つかっちゃうのも時間の問題!? なんて思っていたら廊下から「キャー!」と女子たちの叫び声がする。
そこで先生が「そうだったわ!」と大げさなくらいに大声で話す。
「隣の視聴覚室ではALTの先生が二年生の英語の授業をしているのよ! なんでもホラー映画を見るとか言ってたわ。ゾンビもので、ワンちゃんのゾンビも出るとか言ってたわね。それで犬の鳴き声がしたんだわ。穂積くん、耳がいい!」
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