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第3章
人になりし獣=獣になりし人1
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ボンッ! と音がしたかと思うとぼくの目線は赤ちゃんのように低くなる。まるでハイハイをしている状況なのに膝を床につかず、足先を床につける。
(ああ……間に合わなかったよ……)
人間だったときのように喋るが、耳に入るのは犬がクーンと切なく鳴く声だけ。
小さくフワフワになった手を見ながら、ベッドへジャンプしようとする。だけど短い手足では難しくて、よじよじと登っている最中に床へ逆戻り。落ちてしまう。
なるべく音を立てちゃいけないのに、ドタン! と体を打ちつけてしまう。
(ううっ、いたーい!)
体をペロペロと舐めて痛みを取ろうとしてしまう。ふとぼくの視界に、ぼくがさっきまで入っていた靴下が目に入る。
あ、まずいと思ったときには遅かった。
ポメラニアンになったぼくは靴下に噛みつき、勢いよく靴下を左右にブンブン振り回したのだ。そして靴下を床にバンバン打ち付け終えるとポイと投げて、遊び始めた。
(ああ、新品の靴下が……そもそも自分の履いた靴下を口の中に入れるなんて……完璧、赤ちゃんと変わらないよ。……ねえ、ぼく、そんなばっちいことはやめようよ)と内心泣きながらも犬になったぼくは、隼人にひどい言葉をかけられ、冷たくされたストレスを発散したいという本能に逆らえない。
もう片方の靴下を見つけると両手で押さえつけ、鋭い犬歯でグイーッと容赦なく引っ張って伸ばす。
――それは十八世紀初頭に起きた。
人間に大切にされ、家族やパートナー、友達と同じように扱われ、愛された動物たちが人間になってしまう。そんな奇跡みたいな現象が世界各地で発生したのだ。
人間と同じ姿になって、同じ時間を過ごしたい。もっと一緒にいたいという動物たちの願いが、なぜか叶えられた。そうして人間の主人を持ち、人間の姿へと変態できる動物たちは「ヒューマン・トランスフォーマー」と名づけられた。
しかしヒューマン・トランスフォーマーを金のなる木と考えて見世物小屋送りにしたり、奴隷として扱ったり、化物として一斉排除する悲惨な出来事が起きてしまったのだ。
だからヒューマン・トランスフォーマーである動物たちのことを愛していた人間は、あらゆる手段を用いて、ヒューマン・トランスフォーマーの存在を隠し、そんなものは最初から存在していなかったと情報操作をした。
そうしてヒューマン・トランスフォーマーは、政府関係者が秘匿している世界規模のトップシークレットな存在へと変わったのだ。
ぼくの家はヒューマン・トランスフォーマーとなったポメラニアンの子孫。だからストレス過多になったり、心が傷つくと、みんなポメラニアンになってしまう。
もちろん、ぼくも、両親も人間としての戸籍を持っている。
でも犬や猫といった人間のそばで生活している動物たちの会話が理解できるし、会話ができる。何より十八の誕生日を迎えるとその日のうちにポメラニアンとなり、十八年間溜めたストレスに応じて一定期間人間に戻れなくなってしまうのだ。
誕生日を迎えた後は人間に戻れるし、ストレスを緩和できるように気をつけながら日々の生活をしたり、坐禅や滝行みたいに精神力とか忍耐力ををつけられるよう対策をとれば人間以外の動物に変態することもない。というか、そうじゃないと困るのだ。
もしストレスがいつまでも緩和されないでいると、いつまでも人間の姿に戻れない。そのうち人間としての理性をなくし、心や知能も人間でなく変態している動物のものになり、永久に人間に戻れなくなってしまうのだから!
変態したヒューマン・トランスフォーマーの子孫を人間に戻すには、心と体を癒す必要がある。
だからぼくが初めてポメラニアンになったときは、人間の姿である両親に赤ちゃんや小さい子供だった頃のように目いっぱい可愛がられることで、人間に戻れた(戻れた後はとてつもない羞恥心に襲われ、二階の自室の窓から飛び降りようとしたくらいだ……)。
一応、渡辺先生やぼくの主治医の先生みたいに、ご先祖様がヒューマン・トランスフォーマーのマスターやパートナーで、ヒューマン・トランスフォーマーを守る守護者をやっている人たちがいる。
ぼくも主治医の紹介で、渡辺先生がいるこの学校に入学することを決意した。
ストレスがひどく、校内で変態化してポメラニアンになってしまいそうなときは、いつも保健室に逃げ込んだ。ぼくは四月一日の誕生日を迎えてから頻繁にポメラニアンになっている。そのせいで事情を知らない人たちからは「声優の仕事と大学入試の勉強で体を壊している」と誤解されている。
本当の原因は隼人なのに――……。
ポメラニアンになってしまったときは、渡辺先生に体を撫でてもらったり、ボールで遊んでもらうことで人間に戻れた。でも段々人間に戻るのにかかる時間が長くなっている。
だってヒューマン・トランスフォーマーは自分を助けてくれる守護者ではなく、自分だけを愛してくれるご主人様や伴侶を求めているから。
でも、ぼくの夢はきっと叶わないだろう。
ぼくを傷つけ、ポメラニアンにする意地悪な隼人に、ご主人様になってほしいと望んでいる。
(ああ……間に合わなかったよ……)
人間だったときのように喋るが、耳に入るのは犬がクーンと切なく鳴く声だけ。
小さくフワフワになった手を見ながら、ベッドへジャンプしようとする。だけど短い手足では難しくて、よじよじと登っている最中に床へ逆戻り。落ちてしまう。
なるべく音を立てちゃいけないのに、ドタン! と体を打ちつけてしまう。
(ううっ、いたーい!)
体をペロペロと舐めて痛みを取ろうとしてしまう。ふとぼくの視界に、ぼくがさっきまで入っていた靴下が目に入る。
あ、まずいと思ったときには遅かった。
ポメラニアンになったぼくは靴下に噛みつき、勢いよく靴下を左右にブンブン振り回したのだ。そして靴下を床にバンバン打ち付け終えるとポイと投げて、遊び始めた。
(ああ、新品の靴下が……そもそも自分の履いた靴下を口の中に入れるなんて……完璧、赤ちゃんと変わらないよ。……ねえ、ぼく、そんなばっちいことはやめようよ)と内心泣きながらも犬になったぼくは、隼人にひどい言葉をかけられ、冷たくされたストレスを発散したいという本能に逆らえない。
もう片方の靴下を見つけると両手で押さえつけ、鋭い犬歯でグイーッと容赦なく引っ張って伸ばす。
――それは十八世紀初頭に起きた。
人間に大切にされ、家族やパートナー、友達と同じように扱われ、愛された動物たちが人間になってしまう。そんな奇跡みたいな現象が世界各地で発生したのだ。
人間と同じ姿になって、同じ時間を過ごしたい。もっと一緒にいたいという動物たちの願いが、なぜか叶えられた。そうして人間の主人を持ち、人間の姿へと変態できる動物たちは「ヒューマン・トランスフォーマー」と名づけられた。
しかしヒューマン・トランスフォーマーを金のなる木と考えて見世物小屋送りにしたり、奴隷として扱ったり、化物として一斉排除する悲惨な出来事が起きてしまったのだ。
だからヒューマン・トランスフォーマーである動物たちのことを愛していた人間は、あらゆる手段を用いて、ヒューマン・トランスフォーマーの存在を隠し、そんなものは最初から存在していなかったと情報操作をした。
そうしてヒューマン・トランスフォーマーは、政府関係者が秘匿している世界規模のトップシークレットな存在へと変わったのだ。
ぼくの家はヒューマン・トランスフォーマーとなったポメラニアンの子孫。だからストレス過多になったり、心が傷つくと、みんなポメラニアンになってしまう。
もちろん、ぼくも、両親も人間としての戸籍を持っている。
でも犬や猫といった人間のそばで生活している動物たちの会話が理解できるし、会話ができる。何より十八の誕生日を迎えるとその日のうちにポメラニアンとなり、十八年間溜めたストレスに応じて一定期間人間に戻れなくなってしまうのだ。
誕生日を迎えた後は人間に戻れるし、ストレスを緩和できるように気をつけながら日々の生活をしたり、坐禅や滝行みたいに精神力とか忍耐力ををつけられるよう対策をとれば人間以外の動物に変態することもない。というか、そうじゃないと困るのだ。
もしストレスがいつまでも緩和されないでいると、いつまでも人間の姿に戻れない。そのうち人間としての理性をなくし、心や知能も人間でなく変態している動物のものになり、永久に人間に戻れなくなってしまうのだから!
変態したヒューマン・トランスフォーマーの子孫を人間に戻すには、心と体を癒す必要がある。
だからぼくが初めてポメラニアンになったときは、人間の姿である両親に赤ちゃんや小さい子供だった頃のように目いっぱい可愛がられることで、人間に戻れた(戻れた後はとてつもない羞恥心に襲われ、二階の自室の窓から飛び降りようとしたくらいだ……)。
一応、渡辺先生やぼくの主治医の先生みたいに、ご先祖様がヒューマン・トランスフォーマーのマスターやパートナーで、ヒューマン・トランスフォーマーを守る守護者をやっている人たちがいる。
ぼくも主治医の紹介で、渡辺先生がいるこの学校に入学することを決意した。
ストレスがひどく、校内で変態化してポメラニアンになってしまいそうなときは、いつも保健室に逃げ込んだ。ぼくは四月一日の誕生日を迎えてから頻繁にポメラニアンになっている。そのせいで事情を知らない人たちからは「声優の仕事と大学入試の勉強で体を壊している」と誤解されている。
本当の原因は隼人なのに――……。
ポメラニアンになってしまったときは、渡辺先生に体を撫でてもらったり、ボールで遊んでもらうことで人間に戻れた。でも段々人間に戻るのにかかる時間が長くなっている。
だってヒューマン・トランスフォーマーは自分を助けてくれる守護者ではなく、自分だけを愛してくれるご主人様や伴侶を求めているから。
でも、ぼくの夢はきっと叶わないだろう。
ぼくを傷つけ、ポメラニアンにする意地悪な隼人に、ご主人様になってほしいと望んでいる。
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