8 / 15
第2章
犬猿幼なじみ4
しおりを挟む
その言葉に胸がざわざわして目の前が真っ暗になる。
「――きみにとっては、そんなことでもぼくにとっては大切な夢で、大好きなお仕事なんだよ」
「え? 今、なんて――」と焦って隼人が訊き返してくる。
普段なら気にならないこともすごく気になって、大したことでないと自分でも思っていることにショックを受ける。
「隼人のバカ! もう……知らない! 当分ぼくに話しかけないで……!」
「は、はあ? なんだよ、渉! おい!」
ぼくは背後で叫ぶ隼人を置いていき、保健室へと向かった。
だけど隼人は、ぼくを追いかけてくれない。だって、ぼくと隼人は本当の恋人同士じゃないから。
ただ、ぼくが片思いをしているだけ。
あいつは、ぼくのことなんてなんとも思ってない。高坂さんや竹内くんのように心配してくれない。
それくらい、ぼくのことなんてどうでもいいんだ。
最初からわかっていたことなのに、すごく傷ついて、無性に泣きたくなる。目頭が熱い。
保健室のドアをノックすれば、養護教諭の渡辺先生がドアを開けてくれた。
「あら、犬伏くん。また具合が悪くなっちゃったのね」
「いつも、いつもすみません……先生」
ぼくはもういっぱい、いっぱいになって胸の辺りを搔きむしるようにして荒い呼吸を繰り返す。心臓が壊れてしまいそうなくらい痛くて体が熱い。
「大丈夫よ」と先生が、ぼくの肩をぽんぽんと叩く。「中には誰もいないわ。窓の鍵も掛けてある。あなたは真ん中のベッドで眠って。わたしが鍵を掛けたら急いで服を脱ぎなさい。服は、いつもの籠に入れてベッド下に隠すのよ。わかってるわね?」
「はい……」
「九時には、ほかの子たちも動き出すわ。もしダメなら――」
「ベッド下の段ボールの中に隠れること……」
「そうよ、絶対に悟られちゃダメ。わたしもすぐに戻って来るから」
首を上下に振りながら、先生が保健室のドアを閉じ、鍵をガチャリと掛ける音を合図にぼくはベッドのほうへ急いだ。
アイボリーカラーの仕切り用カーテンを勢いよく引いてリュックをベッドの下に隠す。ブレザーのボタンを外して脱ぎ、ネクタイを籠に放り込む。ワイシャツのボタンを外し、ベルトをスラックスから抜く。ズボンを脱ごうとした――が、タイムオーバーだ。
間に合わなかった。
「――きみにとっては、そんなことでもぼくにとっては大切な夢で、大好きなお仕事なんだよ」
「え? 今、なんて――」と焦って隼人が訊き返してくる。
普段なら気にならないこともすごく気になって、大したことでないと自分でも思っていることにショックを受ける。
「隼人のバカ! もう……知らない! 当分ぼくに話しかけないで……!」
「は、はあ? なんだよ、渉! おい!」
ぼくは背後で叫ぶ隼人を置いていき、保健室へと向かった。
だけど隼人は、ぼくを追いかけてくれない。だって、ぼくと隼人は本当の恋人同士じゃないから。
ただ、ぼくが片思いをしているだけ。
あいつは、ぼくのことなんてなんとも思ってない。高坂さんや竹内くんのように心配してくれない。
それくらい、ぼくのことなんてどうでもいいんだ。
最初からわかっていたことなのに、すごく傷ついて、無性に泣きたくなる。目頭が熱い。
保健室のドアをノックすれば、養護教諭の渡辺先生がドアを開けてくれた。
「あら、犬伏くん。また具合が悪くなっちゃったのね」
「いつも、いつもすみません……先生」
ぼくはもういっぱい、いっぱいになって胸の辺りを搔きむしるようにして荒い呼吸を繰り返す。心臓が壊れてしまいそうなくらい痛くて体が熱い。
「大丈夫よ」と先生が、ぼくの肩をぽんぽんと叩く。「中には誰もいないわ。窓の鍵も掛けてある。あなたは真ん中のベッドで眠って。わたしが鍵を掛けたら急いで服を脱ぎなさい。服は、いつもの籠に入れてベッド下に隠すのよ。わかってるわね?」
「はい……」
「九時には、ほかの子たちも動き出すわ。もしダメなら――」
「ベッド下の段ボールの中に隠れること……」
「そうよ、絶対に悟られちゃダメ。わたしもすぐに戻って来るから」
首を上下に振りながら、先生が保健室のドアを閉じ、鍵をガチャリと掛ける音を合図にぼくはベッドのほうへ急いだ。
アイボリーカラーの仕切り用カーテンを勢いよく引いてリュックをベッドの下に隠す。ブレザーのボタンを外して脱ぎ、ネクタイを籠に放り込む。ワイシャツのボタンを外し、ベルトをスラックスから抜く。ズボンを脱ごうとした――が、タイムオーバーだ。
間に合わなかった。
10
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説

それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。
まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。
転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。
ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。
「本当に可愛い。」
「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」
かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。
「お願いだから、僕にもう近づかないで」
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか
Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。
無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して――
最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。
死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。
生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。
※軽い性的表現あり
短編から長編に変更しています
忘れられない君の香
秋月真鳥
BL
バルテル侯爵家の後継者アレクシスは、オメガなのに成人男性の平均身長より頭一つ大きくて筋骨隆々としてごつくて厳つくてでかい。
両親は政略結婚で、アレクシスは愛というものを信じていない。
母が亡くなり、父が借金を作って出奔した後、アレクシスは借金を返すために大金持ちのハインケス子爵家の三男、ヴォルフラムと契約結婚をする。
アレクシスには十一年前に一度だけ出会った初恋の少女がいたのだが、ヴォルフラムは初恋の少女と同じ香りを漂わせていて、契約、政略結婚なのにアレクシスに誠実に優しくしてくる。
最初は頑なだったアレクシスもヴォルフラムの優しさに心溶かされて……。
政略結婚から始まるオメガバース。
受けがでかくてごついです!
※ムーンライトノベルズ様、エブリスタ様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる