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第2章
犬猿幼なじみ2
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バイクに乗っているときは心臓が爆発するんじゃないかってドキドキして、隼人ともっと一緒にいたいな、もっとくっついていたいなって思った。その気持ちが、穴が空いて、中に入っていたヘリウムガスや空気が全部抜けてしまった風船のように、しぼんだ。
逆に僕以外の人と話して笑顔でいる隼人の姿を見ていると、どんどん悲しい気持ちが膨らんで、ひとり置き去りにされた子供のような気分になる。
今すぐ、さっきの言葉や態度を謝って、バイクに乗せてくれてありがとうってお礼を言ったほうがいい。そんなことは百も承知だ。
だけど、また隼人に声優をやっていることを口出しされるかもとか、可愛くないって言われるんじゃないかって思うと何もできなくなってしまう。
そんなことを考えて、下駄箱からこっそり彼らの様子を観察していれば、高坂さんと目が合ってしまう。
急いで階段のほうへ向かおうとするが「あー、犬伏くん。おっはよー!」
元気いっぱいな彼女がこちらのほうへ駆けてくる。
「あっ……おはよう、高坂さん」
「そんなとこで何してんの、かくれんぼ? バスの子たちはもう教室向かったし、もしかして――ホズミンと一緒にバイク登校!?」
「う、うん。そうなんだ」
それじゃと笑顔で場を濁し、その場を去ろうとするが、おしゃべりと恋の話が大好きな彼女は僕を逃がしてくれない。
「わー、いいじゃん、いいじゃん。青春って感じ! ホズミンとラブラブ登校だなんて最高だね」
「いやいや、ぼくらただの幼なじみなだけで、恋人じゃないし……」
顔の前で右手を横に振るけど高坂さんは「またまたー、恥ずかしがって!」と取り合ってくれない。
「私はホズミンと犬伏くんの恋愛、応援するよ!? それにしてもいいなー、仲良くて。私も、私のことをバイクに乗せてくれる彼氏、めっちゃ欲しいわー」と両手を交差して、うっとりした表情を浮かべる。
「あの、だから高坂さん。ぼくと隼人は恋人でもなんでもないんだ。それと高坂さんはチアリーディング部でも可愛いし、優しいから彼氏も、できるって……うげっ!」
背中にしょってるリュックをバンバン叩かれ、「嫌味か!」と高坂さんが叫んだ。「声優やってる傍ら舞台でお芝居やってる犬伏くんのがダンチで顔、よしっしょ! 私が男子から男女って言われてるのわかるでしょー」
アハハハと苦笑いをしていれば、いつの間にか隼人が竹内くんを追いかけるのをやめていた(竹内くんが廊下に膝をついて苦しそうにゼーゼー息をしている!)。隼人が感情の読めない目で僕のことを見ているのに背筋が凍る。
「おーい、ホズミン。彼氏のワンコくんが、ここに隠れてるよー! 教室まで送ってかなくていいんかーい!」
大声で隼人のことを呼んだ高坂さんが僕の手を握って「ほら、こっち、こっち!」と隼人のほうへ引っ張ろうとする。
ほかの学生の視線が集まるのが恥ずかしいし、隼人が怒っているのが目に見えているからこの場から逃げたくて、顔が熱くなる。
「梨香……やめろよ。俺と渉は、そんなんじゃない。ただの幼なじみだ」
その言葉と冷たい目に涙が出そうになるなんて、被害妄想も甚だしい。
「もう素直じゃないな、ホズミンは。好きな子にそんな態度とるとかマジでない……って、犬伏くん。どしたの? 具合、悪い!?」
天真爛漫で男女両方から人気の高い高坂さんに悪意なんて、これっぽっちもない。たまたま僕が委員会で一緒になったときに僕が隼人に片思いをしているのに気づいて、以来喧嘩ばかりしている僕らの仲を取り持ってくれている。でも、今は――。
「えっと、ちょっとお腹の調子が悪いかもって感じで……」
「うっそ、マジ!? 大丈夫? 保健室、一緒に行くよ?」と高坂さんが慌てる。
「梨香、それは恋人である穂積に任せたほうがいいんじゃないか?」
立ち上がった竹内くんの言葉に「僕たちは、そんなんじゃないよ」と言いかけたところで「あ、そっか、それもそうだよね」と高坂さんが手を叩く。
隼人も隼人で困ったような顔をして「えっ、俺?」と竹内くんに訊き返している。
「当たり前だろ、おまえの恋人なんだから。それぐらい彼氏の務めだろ」
「圭祐」
「ケースケの言う通りだよ。気が利かなくて、ごめんねえ! じゃあ、犬伏くん。私、犬伏くんのクラスの子たちに話しとくから。少しベットで休んでおきなよ」
「うん……ありがとう」
グイと腕を引かれて耳元で、こっそりと高坂さんが耳打ちをする。
「今日、朝礼で保健室の先生も留守にするでしょ。そーゆーときは保健室が貸切だから、恋人同士でチューできるってチアの先輩から昔、教わったんだ。スリル満点で盛り上がること、間違いなしだって! よかったら今日、ホズミンと試してみてね」
「あ、あの……」
ぼくらが恋人だと誤解している高坂さんは、「キャー、言っちゃった!」とはしゃいで、階段を駆け上っていった。
そもそも、ぼくらは――超がつくほどの不仲で、顔を合わせるといつも言い合いになったり、しょっちゅう喧嘩ばかりしている犬猿の仲。隼人はぼくのことを恋愛対象として好きじゃない。友達として見られているかどうかも怪しいし、むしろ嫌われている可能性すらある。
逆に僕以外の人と話して笑顔でいる隼人の姿を見ていると、どんどん悲しい気持ちが膨らんで、ひとり置き去りにされた子供のような気分になる。
今すぐ、さっきの言葉や態度を謝って、バイクに乗せてくれてありがとうってお礼を言ったほうがいい。そんなことは百も承知だ。
だけど、また隼人に声優をやっていることを口出しされるかもとか、可愛くないって言われるんじゃないかって思うと何もできなくなってしまう。
そんなことを考えて、下駄箱からこっそり彼らの様子を観察していれば、高坂さんと目が合ってしまう。
急いで階段のほうへ向かおうとするが「あー、犬伏くん。おっはよー!」
元気いっぱいな彼女がこちらのほうへ駆けてくる。
「あっ……おはよう、高坂さん」
「そんなとこで何してんの、かくれんぼ? バスの子たちはもう教室向かったし、もしかして――ホズミンと一緒にバイク登校!?」
「う、うん。そうなんだ」
それじゃと笑顔で場を濁し、その場を去ろうとするが、おしゃべりと恋の話が大好きな彼女は僕を逃がしてくれない。
「わー、いいじゃん、いいじゃん。青春って感じ! ホズミンとラブラブ登校だなんて最高だね」
「いやいや、ぼくらただの幼なじみなだけで、恋人じゃないし……」
顔の前で右手を横に振るけど高坂さんは「またまたー、恥ずかしがって!」と取り合ってくれない。
「私はホズミンと犬伏くんの恋愛、応援するよ!? それにしてもいいなー、仲良くて。私も、私のことをバイクに乗せてくれる彼氏、めっちゃ欲しいわー」と両手を交差して、うっとりした表情を浮かべる。
「あの、だから高坂さん。ぼくと隼人は恋人でもなんでもないんだ。それと高坂さんはチアリーディング部でも可愛いし、優しいから彼氏も、できるって……うげっ!」
背中にしょってるリュックをバンバン叩かれ、「嫌味か!」と高坂さんが叫んだ。「声優やってる傍ら舞台でお芝居やってる犬伏くんのがダンチで顔、よしっしょ! 私が男子から男女って言われてるのわかるでしょー」
アハハハと苦笑いをしていれば、いつの間にか隼人が竹内くんを追いかけるのをやめていた(竹内くんが廊下に膝をついて苦しそうにゼーゼー息をしている!)。隼人が感情の読めない目で僕のことを見ているのに背筋が凍る。
「おーい、ホズミン。彼氏のワンコくんが、ここに隠れてるよー! 教室まで送ってかなくていいんかーい!」
大声で隼人のことを呼んだ高坂さんが僕の手を握って「ほら、こっち、こっち!」と隼人のほうへ引っ張ろうとする。
ほかの学生の視線が集まるのが恥ずかしいし、隼人が怒っているのが目に見えているからこの場から逃げたくて、顔が熱くなる。
「梨香……やめろよ。俺と渉は、そんなんじゃない。ただの幼なじみだ」
その言葉と冷たい目に涙が出そうになるなんて、被害妄想も甚だしい。
「もう素直じゃないな、ホズミンは。好きな子にそんな態度とるとかマジでない……って、犬伏くん。どしたの? 具合、悪い!?」
天真爛漫で男女両方から人気の高い高坂さんに悪意なんて、これっぽっちもない。たまたま僕が委員会で一緒になったときに僕が隼人に片思いをしているのに気づいて、以来喧嘩ばかりしている僕らの仲を取り持ってくれている。でも、今は――。
「えっと、ちょっとお腹の調子が悪いかもって感じで……」
「うっそ、マジ!? 大丈夫? 保健室、一緒に行くよ?」と高坂さんが慌てる。
「梨香、それは恋人である穂積に任せたほうがいいんじゃないか?」
立ち上がった竹内くんの言葉に「僕たちは、そんなんじゃないよ」と言いかけたところで「あ、そっか、それもそうだよね」と高坂さんが手を叩く。
隼人も隼人で困ったような顔をして「えっ、俺?」と竹内くんに訊き返している。
「当たり前だろ、おまえの恋人なんだから。それぐらい彼氏の務めだろ」
「圭祐」
「ケースケの言う通りだよ。気が利かなくて、ごめんねえ! じゃあ、犬伏くん。私、犬伏くんのクラスの子たちに話しとくから。少しベットで休んでおきなよ」
「うん……ありがとう」
グイと腕を引かれて耳元で、こっそりと高坂さんが耳打ちをする。
「今日、朝礼で保健室の先生も留守にするでしょ。そーゆーときは保健室が貸切だから、恋人同士でチューできるってチアの先輩から昔、教わったんだ。スリル満点で盛り上がること、間違いなしだって! よかったら今日、ホズミンと試してみてね」
「あ、あの……」
ぼくらが恋人だと誤解している高坂さんは、「キャー、言っちゃった!」とはしゃいで、階段を駆け上っていった。
そもそも、ぼくらは――超がつくほどの不仲で、顔を合わせるといつも言い合いになったり、しょっちゅう喧嘩ばかりしている犬猿の仲。隼人はぼくのことを恋愛対象として好きじゃない。友達として見られているかどうかも怪しいし、むしろ嫌われている可能性すらある。
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