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第2章
犬猿幼なじみ1
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バイクが駐輪場に着くと隼人がサイドスタンドを立て「降りな」と合図をしたので、バイクの左側へと降りる。ヘルメットを外して両手に持つ。
隼人はエンジンを切ってヘルメットを脱ぎ、両手のグローブを外した。
「それで、どうして遅刻したわけ? 寝坊じゃないなら何が理由?」
借りたヘルメットを返しながら今朝の出来事を話す。
「今日は早起き、できたんだよ。何事もなければ普通に登校できたんだ。ただ……お父さんが会社の仕事うまくいってなくて、これからどうしようって三人で話してたらバスに乗り遅れちゃったてだけで……」
途端に隼人が形のいい眉を上げて「なるほどね」とヘルメットを片づける。
「親父さん、うちの親父と違って自営業ってわけじゃないもんね。会社員って、すっごい精神的にも、身体的にもつらいって聞くし。鬱になったり、精神を病む人も増加してるみたいだし」
「うん、だからお母さんも『転職を考えて』って言ったんだ。だけど、お父さんはあんまり乗り気じゃないみたい」
「そりゃあ、そうでしょ。何、当たり前なこと言ってるわけ?」
相変わらずトゲのある言い方にムッとする。それでも玄関までの道は一本しかない、わざわざ裏口へ回って玄関まで歩くなんて、どう考えても変な人になること間違いなしだ。
「当たり前って……」
「おばさんが百貨店で正社員として働いていても、デパート自体が生き残るのが難しくなってるじゃん。戦略立てなきゃ縮小を余儀なくされるか潰れる。そもそも転職先だって、すぐに見つかるとは限らない。そんな状態じゃ積極的に転職をするなんて悩むに決まってるだろう」
「だ、だって僕だって声優をやってるもん。いざとなったら――」
「売れない駆け出しの声優に何ができるの? お金入れるどころか吸い取ってる元凶じゃん」
一番言われたくないことを隼人にズバッと言われて、頭に血が上る。
「ちょっと、それどういうこと!?」
「そのままの意味だろ。モブやガヤの役しかもらえなくて薄給も薄給。ボイトレにダンスレッスン、東京でやってる声優オーディションの費用、エトセトラ。おまえの高校通う学費だってバカにならないのに、おじさんとおばさんに払ってもらってるっていう自覚、マジでなさすぎ」
「なんで隼人に、そんなこと言われなきゃいけないわけ!? たかだか幼なじみなのに、そこまで口出しする?」
「本当のことを言っただけだろ。おまえが困っていそうだから助言したのに、なんで逆ギレされなきゃいけないわけ? ここまでバイクで送ってやったのに『ありがとう』の一言もないとか、あり得なくない」
「送ってくれて、あ・り・が・と・ね! これだから、きみとは話したくないんだよ。もういいよ、バイバイ」
「最低最悪。助けなきゃよかった」
ため息をついて隼人が首の後ろを掻いた。
瞬間、胸をナイフで刺されたみたいに痛くなって息ができなくなる。
「~~~っ! そうだね、今度から助けなくていいから。もう放っといて!」
「なんだよ、可愛くないな」
「隼人に可愛いなんて思ってもらわなくて結構。コケッコー!」
「何、それ、意味わかんないんだけど……」
その痛みを無視しながらズンズン早歩きをして、隼人を追い越す。
下駄箱にスニーカーを入れ、内履きに履き替える。階段のほうへ向かいながら隼人の様子が気になって玄関の前を確認する。
「おっはよー、ホズミン! ねえねえ、これ超ヤバくない!?」
隼人はクラスメートの女の子である高坂さんに声を掛けられ、廊下の隅で話しをしてた。
ぼくに対しては、ずっと真顔か、怒った顔か、仏頂面しかしない。始終テンションは低いし、嫌味ばかりを言ってきたり、正論だからと人が傷つくようなことをズケズケ言ってくる。
それなのに隼人は、女の子が持ってるスマホの画面を食い入るように見つめて、興奮気味な様子でいる。テンションも、すっごく上がっている。
「梨花、え、何これ。超、可愛いじゃん!? ヤッバ! ロシアンブルーの赤ちゃん?」
「あったりー! うちのお姉ちゃんがね、お義兄ちゃんと同棲してるんだけど先週から飼い始めたんだって。もう超最高にプリティーって感じでさ! ホズミンなら絶対、喜ぶと思ったんだよね」
「うっわ、すっげ。めっちゃ癒やされる……後で動画、ちょうだいよ」
「もち! 後さ、ケースケが姫ちゃんと柴犬ちゃんと散歩デートして、いろいろと写真撮ったんだって、あっ、ケースケ! こっち、こっち!」
そうして野球部のロゴの入ったバッグを肩から下げているた男子が玄関口からゾロゾロやってきた。その中のひとりが隼人と高坂さんのところへ駆けつける。
「圭祐、おまえ……俺に内緒で柴ちゃんとデートするとは、どういうことだ!?」
「おい、やめろよ、隼人! 俺がデートしたのは杏里のほうだ! 柴の散歩は母さんに頼まれただけだぞ。あいつの写真をカメラで取ったのは姫香だ。現像してほしいなら姫香に頼めって」
「問答無用。柴犬の写真は全部、俺に捧げろって頼んでいるのにスマホで撮影しないおまえが悪い」
そうして目を三角にした隼人が竹内くんを猛ダッシュで追いかけ回した。
隼人はエンジンを切ってヘルメットを脱ぎ、両手のグローブを外した。
「それで、どうして遅刻したわけ? 寝坊じゃないなら何が理由?」
借りたヘルメットを返しながら今朝の出来事を話す。
「今日は早起き、できたんだよ。何事もなければ普通に登校できたんだ。ただ……お父さんが会社の仕事うまくいってなくて、これからどうしようって三人で話してたらバスに乗り遅れちゃったてだけで……」
途端に隼人が形のいい眉を上げて「なるほどね」とヘルメットを片づける。
「親父さん、うちの親父と違って自営業ってわけじゃないもんね。会社員って、すっごい精神的にも、身体的にもつらいって聞くし。鬱になったり、精神を病む人も増加してるみたいだし」
「うん、だからお母さんも『転職を考えて』って言ったんだ。だけど、お父さんはあんまり乗り気じゃないみたい」
「そりゃあ、そうでしょ。何、当たり前なこと言ってるわけ?」
相変わらずトゲのある言い方にムッとする。それでも玄関までの道は一本しかない、わざわざ裏口へ回って玄関まで歩くなんて、どう考えても変な人になること間違いなしだ。
「当たり前って……」
「おばさんが百貨店で正社員として働いていても、デパート自体が生き残るのが難しくなってるじゃん。戦略立てなきゃ縮小を余儀なくされるか潰れる。そもそも転職先だって、すぐに見つかるとは限らない。そんな状態じゃ積極的に転職をするなんて悩むに決まってるだろう」
「だ、だって僕だって声優をやってるもん。いざとなったら――」
「売れない駆け出しの声優に何ができるの? お金入れるどころか吸い取ってる元凶じゃん」
一番言われたくないことを隼人にズバッと言われて、頭に血が上る。
「ちょっと、それどういうこと!?」
「そのままの意味だろ。モブやガヤの役しかもらえなくて薄給も薄給。ボイトレにダンスレッスン、東京でやってる声優オーディションの費用、エトセトラ。おまえの高校通う学費だってバカにならないのに、おじさんとおばさんに払ってもらってるっていう自覚、マジでなさすぎ」
「なんで隼人に、そんなこと言われなきゃいけないわけ!? たかだか幼なじみなのに、そこまで口出しする?」
「本当のことを言っただけだろ。おまえが困っていそうだから助言したのに、なんで逆ギレされなきゃいけないわけ? ここまでバイクで送ってやったのに『ありがとう』の一言もないとか、あり得なくない」
「送ってくれて、あ・り・が・と・ね! これだから、きみとは話したくないんだよ。もういいよ、バイバイ」
「最低最悪。助けなきゃよかった」
ため息をついて隼人が首の後ろを掻いた。
瞬間、胸をナイフで刺されたみたいに痛くなって息ができなくなる。
「~~~っ! そうだね、今度から助けなくていいから。もう放っといて!」
「なんだよ、可愛くないな」
「隼人に可愛いなんて思ってもらわなくて結構。コケッコー!」
「何、それ、意味わかんないんだけど……」
その痛みを無視しながらズンズン早歩きをして、隼人を追い越す。
下駄箱にスニーカーを入れ、内履きに履き替える。階段のほうへ向かいながら隼人の様子が気になって玄関の前を確認する。
「おっはよー、ホズミン! ねえねえ、これ超ヤバくない!?」
隼人はクラスメートの女の子である高坂さんに声を掛けられ、廊下の隅で話しをしてた。
ぼくに対しては、ずっと真顔か、怒った顔か、仏頂面しかしない。始終テンションは低いし、嫌味ばかりを言ってきたり、正論だからと人が傷つくようなことをズケズケ言ってくる。
それなのに隼人は、女の子が持ってるスマホの画面を食い入るように見つめて、興奮気味な様子でいる。テンションも、すっごく上がっている。
「梨花、え、何これ。超、可愛いじゃん!? ヤッバ! ロシアンブルーの赤ちゃん?」
「あったりー! うちのお姉ちゃんがね、お義兄ちゃんと同棲してるんだけど先週から飼い始めたんだって。もう超最高にプリティーって感じでさ! ホズミンなら絶対、喜ぶと思ったんだよね」
「うっわ、すっげ。めっちゃ癒やされる……後で動画、ちょうだいよ」
「もち! 後さ、ケースケが姫ちゃんと柴犬ちゃんと散歩デートして、いろいろと写真撮ったんだって、あっ、ケースケ! こっち、こっち!」
そうして野球部のロゴの入ったバッグを肩から下げているた男子が玄関口からゾロゾロやってきた。その中のひとりが隼人と高坂さんのところへ駆けつける。
「圭祐、おまえ……俺に内緒で柴ちゃんとデートするとは、どういうことだ!?」
「おい、やめろよ、隼人! 俺がデートしたのは杏里のほうだ! 柴の散歩は母さんに頼まれただけだぞ。あいつの写真をカメラで取ったのは姫香だ。現像してほしいなら姫香に頼めって」
「問答無用。柴犬の写真は全部、俺に捧げろって頼んでいるのにスマホで撮影しないおまえが悪い」
そうして目を三角にした隼人が竹内くんを猛ダッシュで追いかけ回した。
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