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第9章
あなたの思いやりに感謝します3
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「そうだったんですね。人から誤解されるの――つらいですよね」
「つらくないと言えば、嘘になります。でも運がいいことに家族や友達にも恵まれて、理解してくれました。だけど――今日は少し不安だったんです」
「不安……」と訊けば、北野さんがつぶらな瞳で僕の目を見つめた。
「今日が初めて会った日だけど、北野さんとメッセージを交わすのが楽しくて、電話すると声が聞けるのが嬉しかった。……今までみたいに『デートが面白くないから笑わないんだ』とか『すぐに怒る人なんだ』、『こっちをからかって遊んでるんだ』なんて思われたくなかったんです。だから最初から村山さんには俺のこの事情を話そうって決めていたんです」
「でも、その話をすることによって、今日のデートがダメになってしまうとは考えなかったんですか? もしも僕がひどいやつだったら、きっとすぐにその場で帰るとか……」
僕の発言に驚いたように目を見開いてから、北野さんは口元にかすかな笑みを浮かべた。
そこで、あっと気づいた。目を見るだけでなく、観察するように顔全体を注意深く見ていれば……この人が、どう思っているのかが少しだけだけど、わかる。今は僕の発言をバカにしたんじゃない。ほっと安心したみたいに笑ってるんだ。
「コンサルタントも村山さんの担当の方も『礼儀正しくて、相手の気持ちを考えられる人』だって言ってました。メッセージと電話でしかやりとりをやってないけど村山さんは、俺より少し歳下でも、しっかりした人だなって言う印象があって。今日、写真じゃなく、実際にあなたに会ってみたら、変な話ですが、思った通りの人だったなって感じました。あなたが言うような、ひどいことをするような人じゃないなって確信したんです。だから自分のコンプレックスである話も、すんなりできた。あなたとちゃんと、まっすぐに向き合いたくて話したんです」
純粋になんてすごいんだろうと思った。
自分の弱いところをさらけ出せるなんて、北野さんは強い人なんだなと羨ましくなるし、憧れる。
いっぱい傷ついてきただろうに、その傷もありのままの自分として受け止めた上で自分なりの努力をしたり、改善しようと試みている彼のことを眩しく感じた。
「すみません、自分のことばかり語ってますよね」と眉間にしわを作る。
「いいえ、北野さんのお話を聞けて、よかったです。知らないままの状態でデートをしていたら、きっと『嫌われているんだ』『いやな思いをさせちゃったんだ』って思って、二回目はなしって形にしたと思います」
はあっと深く息をつきながら北野さんが頭を下げた。「話しておいてよかった。二回目はなしって言われたら、おれ、ショックで寝込んだと思います」と大げさなことを言う。「って、先走りすぎですよね。……まだ一回目のデートだってしてないのに、二回目だなんて!」
はっと頭を上げて、焦っているような表情を浮かべた北野さんが僕のほうへと顔を向ける。僕よりも背が高くて、ガタイもいい男の人が期待しているような目をして、耳を赤くしている姿を見るのは、なかなかない。
北野さんの容姿は、かっこいい大人の男の人だ。なのに写真で見たときや初コンタクトのときと違って、なんだか反応や表情が、可愛く思えてしまう。ほんの少し、意地悪をしたいような、焦らしたいような気持ちがムクムクと出てくる。
「そうですよ。今日が初デートの日なんですから」
「……ですよね」
肩を落として、目線を横にやる彼の手を取って立ち上がった。
北野さんが、なんだろうと目を丸くして、僕のことを見上げている。
「実際にデートをして、今日一日会話をしてみないと北野さんが、どういう方か、まだわかりません。でも、楽しいデートになるようにしてくださるんですよね?」
「そ、そうです――もちろんです!」
慌てて北野さんが僕と同じように立ち上がった。
「じゃあ、今すぐ行きましょうよ、デート。僕、北野さんと水族館に行けるの待ち遠しかったんです」
「はい……行きましょう」
かすかに、はにかむような笑みを浮かべて北野さんが笑った。
ぼくは北野さんの手を放す。
そうして、僕らはサン・シャン・シャイン水族館への道を歩いた。
「ところで、この花束はどうしたんですか? 初めてのデートではプロポーズはなし! というのもわかっているでしょうし……一体、何があったんですか?」
カバンに入れた淡いピンク色をしたきれいなバラの花を思い出し、北野さんに声を掛ける。
北野さんは口をへの字にして、しぶい顔をしながら「それはですね」と答えた。「うちの花屋をやっている母が『持っていきなさい』って朝、やってきたんです」
やっぱりなと思いながら「ですよね」と返事をする。
僕の家とは違って北野さんのうちは家族仲も良好だ。
今は三十、四十で初婚という話しもよくあるけど、家族によっては「早く孫の姿を見せてほしい」とか「結婚したり、パートナーがいる姿を見せてほしい」なんてうちもある。北野さんの祖父母も、両親も二十代前半で結婚をしているという話だから、なかなか恋人と……っていう話のない北野さんのことを心配して、初デートということで気合を入れたのだと予測がつく。
「つらくないと言えば、嘘になります。でも運がいいことに家族や友達にも恵まれて、理解してくれました。だけど――今日は少し不安だったんです」
「不安……」と訊けば、北野さんがつぶらな瞳で僕の目を見つめた。
「今日が初めて会った日だけど、北野さんとメッセージを交わすのが楽しくて、電話すると声が聞けるのが嬉しかった。……今までみたいに『デートが面白くないから笑わないんだ』とか『すぐに怒る人なんだ』、『こっちをからかって遊んでるんだ』なんて思われたくなかったんです。だから最初から村山さんには俺のこの事情を話そうって決めていたんです」
「でも、その話をすることによって、今日のデートがダメになってしまうとは考えなかったんですか? もしも僕がひどいやつだったら、きっとすぐにその場で帰るとか……」
僕の発言に驚いたように目を見開いてから、北野さんは口元にかすかな笑みを浮かべた。
そこで、あっと気づいた。目を見るだけでなく、観察するように顔全体を注意深く見ていれば……この人が、どう思っているのかが少しだけだけど、わかる。今は僕の発言をバカにしたんじゃない。ほっと安心したみたいに笑ってるんだ。
「コンサルタントも村山さんの担当の方も『礼儀正しくて、相手の気持ちを考えられる人』だって言ってました。メッセージと電話でしかやりとりをやってないけど村山さんは、俺より少し歳下でも、しっかりした人だなって言う印象があって。今日、写真じゃなく、実際にあなたに会ってみたら、変な話ですが、思った通りの人だったなって感じました。あなたが言うような、ひどいことをするような人じゃないなって確信したんです。だから自分のコンプレックスである話も、すんなりできた。あなたとちゃんと、まっすぐに向き合いたくて話したんです」
純粋になんてすごいんだろうと思った。
自分の弱いところをさらけ出せるなんて、北野さんは強い人なんだなと羨ましくなるし、憧れる。
いっぱい傷ついてきただろうに、その傷もありのままの自分として受け止めた上で自分なりの努力をしたり、改善しようと試みている彼のことを眩しく感じた。
「すみません、自分のことばかり語ってますよね」と眉間にしわを作る。
「いいえ、北野さんのお話を聞けて、よかったです。知らないままの状態でデートをしていたら、きっと『嫌われているんだ』『いやな思いをさせちゃったんだ』って思って、二回目はなしって形にしたと思います」
はあっと深く息をつきながら北野さんが頭を下げた。「話しておいてよかった。二回目はなしって言われたら、おれ、ショックで寝込んだと思います」と大げさなことを言う。「って、先走りすぎですよね。……まだ一回目のデートだってしてないのに、二回目だなんて!」
はっと頭を上げて、焦っているような表情を浮かべた北野さんが僕のほうへと顔を向ける。僕よりも背が高くて、ガタイもいい男の人が期待しているような目をして、耳を赤くしている姿を見るのは、なかなかない。
北野さんの容姿は、かっこいい大人の男の人だ。なのに写真で見たときや初コンタクトのときと違って、なんだか反応や表情が、可愛く思えてしまう。ほんの少し、意地悪をしたいような、焦らしたいような気持ちがムクムクと出てくる。
「そうですよ。今日が初デートの日なんですから」
「……ですよね」
肩を落として、目線を横にやる彼の手を取って立ち上がった。
北野さんが、なんだろうと目を丸くして、僕のことを見上げている。
「実際にデートをして、今日一日会話をしてみないと北野さんが、どういう方か、まだわかりません。でも、楽しいデートになるようにしてくださるんですよね?」
「そ、そうです――もちろんです!」
慌てて北野さんが僕と同じように立ち上がった。
「じゃあ、今すぐ行きましょうよ、デート。僕、北野さんと水族館に行けるの待ち遠しかったんです」
「はい……行きましょう」
かすかに、はにかむような笑みを浮かべて北野さんが笑った。
ぼくは北野さんの手を放す。
そうして、僕らはサン・シャン・シャイン水族館への道を歩いた。
「ところで、この花束はどうしたんですか? 初めてのデートではプロポーズはなし! というのもわかっているでしょうし……一体、何があったんですか?」
カバンに入れた淡いピンク色をしたきれいなバラの花を思い出し、北野さんに声を掛ける。
北野さんは口をへの字にして、しぶい顔をしながら「それはですね」と答えた。「うちの花屋をやっている母が『持っていきなさい』って朝、やってきたんです」
やっぱりなと思いながら「ですよね」と返事をする。
僕の家とは違って北野さんのうちは家族仲も良好だ。
今は三十、四十で初婚という話しもよくあるけど、家族によっては「早く孫の姿を見せてほしい」とか「結婚したり、パートナーがいる姿を見せてほしい」なんてうちもある。北野さんの祖父母も、両親も二十代前半で結婚をしているという話だから、なかなか恋人と……っていう話のない北野さんのことを心配して、初デートということで気合を入れたのだと予測がつく。
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