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鶴機 亀輔

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第7章

あなただけのストーリー5

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 自分でも気づかなかったことを……思ってもみなかったことを出会って間もない赤の他人から言われ、虚をつかれた気分になる。

 瞬間、胸がひどくざわつき始める。ぼくは気持ちを落ち着かせようと、ゆっくりまばたきを繰り返した。

 目の前の相談員である有島さんの投げた言葉が、身体の奥底まで落ちていく。

 そして、どこかでカチリと鍵が開くような音がした。

「お友だちとは、お互いを許し合うことはできましたか?」

「……彼は、ぼくの行いを許してくれました。むしろ彼のほうが先に謝ってくれたんです。でも、ぼくは彼の言葉を聞きたくなくて、ずっと避けていた。それなのに……今まで通りに振る舞ってくれたんです。最初は、すごく悲しかったし、悔しかった。どうして、そんなことができるの? と彼を責める気持ちもありました。人といざこざがあったり、喧嘩をして嫌われるのはいつものこと。彼と親友でなくなっても、元の状態に戻るだけ。

 でも……できませんでした。たとえ失恋しても、親友としてそばにいたかったんです。もう、いいやって……彼のしたことを許せば、恋人にはなれなくても、友だちでいられる。だから……適当な男たちとも関係を持ったりしました。いつまでも、かなわない恋心をいつまでも引きずって、友だちである彼とこれ以上m気まずくなりたくない。この思いに応えられない彼をいつか憎んで、今まで過ごしてきた時間を全部無駄なことだったと思いたくない……! 彼と出会い、友だちになれた奇跡を、そばにいられたことを……自分で否定したくないんです」

 そうしてぼくは有島さんの目を見つめた。

 すると有島さんは、まるで人を包み込むようなやさしい目つきをして、やわらかな笑みを浮かべた。

「村山様、どうか人を本気で愛した自分を、あなたの世界や意識を変えてくれたお友だちを好きになったことを――心から誇ってください」

「でも……ぼくが彼を好きでいなければ、あんなことは起きませんでした……」

「多くの場合、親しい間柄である人間とのトラブルやいざこざは、複数の要因により起こります。問題がひとつ浮き上がったときに解決しないでいるうちに、問題が複雑に絡み合ったことにより発生してしまうのです。お友だちだけが悪いということも、あなただけが悪いということもない。どうか、これ以上、ご自分を責めないでください」

 鼻の奥がツンと痛くなるのを感じながら「はい」と答えた。思ったよりも震えた声が出て、自分で驚いてしまう。

「あらためて村山様が心から安心できる方を、あなたの隣に立ち、支え合える方を見つけられるよう、全力でサポートいたします」

「至らないところばかりですが……どうぞよろしくお願いします」

 ぼくは頭を深く下げ、目の前の人に心から礼を尽くした。
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