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第7章
「普通の恋愛」ができない男
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結局、あの後ぼくは、ガニュメデスに登録した。
といっても普通のSNSのようにメールや電話番号で登録。即・スタートというわけにもいかず本人確認と、年齢確認が必須だった。プロフィールも詳細に登録しなきゃで時間も、労力もかかった。
登録し終わった後は、とにかく条件を設定して相手探しだ。自分に合いそうな相手を見つけたらマッチングの申し込み。逆もしかり。メッセージのやりとりをしていって気が合いそうだと思ったらデートの約束。そして健全なデートを三回(人によっては二回目からセックスの相性も確認するみたいだけど)くらいして、正式にお付き合いがスタート。
マッチングアプリを卒業して、そこからは結婚相談所に相談したり、アドバイスをもらう。アルファとオメガなら番契約や結婚、それ以外の組み合わせはパートナー制度の利用や海外で挙式をしてゴールだ。
でも、ぼくはスタートラインにも立てない。
最初から名前を間違えてくる人や、コミュニケーションの成り立たない人、金銭をせびってくる人とのメッセージのやりとりばかりで、ゲンナリする。
たとえメッセージのやりとりが上手くいってデートにありつけても、プロフィールを詐称した勧誘と営業の回し者の話を訊くだけ。初回のデートでホテルに誘われたり、ソウジたちのようなヤバい犯罪者グループに遭遇しないからマシだけど、だとしてもひどい。
ネットで口コミを確認したら、どこのマッチングアプリにも一部そういう人間が少なからずいるみたいだし。
ここ最近、踏んだり蹴ったりなぼくには、追い打ちをかけられているようなもの。いよいよ人間不信になりそうだ。
エリナたちの役に立つのか、役に立たないのかよくわからない言葉のおかげで、なんとか自我を保っていられる。でも限界スレスレであることも、事実だ。
ちなみに航大との仲は続いていて、大学のキャンパス内で普通に接していた。
ただ、航大の友だちからは「喧嘩をしたの?」とか「何かトラブった?」と心配される。テスト期間中も就活中の先輩たちから「おまえら、どうしたんだ?」と訊かれてしまった。
「ゲームに支障を来すから」と航大と仲直りするように言われ、みんなに気を遣わせている。
中学以来の親友でニコイチだった人間が、急に一緒じゃいなくなったら、だれだって不思議に思うし、何かあったのかとあれこれ考えるのも当然だ。
雨の中、航大がぼくのアパートを訪れてくれた日から、航大と授業時間や昼休み、サークルのとき以外は接触しないように避けていた。
大学で授業のない時間は図書館に入り浸り。授業のない日は家を留守にしている。東京のカフェやハンバーガ―ショップ、公園なんかをぶらつきながら勉強をしたり、ゲームをして時間をつぶす。
航大の誘いを断ったり、かわすたびに申し訳ない気持ちになるけど航大の誘いに乗ってしまえば、元の木阿弥。いや、もっと状況が悪化して、ぼくの体調不良もぶり返すだけだから。
話は変わるけど弁護士に依頼してから芝谷さんの嫌がらせは、ピタリとやんだ。朝晩問わずに鬼電されたり、大量のメールやSNSメッセージを送られなくなった。それだけで少し、肩の荷が下りて楽になった。
ただ……航大の友だちから、航大が芝谷さんと別れた後も揉めていたり、LIMEでやりとりをしていることを聞いたら胸がズキリと痛んだ。
そんな状態だから夏休みだというのに、楽しいことは何ひとつない。公認会計士の勉強をして、アルバイトをして、マッチングアプリのメッセージのやりとりと、デートとはいえない会話の繰り返し。
「やっぱり、ぼくには普通の恋愛なんか無理なんだよ」とオリンポスで愚痴をこぼしたら、マスターとバーテンに「そんなの当たり前だろ」とツッコミを入れられた。
「オメガやアルファじゃないんだから運命の出会いも、シンデレラストーリーもないに決まっているでしょ。中には年齢=恋人いない歴で三十、四十超えてからパートナーと出会える人もいるの。いい人と出会えるまでは時間がかかるものなの!」
「何それ? めんどくさっ。だったら、一生ひとりでいいよ。退会してほかの方法でも……」
「なんだよ、根性ないな。ほんっと耐え症のないやつ」とわかりやすくバーテンに煽られる。
ネットで調べたら、アメリカの三十歳以下の5人に1人がマッチングアプリを使用しているそうだ。日本でも二十代は約2人に1人が使用したり、利用経験がある。
どうせ嘘のデータだろうと高を括っていれば……オリンポスに来る若い常連客や大学の先輩もマッチングアプリ経由でパートナーや恋人を見つけたと言う。
人は、それぞれ違う。得手不得手がある。
だけど、世界規模で大多数の人がやっていることを「できないのか?」と馬鹿にされるのは、ぼくのポリシーにそぐわない。何より、まともなデートがまだできていないことを「メッセージのところでヤバいやつだって気づかなかったのかよ!」とバーテンに笑われるのが心底、面白くない。
そうはいっても八方塞がりで、どうしたらいいかわからないというのが現状だ。
まあ、悪いことばかりが起きているわけでないのが、せめてもの救いだと思う。
味覚のほうが徐々に回復している。食欲も戻って一日三食を食べられるようになったし、睡眠もとれる。何より、やけ酒をすることがなくなった。
ハンバーガーショップのテリヤキソースの包み紙を開き、甘じょっぱいハンバーガーを片手で頬張る。レタスがシャリシャリしていて歯ごたえ抜群だ。
スマホを睨みつけながら、マッチングアプリに関するブログ記事や公式サイトのコラムを読む。
――書籍やYohTubeを見ながら、実践しているのにマッチングアプリでの成果が一向に出ない。
マルチプレイでみんなとラスボス相手に難攻不落の城を制覇するはずだった。だけど、みんな都合が悪くなって、ひとりでどうにかしなきゃいけなくなった――みたい状況で、すっごくイライラする。
野菜ジュースを飲みながらストローをガジガジと嚙じり、ポテトへ手を伸ばす。
するとガニュメデスの通知がタイミングよく来た。会員登録をするときにチェックしたメルマガが届いた。マッチングアプリを使用していく上での初心者に向けた、あれこれが書かれていて、結構真面目に見ていたりする。
画面をタップして、今回はどんな内容だろうと目を通せば――。
「……これって?」
といっても普通のSNSのようにメールや電話番号で登録。即・スタートというわけにもいかず本人確認と、年齢確認が必須だった。プロフィールも詳細に登録しなきゃで時間も、労力もかかった。
登録し終わった後は、とにかく条件を設定して相手探しだ。自分に合いそうな相手を見つけたらマッチングの申し込み。逆もしかり。メッセージのやりとりをしていって気が合いそうだと思ったらデートの約束。そして健全なデートを三回(人によっては二回目からセックスの相性も確認するみたいだけど)くらいして、正式にお付き合いがスタート。
マッチングアプリを卒業して、そこからは結婚相談所に相談したり、アドバイスをもらう。アルファとオメガなら番契約や結婚、それ以外の組み合わせはパートナー制度の利用や海外で挙式をしてゴールだ。
でも、ぼくはスタートラインにも立てない。
最初から名前を間違えてくる人や、コミュニケーションの成り立たない人、金銭をせびってくる人とのメッセージのやりとりばかりで、ゲンナリする。
たとえメッセージのやりとりが上手くいってデートにありつけても、プロフィールを詐称した勧誘と営業の回し者の話を訊くだけ。初回のデートでホテルに誘われたり、ソウジたちのようなヤバい犯罪者グループに遭遇しないからマシだけど、だとしてもひどい。
ネットで口コミを確認したら、どこのマッチングアプリにも一部そういう人間が少なからずいるみたいだし。
ここ最近、踏んだり蹴ったりなぼくには、追い打ちをかけられているようなもの。いよいよ人間不信になりそうだ。
エリナたちの役に立つのか、役に立たないのかよくわからない言葉のおかげで、なんとか自我を保っていられる。でも限界スレスレであることも、事実だ。
ちなみに航大との仲は続いていて、大学のキャンパス内で普通に接していた。
ただ、航大の友だちからは「喧嘩をしたの?」とか「何かトラブった?」と心配される。テスト期間中も就活中の先輩たちから「おまえら、どうしたんだ?」と訊かれてしまった。
「ゲームに支障を来すから」と航大と仲直りするように言われ、みんなに気を遣わせている。
中学以来の親友でニコイチだった人間が、急に一緒じゃいなくなったら、だれだって不思議に思うし、何かあったのかとあれこれ考えるのも当然だ。
雨の中、航大がぼくのアパートを訪れてくれた日から、航大と授業時間や昼休み、サークルのとき以外は接触しないように避けていた。
大学で授業のない時間は図書館に入り浸り。授業のない日は家を留守にしている。東京のカフェやハンバーガ―ショップ、公園なんかをぶらつきながら勉強をしたり、ゲームをして時間をつぶす。
航大の誘いを断ったり、かわすたびに申し訳ない気持ちになるけど航大の誘いに乗ってしまえば、元の木阿弥。いや、もっと状況が悪化して、ぼくの体調不良もぶり返すだけだから。
話は変わるけど弁護士に依頼してから芝谷さんの嫌がらせは、ピタリとやんだ。朝晩問わずに鬼電されたり、大量のメールやSNSメッセージを送られなくなった。それだけで少し、肩の荷が下りて楽になった。
ただ……航大の友だちから、航大が芝谷さんと別れた後も揉めていたり、LIMEでやりとりをしていることを聞いたら胸がズキリと痛んだ。
そんな状態だから夏休みだというのに、楽しいことは何ひとつない。公認会計士の勉強をして、アルバイトをして、マッチングアプリのメッセージのやりとりと、デートとはいえない会話の繰り返し。
「やっぱり、ぼくには普通の恋愛なんか無理なんだよ」とオリンポスで愚痴をこぼしたら、マスターとバーテンに「そんなの当たり前だろ」とツッコミを入れられた。
「オメガやアルファじゃないんだから運命の出会いも、シンデレラストーリーもないに決まっているでしょ。中には年齢=恋人いない歴で三十、四十超えてからパートナーと出会える人もいるの。いい人と出会えるまでは時間がかかるものなの!」
「何それ? めんどくさっ。だったら、一生ひとりでいいよ。退会してほかの方法でも……」
「なんだよ、根性ないな。ほんっと耐え症のないやつ」とわかりやすくバーテンに煽られる。
ネットで調べたら、アメリカの三十歳以下の5人に1人がマッチングアプリを使用しているそうだ。日本でも二十代は約2人に1人が使用したり、利用経験がある。
どうせ嘘のデータだろうと高を括っていれば……オリンポスに来る若い常連客や大学の先輩もマッチングアプリ経由でパートナーや恋人を見つけたと言う。
人は、それぞれ違う。得手不得手がある。
だけど、世界規模で大多数の人がやっていることを「できないのか?」と馬鹿にされるのは、ぼくのポリシーにそぐわない。何より、まともなデートがまだできていないことを「メッセージのところでヤバいやつだって気づかなかったのかよ!」とバーテンに笑われるのが心底、面白くない。
そうはいっても八方塞がりで、どうしたらいいかわからないというのが現状だ。
まあ、悪いことばかりが起きているわけでないのが、せめてもの救いだと思う。
味覚のほうが徐々に回復している。食欲も戻って一日三食を食べられるようになったし、睡眠もとれる。何より、やけ酒をすることがなくなった。
ハンバーガーショップのテリヤキソースの包み紙を開き、甘じょっぱいハンバーガーを片手で頬張る。レタスがシャリシャリしていて歯ごたえ抜群だ。
スマホを睨みつけながら、マッチングアプリに関するブログ記事や公式サイトのコラムを読む。
――書籍やYohTubeを見ながら、実践しているのにマッチングアプリでの成果が一向に出ない。
マルチプレイでみんなとラスボス相手に難攻不落の城を制覇するはずだった。だけど、みんな都合が悪くなって、ひとりでどうにかしなきゃいけなくなった――みたい状況で、すっごくイライラする。
野菜ジュースを飲みながらストローをガジガジと嚙じり、ポテトへ手を伸ばす。
するとガニュメデスの通知がタイミングよく来た。会員登録をするときにチェックしたメルマガが届いた。マッチングアプリを使用していく上での初心者に向けた、あれこれが書かれていて、結構真面目に見ていたりする。
画面をタップして、今回はどんな内容だろうと目を通せば――。
「……これって?」
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