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第3章
酩酊状態4※
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「まるで人形みたいだね」
部屋の片隅になぜか、ぼくがいた。おかしな話だ。ぼくは今、航大と抱き合っているというのに。
ぼくは、ぼくと航大が性行為をしている姿を観察しながら嘲笑う。
「こんなことして本当に芝谷さんから航大を奪えると思ってるの? 無理無理、無駄無駄。きみのやっていることは意味のないことだよ」
そんなの知ってるよ。
これは一夜限りの魔法。お酒が見せてくれる、しょうもない夢なんだから。
「いいの? 明日になったら航大とは他人同士になるかもしれないよ?」
ピクリと身体が反応する。
航大の勃起したものの切っ先が前立腺を掠めたからか、それとももうひとりの自分が発した言葉に焦りを感じからか、わからない。
「っ……航大、」
急激に精子がせり上がってくる感覚を覚える。だけど、なぜだろう。すごく怖い。
気持ちよくなるのが怖いんじゃない。何かが壊れて、粉々に砕け散ってしまいそうなのが、もう二度と元に戻らなくなってしまいそうで怖いんだ。
「待って……お願い……止まって……」
上手く力が入らない。震える手で航大の胸板を押す。
航大は快感に耽っているからか、酔いが回っているからか吐息をこぼすばかりで、ぼくの言葉を聞いてくれなかった。
むしろイク直前だからか腰を激しく打ちつけられる。
淚が目からこぼれ落ちた。
「イク……あっ、憂、好きだ……好きなんだよ……ああっ!」
「うっ……ん……」
身体を震わせて航大がゴム越しに体内へ射精した。でも、ぼくは航大とともにイケなかった。
身体を抱きしめてもらうこともなければ、やさしいキスもない。
「セフレだったあの人のするセックスよりも、ひどいね」ともうひとりのぼくが愚痴をこぼした。
そのままズルリと航大の身体が傾き、ぼくの上で動かなくなった。静かな寝息の音が聞こえる。
ぼくは航大の身体を横にして彼の萎えた性器を体内から出した。
ひとりでゴムの後始末をしている間も、航大は芝谷さんの名前を口ずさんだ。ぼくの勃起していた性器もやる気をなくしてクタリとなった。
ため息をついて航大の家に置いてあるバスタオルや下着を取り出し、シャワーを浴びにいく。
家に帰ったら熱いお湯を浴びて、さっさと布団に入っるつもりだった。だけど、なぜかぼくは航大の家にいて真っ暗な風呂場で冷水を頭から浴びている。目を見開いて鏡の中の自分を睨みつける。
まだ六月の夜だ。シャワーの水を浴びていたら冷たく感じるはず。でも――何も感じない。
鏡の中の自分がケラケラおかしそうに笑う。
「あーあ、明日の朝は大変だね。航大に絶交だって言われちゃうう。『ホモ野郎にレイプされた!』って、なじられちゃうんだ」
「……」
「何、まだ期待してるわけ? 明日になれば航大が『ごめん、晃嗣。おれ、じつは晃嗣が特別な存在だって気づいたんだ』なんて奇跡が自分に起きると思ってるの」
「……さい」
「そんな夢物語は叶わないよ。あれだけ雑に抱かれて『憂、憂』って何度も芝谷さんの名前を呼んでた。ぼくのことなんて眼中に……」
風呂場の鏡の横を拳で殴り、ニタニタ笑うやつを黙らせる。
「うるさい!」
自分のアパートでなくてよかったと心底思う。深夜にひとりで叫んだりしたら、大家さんから怒られる。
もうひとりのぼくの声が途絶え、シャワーの音だけが響く。鏡の中のぼくは表情の抜けた顔をしていた。
朝になるのが怖い。航大にひどくなじられ、友だちでいられなくなることを恐怖する。いっそ、このまま死んでしまいたい。
それなのに、あきらめの悪いぼくは一縷の望みにかける。
アルコールが回り、理性の働かない頭は自分に都合のいい妄想をする。
朝が訪れたら航大が、ぼくを恋人やセフレにしてくれる淡い期待を抱いた。
部屋の片隅になぜか、ぼくがいた。おかしな話だ。ぼくは今、航大と抱き合っているというのに。
ぼくは、ぼくと航大が性行為をしている姿を観察しながら嘲笑う。
「こんなことして本当に芝谷さんから航大を奪えると思ってるの? 無理無理、無駄無駄。きみのやっていることは意味のないことだよ」
そんなの知ってるよ。
これは一夜限りの魔法。お酒が見せてくれる、しょうもない夢なんだから。
「いいの? 明日になったら航大とは他人同士になるかもしれないよ?」
ピクリと身体が反応する。
航大の勃起したものの切っ先が前立腺を掠めたからか、それとももうひとりの自分が発した言葉に焦りを感じからか、わからない。
「っ……航大、」
急激に精子がせり上がってくる感覚を覚える。だけど、なぜだろう。すごく怖い。
気持ちよくなるのが怖いんじゃない。何かが壊れて、粉々に砕け散ってしまいそうなのが、もう二度と元に戻らなくなってしまいそうで怖いんだ。
「待って……お願い……止まって……」
上手く力が入らない。震える手で航大の胸板を押す。
航大は快感に耽っているからか、酔いが回っているからか吐息をこぼすばかりで、ぼくの言葉を聞いてくれなかった。
むしろイク直前だからか腰を激しく打ちつけられる。
淚が目からこぼれ落ちた。
「イク……あっ、憂、好きだ……好きなんだよ……ああっ!」
「うっ……ん……」
身体を震わせて航大がゴム越しに体内へ射精した。でも、ぼくは航大とともにイケなかった。
身体を抱きしめてもらうこともなければ、やさしいキスもない。
「セフレだったあの人のするセックスよりも、ひどいね」ともうひとりのぼくが愚痴をこぼした。
そのままズルリと航大の身体が傾き、ぼくの上で動かなくなった。静かな寝息の音が聞こえる。
ぼくは航大の身体を横にして彼の萎えた性器を体内から出した。
ひとりでゴムの後始末をしている間も、航大は芝谷さんの名前を口ずさんだ。ぼくの勃起していた性器もやる気をなくしてクタリとなった。
ため息をついて航大の家に置いてあるバスタオルや下着を取り出し、シャワーを浴びにいく。
家に帰ったら熱いお湯を浴びて、さっさと布団に入っるつもりだった。だけど、なぜかぼくは航大の家にいて真っ暗な風呂場で冷水を頭から浴びている。目を見開いて鏡の中の自分を睨みつける。
まだ六月の夜だ。シャワーの水を浴びていたら冷たく感じるはず。でも――何も感じない。
鏡の中の自分がケラケラおかしそうに笑う。
「あーあ、明日の朝は大変だね。航大に絶交だって言われちゃうう。『ホモ野郎にレイプされた!』って、なじられちゃうんだ」
「……」
「何、まだ期待してるわけ? 明日になれば航大が『ごめん、晃嗣。おれ、じつは晃嗣が特別な存在だって気づいたんだ』なんて奇跡が自分に起きると思ってるの」
「……さい」
「そんな夢物語は叶わないよ。あれだけ雑に抱かれて『憂、憂』って何度も芝谷さんの名前を呼んでた。ぼくのことなんて眼中に……」
風呂場の鏡の横を拳で殴り、ニタニタ笑うやつを黙らせる。
「うるさい!」
自分のアパートでなくてよかったと心底思う。深夜にひとりで叫んだりしたら、大家さんから怒られる。
もうひとりのぼくの声が途絶え、シャワーの音だけが響く。鏡の中のぼくは表情の抜けた顔をしていた。
朝になるのが怖い。航大にひどくなじられ、友だちでいられなくなることを恐怖する。いっそ、このまま死んでしまいたい。
それなのに、あきらめの悪いぼくは一縷の望みにかける。
アルコールが回り、理性の働かない頭は自分に都合のいい妄想をする。
朝が訪れたら航大が、ぼくを恋人やセフレにしてくれる淡い期待を抱いた。
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