6 / 51
第1章
0.01ミリメートルの防御壁5
しおりを挟む
名刺を破り捨てたみたいに恋心を捨ててしまいたい。
だれかと新しく健全な関係を築きたいのに、できない。
性病には罹っていない。身体を売ってお金にする人たちと同等か、それ以上に検査を受けている。運よく引っかかっていない。
だけど恋の病には確実に罹っている。
もしかしたら失恋したせいで、性依存症の一歩手前になっているのかもしれない。本当は精神科や心療内科でカウンセリングのひとつでも受けた方がいいのだと思う。
だが、そんなことはどうでもいい。
ただでさえ惨めなんだ。これ以上、惨めな思いはしたくない。
次の駅に到着し、電車の扉が開く。
泣いている赤ん坊を抱いたどこか色っぽい中性的な人物と、長身の男が入ってくる。
首の座った赤ん坊を抱っこして、あやしている濡れ羽色の髪の人物へと目線を向ける。
華奢な体つきをしている。ベータやアルファの男と骨格からして違う。女みたいに腰やヒップが丸みを帯びている。
着物の似合いそうな顔立ちをしている。大和撫子って言葉が似合いそうだ。
男に性転換した女という可能性も捨てきれないものの声の低さや肩幅、骨格、喉仏の出具合からいって男で間違いないだろう。
甘い匂いが、かすかにする。香水じゃない。オメガのフェロモンだ。
長身の男は、どうだ?
アルファか、ベータか判別できない。
足が無駄に長くて体格がいい。
が、容姿は普通だ。東京のスクランブル交差点ですれ違ってもすぐに忘れるくらい、そこら辺にいそうな顔をしている。
ふたりとも同じデザインの指輪を左手の薬指にしている。友だちや知人ではない。普通の男女の夫婦と大差なく仲のいい夫夫だ。
男は赤ん坊とオメガに対して、ずいぶんとデレデレしている。赤ん坊に対して、赤ちゃん言葉で必死に話しかけている。
深夜だというのに、赤ん坊は機嫌よく「あー」とか「うー」と男に向かって元気に返事をしていた。
オメガの男が、彼らのやりとりを微笑ましげに見つめている。
まだ恋に恋している子どもだったら、すてきな光景だと思えた。
だけど――今は、その光景がひどく目ざわりだ。今すぐ視界から消えてほしい。
その光景を目にするとぼくの胸が軋み、ひどく痛むから。
だれかと新しく健全な関係を築きたいのに、できない。
性病には罹っていない。身体を売ってお金にする人たちと同等か、それ以上に検査を受けている。運よく引っかかっていない。
だけど恋の病には確実に罹っている。
もしかしたら失恋したせいで、性依存症の一歩手前になっているのかもしれない。本当は精神科や心療内科でカウンセリングのひとつでも受けた方がいいのだと思う。
だが、そんなことはどうでもいい。
ただでさえ惨めなんだ。これ以上、惨めな思いはしたくない。
次の駅に到着し、電車の扉が開く。
泣いている赤ん坊を抱いたどこか色っぽい中性的な人物と、長身の男が入ってくる。
首の座った赤ん坊を抱っこして、あやしている濡れ羽色の髪の人物へと目線を向ける。
華奢な体つきをしている。ベータやアルファの男と骨格からして違う。女みたいに腰やヒップが丸みを帯びている。
着物の似合いそうな顔立ちをしている。大和撫子って言葉が似合いそうだ。
男に性転換した女という可能性も捨てきれないものの声の低さや肩幅、骨格、喉仏の出具合からいって男で間違いないだろう。
甘い匂いが、かすかにする。香水じゃない。オメガのフェロモンだ。
長身の男は、どうだ?
アルファか、ベータか判別できない。
足が無駄に長くて体格がいい。
が、容姿は普通だ。東京のスクランブル交差点ですれ違ってもすぐに忘れるくらい、そこら辺にいそうな顔をしている。
ふたりとも同じデザインの指輪を左手の薬指にしている。友だちや知人ではない。普通の男女の夫婦と大差なく仲のいい夫夫だ。
男は赤ん坊とオメガに対して、ずいぶんとデレデレしている。赤ん坊に対して、赤ちゃん言葉で必死に話しかけている。
深夜だというのに、赤ん坊は機嫌よく「あー」とか「うー」と男に向かって元気に返事をしていた。
オメガの男が、彼らのやりとりを微笑ましげに見つめている。
まだ恋に恋している子どもだったら、すてきな光景だと思えた。
だけど――今は、その光景がひどく目ざわりだ。今すぐ視界から消えてほしい。
その光景を目にするとぼくの胸が軋み、ひどく痛むから。
3
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。


白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。


初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
噛痕に思う
阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。
✿オメガバースもの掌編二本作。
(『ride』は2021年3月28日に追加します)

僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる