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鶴機 亀輔

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第1章

0.01ミリメートルの防御壁5

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 名刺を破り捨てたみたいに恋心を捨ててしまいたい。

 だれかと新しく健全な関係を築きたいのに、できない。

 性病には罹っていない。身体を売ってお金にする人たちと同等か、それ以上に検査を受けている。運よく引っかかっていない。

 だけど恋の病には確実に罹っている。

 もしかしたら失恋したせいで、性依存症の一歩手前になっているのかもしれない。本当は精神科や心療内科でカウンセリングのひとつでも受けた方がいいのだと思う。

 だが、そんなことはどうでもいい。

 ただでさえみじめなんだ。これ以上、惨めな思いはしたくない。



 次の駅に到着し、電車の扉が開く。

 泣いている赤ん坊を抱いたどこか色っぽい中性的な人物と、長身の男が入ってくる。

 首の座った赤ん坊を抱っこして、あやしている色の髪の人物へと目線を向ける。

 華奢きゃしゃな体つきをしている。ベータやアルファの男と骨格からして違う。女みたいに腰やヒップが丸みを帯びている。

 着物の似合いそうな顔立ちをしている。大和撫子って言葉が似合いそうだ。

 男に性転換した女という可能性も捨てきれないものの声の低さや肩幅、骨格、喉仏の出具合からいって男で間違いないだろう。

 甘い匂いが、かすかにする。香水じゃない。オメガのフェロモンだ。

 長身の男は、どうだ?

 アルファか、ベータか判別できない。

 足が無駄に長くて体格がいい。

 が、容姿は普通だ。東京のスクランブル交差点ですれ違ってもすぐに忘れるくらい、そこら辺にいそうな顔をしている。

 ふたりとも同じデザインの指輪を左手の薬指にしている。友だちや知人ではない。普通の男女の夫婦と大差なく仲のいい夫夫だ。

 男は赤ん坊とオメガに対して、ずいぶんとデレデレしている。赤ん坊に対して、赤ちゃん言葉で必死に話しかけている。

 深夜だというのに、赤ん坊は機嫌よく「あー」とか「うー」と男に向かって元気に返事をしていた。

 オメガの男が、彼らのやりとりを微笑ましげに見つめている。



 まだ恋に恋している子どもだったら、すてきな光景だと思えた。



 だけど――今は、その光景がひどく目ざわりだ。今すぐ視界から消えてほしい。

 その光景を目にするとぼくの胸がきしみ、ひどく痛むから。
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