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第4章
オメガバース4
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朔夜は焦った。まさか日向が指輪を返してくるなんて夢にも思ってもいなかったからだ。慌てて立ち上がり、日向のもとへ寄る。
「なあ、どうして受け取ってくれないんだよ? 俺がすぐ泣くし、怒るし、日向を傷つけるような女々しいやつだから結婚するのが、いやなのか? それとも『男同士で結婚なんて気持ち悪い!』って思ったから?」
自分の口にした言葉にショックを受けた朔夜は、まるで段ボールの中に捨てられた子犬のように、身体を震わせる。
「違うよ」と日向は首を横に振る。「僕、さくちゃんのことが好き。困ってる子がいたら助けにいく正義のヒーローみたいで、かっこいいなあって思う。いつも、光輝くんからいじめられている僕にもやさしくしてくれて、僕が悲しい気持ちになっていると必ず駆けつけてくれる。だけど……男の子同士で結婚できるなんて、夢にも思ってなかったの。オメガバースとか、魂の番についても初めて聞くから、びっくりしちゃったんだ。
でもね、さくちゃんに『お嫁さんになるんだ』って言われたとき『気持ち悪い』なんてこれっぽっちも思わなかったよ! だって、さくちゃんとこれから先も、ずっと一緒にいたいもん。家族になって、同じおうちに住んで朝も、昼も、夜も仲よくできたらいいな、って思うよ」
日向から「好き」の一言を聞けた朔夜は、その場で躍り出したいたい気分になる。あからさまに機嫌がよくなって、表情も明るくなる。でれっとした顔になり、口元がにやけそうになるのを、なんとか我慢する。
だが日向は難しい顔をして朔夜のことを見据えた。
「ねえ、さくちゃん。親戚の結婚式がすてきだった、ってお話をしたよね。その人たちは多分、さくちゃんの言う魂の番じゃないかな? 男の人同士で式を挙げていたから」
「そうか! いいな、俺たちも、いつか……」
「だからお父さんは、僕とさくちゃんが番になるのも、結婚するのも絶対に反対するよ」
朔夜は、日向の言葉を耳にすると笑うのをぴたりとやめ、表情を強張らせた。
「おじさんが? どういうことだ」
「……お母さんはね、『大好きな人と結婚することは、とっても幸せなことで、すてきなことだよ』って教えてくれたんだ。でも、お父さんは、『男同士、女同士が結婚するなんて気持ち悪い。そんなことは頭のおかしい連中のすることだ!』って言うの。お母さんの親戚の結婚式が終わって、おうちに帰ったら――お父さん、お母さんのことを殴って怒ったの……」
日向の話を聞いて、朔夜は何も口がきけなくなってしまう。
「結婚って、ふたりだけでするものじゃないよね。少なくとも、お父さんやお母さんに許してもらわなきゃできないでしょ?」
すぐに日向の言葉を否定できたら、どんなによかっただろうか。だが朔夜にはできなかった。それどころか日向の言葉を肯定しそうになる。朔夜は、日向の目を見つめていることができなくて、目線を草地へとやった。
「なあ、どうして受け取ってくれないんだよ? 俺がすぐ泣くし、怒るし、日向を傷つけるような女々しいやつだから結婚するのが、いやなのか? それとも『男同士で結婚なんて気持ち悪い!』って思ったから?」
自分の口にした言葉にショックを受けた朔夜は、まるで段ボールの中に捨てられた子犬のように、身体を震わせる。
「違うよ」と日向は首を横に振る。「僕、さくちゃんのことが好き。困ってる子がいたら助けにいく正義のヒーローみたいで、かっこいいなあって思う。いつも、光輝くんからいじめられている僕にもやさしくしてくれて、僕が悲しい気持ちになっていると必ず駆けつけてくれる。だけど……男の子同士で結婚できるなんて、夢にも思ってなかったの。オメガバースとか、魂の番についても初めて聞くから、びっくりしちゃったんだ。
でもね、さくちゃんに『お嫁さんになるんだ』って言われたとき『気持ち悪い』なんてこれっぽっちも思わなかったよ! だって、さくちゃんとこれから先も、ずっと一緒にいたいもん。家族になって、同じおうちに住んで朝も、昼も、夜も仲よくできたらいいな、って思うよ」
日向から「好き」の一言を聞けた朔夜は、その場で躍り出したいたい気分になる。あからさまに機嫌がよくなって、表情も明るくなる。でれっとした顔になり、口元がにやけそうになるのを、なんとか我慢する。
だが日向は難しい顔をして朔夜のことを見据えた。
「ねえ、さくちゃん。親戚の結婚式がすてきだった、ってお話をしたよね。その人たちは多分、さくちゃんの言う魂の番じゃないかな? 男の人同士で式を挙げていたから」
「そうか! いいな、俺たちも、いつか……」
「だからお父さんは、僕とさくちゃんが番になるのも、結婚するのも絶対に反対するよ」
朔夜は、日向の言葉を耳にすると笑うのをぴたりとやめ、表情を強張らせた。
「おじさんが? どういうことだ」
「……お母さんはね、『大好きな人と結婚することは、とっても幸せなことで、すてきなことだよ』って教えてくれたんだ。でも、お父さんは、『男同士、女同士が結婚するなんて気持ち悪い。そんなことは頭のおかしい連中のすることだ!』って言うの。お母さんの親戚の結婚式が終わって、おうちに帰ったら――お父さん、お母さんのことを殴って怒ったの……」
日向の話を聞いて、朔夜は何も口がきけなくなってしまう。
「結婚って、ふたりだけでするものじゃないよね。少なくとも、お父さんやお母さんに許してもらわなきゃできないでしょ?」
すぐに日向の言葉を否定できたら、どんなによかっただろうか。だが朔夜にはできなかった。それどころか日向の言葉を肯定しそうになる。朔夜は、日向の目を見つめていることができなくて、目線を草地へとやった。
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