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第4章
オメガバース3
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隣にいた朔夜は顔を上げ、日向のことをじっと見てから、眉をへにょりとさせる。
「光輝の家は、この町が村だったときから代々住んでる。ご先祖さまは地主や村長をやってきた。親戚の家はアルファが生まれることもある。けど、あいつの家にアルファが生まれたことは一度だってない。光輝はそれをコンプレックスに思ってる。だから俺をいじめて、憂さ晴らしをしたんだ。――ほんと、なんもかんもが、いやになったよ。そんなときに日向がこの町に来てくれたんだ」
小首を傾げて日向は「僕が?」と朔夜に訊く。
「ああ。俺、すっげえ運がよかったんだ。宝くじの一等賞を引き当てちまった! 一生の間に会えるかどうかもわからねえ魂の番と出会えたんだ。おまえと初めて会ったときにビビビッて来た。日向が俺の運命だってわかったよ。おまえと出会った後に病院へ行ったら、俺のバース性はオメガからアルファに変わってたんだ!」
朔夜は日向の両手を手に取り、破顔した。
「それから光輝たちは俺のことを馬鹿にしなくなった。父ちゃんも母ちゃんと仲直りができて、兄ちゃんも俺を弟として認めてくれたんだ。親戚のやつらも俺を、のけ者として扱わなくなった! 全部日向のおかげだ。おまえと出会えて、俺は不幸な透明人間じゃなくなった。幸せになれたんだよ!」
あまりにも朔夜がうれしそうに笑うから、つられて日向も笑顔になった。
「なんだかよくわからないけど、僕、さくちゃんのお役に立てたんだね!? よかった! でも……男の子同士で結婚はできないよ」
「普通はな。けど、アルファとオメガだったら男同士、女同士でも結婚できる。アルファはオメガの花婿で、オメガはアルファの花嫁だから」
朔夜は、日向の両肩に両手を置き直し、真剣な顔つきをした。
朔夜が泣いたり、怒ったり、笑ったりする顔はよく見るものの真剣な顔つきをするところを、日向はほとんど目にしたことがなかった。だからそんな表情を浮かべる朔夜にドキリとし、頰が熱くなる。
「俺と日向は赤い糸で結ばれてるんだ。だから、大人になったら日向は俺のお嫁さんになるんだぞ。わかったか?」
「うん、わかった。僕、さくちゃんのお嫁さんになる!」と気軽に返事をすることが、日向にはできなかった。
肩に置かれた朔夜の手は燃えるように熱く、小刻みに震えていた。本気で結婚の話をしているのは目を見ればわかった。
光の加減によって銀や空色にも見える灰色の瞳で見つめられると胸の奥が、きゅうっと切なくなる。
なんだかうれしいような、寂しいような、悲しいような気持ちになった日向は、朔夜にどう返事をしたらいいのか迷う。
あくまで日向にとって朔夜は「大切なお友達」であり、恋愛対象として見たことは一度だってない。
同じ幼稚園に通っている仲のいい男女が「将来〇〇くんと結婚する」とか「△△ちゃんが好きなんだ」と言っている姿を目にしたことは、ある。
しかし自分がだれかと恋愛をするなんてことは、夢にも思っていなかった。今にも泣き出してしまいそうな朔夜の様子を見て、日向はどうしようと思い悩んだ。
朔夜を傷つけたくはない。が、交際の話を飛ばして、いきなり結婚の話や番になる話をされても、困ってしまう。
結局日向は、わざとらしく話を逸らすことにした。
「ねえ、結婚は式を挙げて指輪の交換をした後に、誓いのキスをするんでしょ。アルファとオメガはどうやって番になるの?」
一瞬朔夜は日向の様子に戸惑いの表情を浮かべた。肩に置いていた手をそっとどけ、すぐに何事もなかったかのように、いつも通りに日向に接する。
「それはな、オメガにヒート――発情期が来たときに、アルファがオメガの項を嚙む。そうすればオメガとアルファは番になれるんだ」
「発情期って、春になるとたぬきさんや鹿さん、猫さんたちが結婚相手を探すことだよね?」
「ああ、結婚シーズンだな! ちなみに魂の番であるアルファとオメガは、雪の降る寒い冬に結婚することが多いんだってさ」と朔夜は活き活きしながら、喋った。
「春から夏にかけてじゃないんだ。でも、雪の降る日に結婚するのも、なんだかロマンチックだね!」
「そうだな! おまえと番になったり、結婚するときはおまえの家のおじさん、おばさんにも挨拶しに行かねえと。おじさんに『おまえのようなやつに息子はやらん!』って言われたりするのかな!?」
明るい未来を想像して朔夜は声を弾ませた。朔夜は「もう何言ってるの、さくちゃん。いくらなんでも気が早すぎるよ!」と日向が、恥ずかしがりながら言い返してくれるのを、心待ちにしていたのだ。
しかし日向の反応は朔夜の想像していたものとは、まったく異なるものだった。
夜中に恐ろしい化け物にでも遭遇したような表情を浮かべ、シロツメクサの指輪をじっと見つめていた。日向はたんぽぽの花冠を頭から取り去り、指輪とともに朔夜へ突き返した。
「さくちゃん、ごめんね。やっぱり、この指輪は受け取れないよ。返すね」
そう言って立ち上がると日向は草むらの隅まで歩いていって三角座りをした。それっきり口をつぐんでしまった。
「光輝の家は、この町が村だったときから代々住んでる。ご先祖さまは地主や村長をやってきた。親戚の家はアルファが生まれることもある。けど、あいつの家にアルファが生まれたことは一度だってない。光輝はそれをコンプレックスに思ってる。だから俺をいじめて、憂さ晴らしをしたんだ。――ほんと、なんもかんもが、いやになったよ。そんなときに日向がこの町に来てくれたんだ」
小首を傾げて日向は「僕が?」と朔夜に訊く。
「ああ。俺、すっげえ運がよかったんだ。宝くじの一等賞を引き当てちまった! 一生の間に会えるかどうかもわからねえ魂の番と出会えたんだ。おまえと初めて会ったときにビビビッて来た。日向が俺の運命だってわかったよ。おまえと出会った後に病院へ行ったら、俺のバース性はオメガからアルファに変わってたんだ!」
朔夜は日向の両手を手に取り、破顔した。
「それから光輝たちは俺のことを馬鹿にしなくなった。父ちゃんも母ちゃんと仲直りができて、兄ちゃんも俺を弟として認めてくれたんだ。親戚のやつらも俺を、のけ者として扱わなくなった! 全部日向のおかげだ。おまえと出会えて、俺は不幸な透明人間じゃなくなった。幸せになれたんだよ!」
あまりにも朔夜がうれしそうに笑うから、つられて日向も笑顔になった。
「なんだかよくわからないけど、僕、さくちゃんのお役に立てたんだね!? よかった! でも……男の子同士で結婚はできないよ」
「普通はな。けど、アルファとオメガだったら男同士、女同士でも結婚できる。アルファはオメガの花婿で、オメガはアルファの花嫁だから」
朔夜は、日向の両肩に両手を置き直し、真剣な顔つきをした。
朔夜が泣いたり、怒ったり、笑ったりする顔はよく見るものの真剣な顔つきをするところを、日向はほとんど目にしたことがなかった。だからそんな表情を浮かべる朔夜にドキリとし、頰が熱くなる。
「俺と日向は赤い糸で結ばれてるんだ。だから、大人になったら日向は俺のお嫁さんになるんだぞ。わかったか?」
「うん、わかった。僕、さくちゃんのお嫁さんになる!」と気軽に返事をすることが、日向にはできなかった。
肩に置かれた朔夜の手は燃えるように熱く、小刻みに震えていた。本気で結婚の話をしているのは目を見ればわかった。
光の加減によって銀や空色にも見える灰色の瞳で見つめられると胸の奥が、きゅうっと切なくなる。
なんだかうれしいような、寂しいような、悲しいような気持ちになった日向は、朔夜にどう返事をしたらいいのか迷う。
あくまで日向にとって朔夜は「大切なお友達」であり、恋愛対象として見たことは一度だってない。
同じ幼稚園に通っている仲のいい男女が「将来〇〇くんと結婚する」とか「△△ちゃんが好きなんだ」と言っている姿を目にしたことは、ある。
しかし自分がだれかと恋愛をするなんてことは、夢にも思っていなかった。今にも泣き出してしまいそうな朔夜の様子を見て、日向はどうしようと思い悩んだ。
朔夜を傷つけたくはない。が、交際の話を飛ばして、いきなり結婚の話や番になる話をされても、困ってしまう。
結局日向は、わざとらしく話を逸らすことにした。
「ねえ、結婚は式を挙げて指輪の交換をした後に、誓いのキスをするんでしょ。アルファとオメガはどうやって番になるの?」
一瞬朔夜は日向の様子に戸惑いの表情を浮かべた。肩に置いていた手をそっとどけ、すぐに何事もなかったかのように、いつも通りに日向に接する。
「それはな、オメガにヒート――発情期が来たときに、アルファがオメガの項を嚙む。そうすればオメガとアルファは番になれるんだ」
「発情期って、春になるとたぬきさんや鹿さん、猫さんたちが結婚相手を探すことだよね?」
「ああ、結婚シーズンだな! ちなみに魂の番であるアルファとオメガは、雪の降る寒い冬に結婚することが多いんだってさ」と朔夜は活き活きしながら、喋った。
「春から夏にかけてじゃないんだ。でも、雪の降る日に結婚するのも、なんだかロマンチックだね!」
「そうだな! おまえと番になったり、結婚するときはおまえの家のおじさん、おばさんにも挨拶しに行かねえと。おじさんに『おまえのようなやつに息子はやらん!』って言われたりするのかな!?」
明るい未来を想像して朔夜は声を弾ませた。朔夜は「もう何言ってるの、さくちゃん。いくらなんでも気が早すぎるよ!」と日向が、恥ずかしがりながら言い返してくれるのを、心待ちにしていたのだ。
しかし日向の反応は朔夜の想像していたものとは、まったく異なるものだった。
夜中に恐ろしい化け物にでも遭遇したような表情を浮かべ、シロツメクサの指輪をじっと見つめていた。日向はたんぽぽの花冠を頭から取り去り、指輪とともに朔夜へ突き返した。
「さくちゃん、ごめんね。やっぱり、この指輪は受け取れないよ。返すね」
そう言って立ち上がると日向は草むらの隅まで歩いていって三角座りをした。それっきり口をつぐんでしまった。
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