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第6章
約束あるいは契約1※
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朝、起きると尊の整った顔が間近にあった。
俺は「うわあ!」と叫びそうになって口元を押さえた。驚きのあまり飛び上がるところだったけど、尊の手がガッチリと俺の体を抱きしめていたからだ。
すうすうと穏やかな寝息を立てて眠っている。
あの後、俺は何度も絶頂し、尊も一度では終わらなかった。だけど途中から記憶がない。何より、ふたりともパジャマを着ている。
まさか昨日のできごとは――夢だったのか?
急に不安になると同時にひどく恥ずかしくなって、顔をうつむかせた。
それにしては唇がヒリヒリするし、腰や股関節が筋肉痛になってる。
でも尊とキスをしてたし、昨日はとてつもなく寒かった。リップを塗るのを忘れてたから唇が割れただけかも。それにウィンターカップが終わって日も浅いのに、ストバスをやった。慣れない買い出しなんかをしたせいもあるんじゃ……なんて悶々とする。
「ん……」と尊が、やけに色っぽい声を出して、色素の薄い長いまつ毛を震わせる。緑の瞳が開き、情けない顔をしている俺を映す。
「おはよ、葵」
「ああ、はよ」
「よかった。声、ガラガラになってないね……具合は、どう?」
「べつに、普通だけど」
「体、平気? 吐き気や腹痛はある? お尻や腰が痛くて、立ったり、座ったりできないとか……」
不安げな顔つきをした葵が俺の頬を撫でながら、しきりにあれこれ訊いてくる。まるで病気になった幼い子どもを前にした親みたいだ。
「そんなに心配しなくて平気だっつーの。そりゃあ少しは唇がピリピリするし、腰や足の付け根なんかがダルい感じがするけど。慣れない格好をして疲れただけだ。問題ない」
「無理……してない?」
「ああ、大丈夫だ。ちゃんとおまえのことを感じられたし……すげえ、よかった。おまえがいやじゃなければ、その……近いうちに次もしてえなって……思ってる」
突然、「葵!」と大声を出した尊が俺のことを強く抱きしめ直した。
「な、なんだよ! おまえ、どうした?」
「よかった……! また僕とエッチしたいと思ってくれてるんだね!? 僕もね、昨日は最高だったよ! 普段の葵が見せない表情とか、声とか、僕だけが知ってる葵を知れて、ひとり占めできたことに感動した。とにかく人生で一番、生きててよかったって思えたんだ。もう、きみなしじゃ生きられない……! 葵を僕だけのものにできたって実感できて、すごく素敵だったよ」
「お、おお、そりゃよかったな」
テンション高めな尊が昨日の夜のことを饒舌に語り、俺の頬に何度もキスをしてくる。それだけで心臓がうるさくなり、顔が熱くなった。
「ねえ、姫始めって知ってる?」
目をキラキラ輝かせながら尊は俺に尋ねてきた。
顔の整ったやつは寝起きも、きれいな顔をしてるんだなと思い、やつの顔を眺める。
「姫始め? なんだよ、それ。お雛さまを飾るのは三月だろ」
俺は素早く尊の腕の中から抜け出し、スリッパに足を入れ、立ち上がった。
自分の寝起きの顔が最悪なのは自分が一番よくわかってる。
目やにがつき、よだれの後が顔に残っている。紙はもずの巣のようにボサボサで、髭が生えかけてるだろう。
寝起きの間抜けな姿をした自分を恋人に見せたくない、見られたくなかった。
さっさと熱いシャワーを頭から浴びて髭を剃りたいし、髪もセッティングして、なんなら朝飯もまだだけど歯を磨いてしまいたかった。
そんな俺の考えなどつゆとも知らずに尊が背後から抱きつき、ズボンを下ろそうとしてくる。
「おい!? てめえ、何しようとしてんだ!」と尊の手を掴んで離そうとする。が、耳に息を吹きかけられ、変な声をあげながら腰が抜けてしまった。
俺の体を抱きすくめた尊が耳元でくすくすと楽しげに笑う。
「おバカな葵。姫始めっていうのはね、一年で最初にやるセックスのことだよ」
昨夜のように尊は俺の首筋に唇を押しつけて肌を吸う。やつの左手で腰を抱かれたまま、右手がパジャマの上着の中に入ってきた。その手が腹部から胸へかけてを、ゆっくり這っていく。それだけで俺の体は熱を持ち、下半身が疼き始めた。
「ね、今すぐ昨日の続きをしようよ」
「バカ! いい加減にしろって……あっ……」
散々弄られ、キスされた乳首にあいつの指先が触れただけで、俺の体は勝手に跳ねた。後ろをその反応を見た尊が、お年玉をもらえるとウキウキしている子どものように、にんまりと笑う。
「ほら、葵の体も期待してる。『気持ちいいことがしたい』って」
「……何、言ってるんだよ……ああっ!」
「昨日シたからかな? すごく敏感になってるね」
きゅっと親指と人さし指で乳首を軽く、つままれる。そのまま人さし指や中指で転がされ、下半身に熱が溜まっていくのをを感じる。
「ざけんな、計画変更だ! 今日はお雑煮食って、お参りする。で、後は家でゆっくりするんだよ!」
「えー、なんで? 葵だって三が日まで、ガッツリエッチするつもりでいたのに、どうして……」
「うるせえな! セックスがあんなに頭がバカになって、体が爆発しそうなくらい、ヤバイもんだって知らなかったからだよ。あんなこと連日連夜ヤッてられるか!? 俺は日常に戻る!」
俺は「うわあ!」と叫びそうになって口元を押さえた。驚きのあまり飛び上がるところだったけど、尊の手がガッチリと俺の体を抱きしめていたからだ。
すうすうと穏やかな寝息を立てて眠っている。
あの後、俺は何度も絶頂し、尊も一度では終わらなかった。だけど途中から記憶がない。何より、ふたりともパジャマを着ている。
まさか昨日のできごとは――夢だったのか?
急に不安になると同時にひどく恥ずかしくなって、顔をうつむかせた。
それにしては唇がヒリヒリするし、腰や股関節が筋肉痛になってる。
でも尊とキスをしてたし、昨日はとてつもなく寒かった。リップを塗るのを忘れてたから唇が割れただけかも。それにウィンターカップが終わって日も浅いのに、ストバスをやった。慣れない買い出しなんかをしたせいもあるんじゃ……なんて悶々とする。
「ん……」と尊が、やけに色っぽい声を出して、色素の薄い長いまつ毛を震わせる。緑の瞳が開き、情けない顔をしている俺を映す。
「おはよ、葵」
「ああ、はよ」
「よかった。声、ガラガラになってないね……具合は、どう?」
「べつに、普通だけど」
「体、平気? 吐き気や腹痛はある? お尻や腰が痛くて、立ったり、座ったりできないとか……」
不安げな顔つきをした葵が俺の頬を撫でながら、しきりにあれこれ訊いてくる。まるで病気になった幼い子どもを前にした親みたいだ。
「そんなに心配しなくて平気だっつーの。そりゃあ少しは唇がピリピリするし、腰や足の付け根なんかがダルい感じがするけど。慣れない格好をして疲れただけだ。問題ない」
「無理……してない?」
「ああ、大丈夫だ。ちゃんとおまえのことを感じられたし……すげえ、よかった。おまえがいやじゃなければ、その……近いうちに次もしてえなって……思ってる」
突然、「葵!」と大声を出した尊が俺のことを強く抱きしめ直した。
「な、なんだよ! おまえ、どうした?」
「よかった……! また僕とエッチしたいと思ってくれてるんだね!? 僕もね、昨日は最高だったよ! 普段の葵が見せない表情とか、声とか、僕だけが知ってる葵を知れて、ひとり占めできたことに感動した。とにかく人生で一番、生きててよかったって思えたんだ。もう、きみなしじゃ生きられない……! 葵を僕だけのものにできたって実感できて、すごく素敵だったよ」
「お、おお、そりゃよかったな」
テンション高めな尊が昨日の夜のことを饒舌に語り、俺の頬に何度もキスをしてくる。それだけで心臓がうるさくなり、顔が熱くなった。
「ねえ、姫始めって知ってる?」
目をキラキラ輝かせながら尊は俺に尋ねてきた。
顔の整ったやつは寝起きも、きれいな顔をしてるんだなと思い、やつの顔を眺める。
「姫始め? なんだよ、それ。お雛さまを飾るのは三月だろ」
俺は素早く尊の腕の中から抜け出し、スリッパに足を入れ、立ち上がった。
自分の寝起きの顔が最悪なのは自分が一番よくわかってる。
目やにがつき、よだれの後が顔に残っている。紙はもずの巣のようにボサボサで、髭が生えかけてるだろう。
寝起きの間抜けな姿をした自分を恋人に見せたくない、見られたくなかった。
さっさと熱いシャワーを頭から浴びて髭を剃りたいし、髪もセッティングして、なんなら朝飯もまだだけど歯を磨いてしまいたかった。
そんな俺の考えなどつゆとも知らずに尊が背後から抱きつき、ズボンを下ろそうとしてくる。
「おい!? てめえ、何しようとしてんだ!」と尊の手を掴んで離そうとする。が、耳に息を吹きかけられ、変な声をあげながら腰が抜けてしまった。
俺の体を抱きすくめた尊が耳元でくすくすと楽しげに笑う。
「おバカな葵。姫始めっていうのはね、一年で最初にやるセックスのことだよ」
昨夜のように尊は俺の首筋に唇を押しつけて肌を吸う。やつの左手で腰を抱かれたまま、右手がパジャマの上着の中に入ってきた。その手が腹部から胸へかけてを、ゆっくり這っていく。それだけで俺の体は熱を持ち、下半身が疼き始めた。
「ね、今すぐ昨日の続きをしようよ」
「バカ! いい加減にしろって……あっ……」
散々弄られ、キスされた乳首にあいつの指先が触れただけで、俺の体は勝手に跳ねた。後ろをその反応を見た尊が、お年玉をもらえるとウキウキしている子どものように、にんまりと笑う。
「ほら、葵の体も期待してる。『気持ちいいことがしたい』って」
「……何、言ってるんだよ……ああっ!」
「昨日シたからかな? すごく敏感になってるね」
きゅっと親指と人さし指で乳首を軽く、つままれる。そのまま人さし指や中指で転がされ、下半身に熱が溜まっていくのをを感じる。
「ざけんな、計画変更だ! 今日はお雑煮食って、お参りする。で、後は家でゆっくりするんだよ!」
「えー、なんで? 葵だって三が日まで、ガッツリエッチするつもりでいたのに、どうして……」
「うるせえな! セックスがあんなに頭がバカになって、体が爆発しそうなくらい、ヤバイもんだって知らなかったからだよ。あんなこと連日連夜ヤッてられるか!? 俺は日常に戻る!」
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