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第4章
長くそばに……3
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そんなふうにしていつもの調子に戻り、昼食の準備を手早く終える。TVの年末特集をBGM代わりに流して自分たちで作った昼ごはんを食べる。
食べ終えた後は、てきぱきと皿洗いを済ませた。今夜食べる年越しそばや元旦に食べるおせちや、お雑煮をいつでも食べられるようにしておく。
「このまま行かないですっぽかしたりしたら、鬼電されて最悪うちにやって来られたりしたら、ふたりきりで夜を過ごせなくなっちゃうよ。だからストバス、行こっか」と俺の意思を尊は尊重してくれた。
うれしくなった思わず「尊、マジ最高! 超、太っ腹!」と抱きつけば「僕ってば葵の甘やかしすぎだよね。今日だけなんだから」と怒られてしまう。
その後は、ふたりして腹ごなしにストバスをしに出かけた。合流した部員や他校のライバルなんかと夜になるまでバスケを楽しんだ。
「あー……また点、取られたわ! マジで平田、強いわ」
「それな! 槙野、抑えたからこっちのもんなんて思ってるとあっという間にゴール決められてるし」と対戦相手がぼやいた。
「ニコイチ強くても、うちは勝ったよ」
「まあ、かなりの接戦で危なかったけどな」
「それで、おまえらはこの後、どうするわけ?」
「おれらは、そば屋でそば食ったり、家で食ってから除夜の鐘を聞きに行くぞ」
「ごめんね、みんなー。今年は僕と葵はふたりでイルミネーション見に行くから遠慮させてもらうねー。ねっ、葵」
語尾にハートでもついているような甘ったるい声に胸焼けがする。
汗塗れになった尊が後ろからベッタリと俺に抱きついてきた。「んー」なんて目を閉じ、唇を尖らせて俺の頬に口づけてこようとする。
バスケ部の仲間も他校のライバルも、「また始まった」と呆れ顔をしたり、げんなりした顔をしていた。
こんなときでもスキンシップをとってこようとする尊にハラハラさせられる。同時に、こんなおふざけにすら心臓がドキドキする自分が、なんだか情けなく思えた。こんな状態で本当に今夜、尊と体を繋げられるのだろうかと内心不安に思う。
もちろん俺は、そんな不安をおくびも出さない。
怒っているそぶりをして、老若男女から人気のある人間とは思えないくらいに整った小顔を手で鷲掴み、力任せに押しのけようとする。
「わー、葵!? 痛い、痛いってば!」
「自業自得だろ。てめえ、マジでふざけるのも大概にしろよな!」
「ちぇっ! なんだよ、つれないなー」
俺の胴体に巻きつけていた手を尊が離す。その瞬間、カシャリとかすかにシャッターを切る音がする。
音のしたほうへ顔を向ければコートの外に、長身の男が立っていた。すでに街灯がつき、夜空に星がきらめいているのにサングラスをかけ、マスクをし、黒いパーカーをかぶった人物が一眼レフのカメラを手にしている。
「おい、おまえ! 何、撮ってんだよ!?」
怒鳴るとその人物は陸上選手のごとく、走り去っていった。すぐに見失ってしまった俺は、トボトボとコートへ戻る。
「くっそ、逃げられた!」
「あー、またか……」
部員のひとりが後頭部を掻きながら、ため息をつく。
「だな。尊の追っかけの盗撮。今月で何回目?」
「三十回は優に超えてる」と俺は答える。急にむしゃくしゃした気分になってフェンスを拳で殴りつけた。
容姿の優れた尊はモテるだけでなく、写真部やプロのカメラマンに「写真を撮らせてほしい」と頼まれることが多い。同時に今日みたいな、いかにも不審者って感じのやつがやってきて尊が外でバスケをしていたり、俺と出かけていると無断で写真を撮るのだ。中には尊の恋人を自称する子なんかもいて、刃物を持って出待ちしてい試合の後に尊を……なんてこともあった。
「もう、こればっかはしょうがないよね。警察も危害を加えられない限りは動けないわけだし」
他校のライバル選手が人さし指の上に乗せたボールを回す。
「葵、もういいよ。手が傷ついたりしたら大変だよ」
「けど! また、おまえに何かあったら……!」
すると尊が俺の肩を抱き、ほかのやつらには聞こえないように耳打ちをしてきた。
「大丈夫。あいつは、そんなことができるタマじゃないから」
「大丈夫じゃねえって! 裸のコラ画像とか、女の子に手を出してる合成写真なんかをSNSや掲示板なんかに投稿されたりしたら、おまえの選手生命がヤバいだろ!?」
「安心して、葵」と尊は子どものように無邪気な笑みを浮かべる。「今はね、あえて放置して好き勝手に泳がているところなんだ。でも、あいつが僕の作った境界線を無断で超えてきたら、そのときはただでは済まさないから」
見たものを凍りつかせるような冷たい目をして残酷な言葉をいともたやすく口にする。
そんな尊らしくない様子に俺の背筋がゾクリとし、体が一気に冷えていった。
「尊……?」
彼の表情に戸惑いを覚え、なんと声をかけたらいいかわからなくなってしまう。
「あー……さっむいなあ! このままここにいたら、体温を奪われて風邪でも引きそうだよ」
タオルや水筒をカバンに乱雑に入れた尊がグイと腕を引っ張る。
「そういうわけで僕たちは先に帰らせてもらうね。みんな、よいお年をー」
「そういうわけって……と、とにかく、また後で連絡する。じゃあな!」
食べ終えた後は、てきぱきと皿洗いを済ませた。今夜食べる年越しそばや元旦に食べるおせちや、お雑煮をいつでも食べられるようにしておく。
「このまま行かないですっぽかしたりしたら、鬼電されて最悪うちにやって来られたりしたら、ふたりきりで夜を過ごせなくなっちゃうよ。だからストバス、行こっか」と俺の意思を尊は尊重してくれた。
うれしくなった思わず「尊、マジ最高! 超、太っ腹!」と抱きつけば「僕ってば葵の甘やかしすぎだよね。今日だけなんだから」と怒られてしまう。
その後は、ふたりして腹ごなしにストバスをしに出かけた。合流した部員や他校のライバルなんかと夜になるまでバスケを楽しんだ。
「あー……また点、取られたわ! マジで平田、強いわ」
「それな! 槙野、抑えたからこっちのもんなんて思ってるとあっという間にゴール決められてるし」と対戦相手がぼやいた。
「ニコイチ強くても、うちは勝ったよ」
「まあ、かなりの接戦で危なかったけどな」
「それで、おまえらはこの後、どうするわけ?」
「おれらは、そば屋でそば食ったり、家で食ってから除夜の鐘を聞きに行くぞ」
「ごめんね、みんなー。今年は僕と葵はふたりでイルミネーション見に行くから遠慮させてもらうねー。ねっ、葵」
語尾にハートでもついているような甘ったるい声に胸焼けがする。
汗塗れになった尊が後ろからベッタリと俺に抱きついてきた。「んー」なんて目を閉じ、唇を尖らせて俺の頬に口づけてこようとする。
バスケ部の仲間も他校のライバルも、「また始まった」と呆れ顔をしたり、げんなりした顔をしていた。
こんなときでもスキンシップをとってこようとする尊にハラハラさせられる。同時に、こんなおふざけにすら心臓がドキドキする自分が、なんだか情けなく思えた。こんな状態で本当に今夜、尊と体を繋げられるのだろうかと内心不安に思う。
もちろん俺は、そんな不安をおくびも出さない。
怒っているそぶりをして、老若男女から人気のある人間とは思えないくらいに整った小顔を手で鷲掴み、力任せに押しのけようとする。
「わー、葵!? 痛い、痛いってば!」
「自業自得だろ。てめえ、マジでふざけるのも大概にしろよな!」
「ちぇっ! なんだよ、つれないなー」
俺の胴体に巻きつけていた手を尊が離す。その瞬間、カシャリとかすかにシャッターを切る音がする。
音のしたほうへ顔を向ければコートの外に、長身の男が立っていた。すでに街灯がつき、夜空に星がきらめいているのにサングラスをかけ、マスクをし、黒いパーカーをかぶった人物が一眼レフのカメラを手にしている。
「おい、おまえ! 何、撮ってんだよ!?」
怒鳴るとその人物は陸上選手のごとく、走り去っていった。すぐに見失ってしまった俺は、トボトボとコートへ戻る。
「くっそ、逃げられた!」
「あー、またか……」
部員のひとりが後頭部を掻きながら、ため息をつく。
「だな。尊の追っかけの盗撮。今月で何回目?」
「三十回は優に超えてる」と俺は答える。急にむしゃくしゃした気分になってフェンスを拳で殴りつけた。
容姿の優れた尊はモテるだけでなく、写真部やプロのカメラマンに「写真を撮らせてほしい」と頼まれることが多い。同時に今日みたいな、いかにも不審者って感じのやつがやってきて尊が外でバスケをしていたり、俺と出かけていると無断で写真を撮るのだ。中には尊の恋人を自称する子なんかもいて、刃物を持って出待ちしてい試合の後に尊を……なんてこともあった。
「もう、こればっかはしょうがないよね。警察も危害を加えられない限りは動けないわけだし」
他校のライバル選手が人さし指の上に乗せたボールを回す。
「葵、もういいよ。手が傷ついたりしたら大変だよ」
「けど! また、おまえに何かあったら……!」
すると尊が俺の肩を抱き、ほかのやつらには聞こえないように耳打ちをしてきた。
「大丈夫。あいつは、そんなことができるタマじゃないから」
「大丈夫じゃねえって! 裸のコラ画像とか、女の子に手を出してる合成写真なんかをSNSや掲示板なんかに投稿されたりしたら、おまえの選手生命がヤバいだろ!?」
「安心して、葵」と尊は子どものように無邪気な笑みを浮かべる。「今はね、あえて放置して好き勝手に泳がているところなんだ。でも、あいつが僕の作った境界線を無断で超えてきたら、そのときはただでは済まさないから」
見たものを凍りつかせるような冷たい目をして残酷な言葉をいともたやすく口にする。
そんな尊らしくない様子に俺の背筋がゾクリとし、体が一気に冷えていった。
「尊……?」
彼の表情に戸惑いを覚え、なんと声をかけたらいいかわからなくなってしまう。
「あー……さっむいなあ! このままここにいたら、体温を奪われて風邪でも引きそうだよ」
タオルや水筒をカバンに乱雑に入れた尊がグイと腕を引っ張る。
「そういうわけで僕たちは先に帰らせてもらうね。みんな、よいお年をー」
「そういうわけって……と、とにかく、また後で連絡する。じゃあな!」
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