今宵、百合の庭園で……

鶴機 亀輔

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第3章

幸福な男3

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「どうしたの?」と尊が柔和な笑みを浮かべて首をかしげた。

「いや、だから――うちに遊びに来ねえか? そばとか、お節とか、準備するから出かけるとき以外はうちにいるのとか、どうだ」

「いいの?」

「ああ、もちろん。じゃなきゃ、誘ったりしねえよ」

「やった!」

 傘を差した尊が満面の笑みを浮かべて子供のように、はしゃいだ。

「じゃあ、じゃあ買い物とかもさ、明日の午前中に一緒にしようよ! 年末の年越しそばにはエビとかイカ天があったほうがいいよね!? お節の具材、まだ変えるかな……お雑煮は関西風と関東風のどっち?」

「ああ、そうだな。年越しに素そばっていうのも、なんか物足りねえしな。明日の朝一番なら具材とかも売ってると思うぞ? 最悪お惣菜を買うことも視野に入れておくか。お節の具材もふたりで食うんだから好きなものだけにして。雑煮はネットで調べて簡単にできるやつとか、どうだ。俺、作るぞ」

「葵、最高! 学食で急いで、かけそばっていうわけじゃないし。最悪の場合は、かき揚げやさつまいもの天ぷら、人参なんかで食べちゃおう。かまぼこみたいなしょっぱい系と栗きんとんみたいな甘い系で無限に食べれそうだね!」

「だな。そばの揚げ物ののほうは、おまえに頼んでもいいか。揚げ物苦手で……めんつゆとか、そばのほうをやるからさ」

 すでに俺と尊は、ふたりだけの年末年始をやる気満々で話し合った。

「任せて! 美味しくなるように頑張るね」

「正月太りしない程度に食おうぜ!」

「うん、そうしよう! 早速、明日の七時にみかん箱持って、葵の家に行くね」

 年末年始をバスケ部のメンバーと過ごして大みそかの晩に鍋パーティをしたり、神社やお寺でカウントダウンなんかもやったのは思い出深い。

 俺も、尊も付き合っているといいつつも高校生活はバスケ、バスケだった。クリスマスはウインターカップの試合で熱くなってたて結局恋人らしいことといえば、ささやかなプレゼント交換くらいで終わった。

 けど、今年の年末年始は尊とふたりきりで恋人らしいことをして過ごせる事実に胸が騒ぐ。

「おう、待ってる。後さ、うちの親は三が日までは香川にいるんだ」

「そうなんだ。久々の家族水入らずって感じで羽根を伸ばさなくても大丈夫? 尊ちゃん、おじさんたちがいなくなったら淋しいんじゃない?」

「バカ! 十八の大の男だぞ。母さんなんて『尊ちゃんに見てもらってるんだから、いい成績取れてるわよね!?』なんて言っては、しょっちゅう抜き打ちテストや、考査の結果表、模試の成績を見てきたんだぜ。父さんは父さんで『バスケばかりやってないで資格を取得したり、他の趣味を作ったりしないのか?』なんて、うるせえし。英語や漢字の資格は取ってあるし、バスケやる以外に本を読んだり、料理することだってあるっつーの! あのふたりがいなければ、むしろせいせいするよ。ひとり暮らしの気分を満喫できるから嬉しいくらいだ!」

「そんなこと言っちゃダメだよ。ふたりとも葵のことを心配して言ってるんだから」

 眉をひそめた尊に諌められて複雑な気持ちになる。

 別に家族仲が悪かったり、虐待とかネグレクトを受けてるわけじゃない。スパルタ教育を受けてるわけでもなく、家族仲はいいほうだと思う。

 でも俺なりに父さんと母さんに対して親孝行してるのに、いつも「尊ちゃんは」「尊くんは」と比較されるのが面白くない。 

「でさあ、うちの親や、おじさんやおばさんが帰るまでの間……うちに泊まらねえか?」

 雪が降ってるのに体が熱い。

 俺はマフラーの中に顔をうずめて葵の返事を待った。

「何、どうしたの、葵。確かに僕たちは隣近所だけどさ……あっ、もしかしてひとり寝が淋しい? 僕に添い寝してほしいの!? やだなー、それならそうと言ってよー」

 へらへらと笑いながら尊は後頭部を掻いた。

 高校で三年間、俺と尊はニコイチで扱われた。尊と俺が付き合っていることは、お互いの家族以外には黙っている。だから学校では仲のいいコンビとして扱われてきた。

 尊がわざとふざけて俺に絡んだり、ボケをかまして、俺がツッコミを入れる――という役回りだと思われてきた。

 実際、尊と恋人になってからも、やつは俺をからかってくる。

 だけど、そこには恋人同士でいちゃついているのをごまかしている部分がないとは、言い切れない。

 で、バスケの強化合宿所でも、修学旅行でホテルに泊まったときも俺と尊は同室だった。

 監督や教師、先輩たちからも「槙野は平田と一緒でいいよな」と三年間言われ続け、そのたびに尊は「やったー! 葵ちゃんと一緒だ」と大げさに喜んだ。

「葵は実は淋しがりやで、僕が隣にいないと熟睡できないんです。だから、いつも僕が葵専用抱き枕になって添い寝をしてあげることになってます!」なんてホラを吹き、「んなわけねえだろ、バカ野郎!」と大声で叫ぶのがお決まりだった。

 だけど俺が尊を抱き枕にして寝ることはなかったし、ホテルに泊まってふたりきりになってもお互い別々のベッドで寝た。
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