14 / 34
第2章
親公認の仲!?2
しおりを挟む
父さんは俺の声なんて聞こえていないみたいに、俺の前を通り過ぎてスーツから部屋着へ着替えるために自室へと帰っていく。
呆然としていれば、母さんの「葵、何してるの?」という声が聞こえてきた。
今日の夕飯は、カリカリでサクサクに揚がっているエビフライと千切りキャベツのトマト添え。らっきょう入りのピリ辛タルタルソースがドレッシング代わりで、ホカホカの白米と、昆布とおかかの出汁がきいてる豆腐となめこの味噌汁だ。
ちゃっかり尊が母さんの料理を手伝って、夕食を一緒に食べているのは百歩譲ってよしとする。だけど――……。
「そうか、それはよかったな。尊くんも、ようやく葵と両思いか! めでたいなー」
「そうね、あなた。尊くんなら葵を任せても大丈夫だから安心ね。後、五年か十年もすれば、私も尊くんのお母さんね。……こんなイケメンで、お手伝いもできる子が息子になるなら、嬉しい限りよ」
「いやー、おばさんってば気が早いですよ! まだ僕たち、」
なんで、この人たち、普通に談笑してるわけ……?
そりゃあ小学生の頃から、しょっちゅう尊の家に行ったり来たりしてる。小学生の頃は家族ぐるみで旅行もした。
中学に入って部活が忙しくなってからも、俺が向こうの家で食事をさせてもらったり、今日みたいに尊が俺の家で飯を食うこともある。テスト期間のときだって図書館に寄ったり、バーガーショップで勉強したり、息抜きにストバスなんかをやることだって、ある。
仕事をしている両親よりも尊と一緒にいる時間のほうが長いことは確かだ。
だからって、ひとり息子に同性の恋人ができたんだぞ。しかも隣んちの同級生だ。
一言、二言意見を言ったりしねえのかなと疑問に思う(逆に反対されたら尊がへそを曲げて、めんどくさいことになりそうだけど……)。
俺たちはLGBTQについて授業でやったりするけど、父さんや母さんの世代では同性愛なんてナンセンスな話か、アニメやドラマなんかで取り上げられるお茶の間のお笑いで取り上げられるネタって感覚がデカいと思う。ましてや、うちの両親は海外に行ったり、日本人以外の人と職場で関わり合いを持つこともないわけだし。
父さんや母さんも尊ラブって感じで、贔屓してるのはわかっているけど、こんなにすんなり受け入れられるものかと驚いてしまう。
俺の感覚が、おかしいのか? と思いつつ、ソースをかけたエビフライと甘じょっぱいタルタルソースのかかった千切りキャベツを頬張り、咀嚼する。エビの尻尾をガジガジ齧りつつ、味噌汁の入った椀に手を伸ばす。
「へたに女の子と付き合って妊娠……なんて心配する必要もないしねー」
のほほんとした声で母さんがとんでもない爆弾発言をして、俺は飲んでいた味噌汁が気管に入り、吹き出した。慌てて手を当てたものの対面する形で座っている父さんが、心底いやそうな顔をした。
でも溺れたときみたいに苦しくて何も言えなくなってしまう。
「ちょっと!? あんた、汚いわね。何してるのよ……」
「葵ちゃん、大丈夫!?」
俺の斜め左前に座っていた母さんがテーブルの上にあったティッシュと台拭きを寄越し、左横に座っている尊が俺の背中をさする。
涙目になりながら、俺は母さんに向かって文句を言った。
「か、母さんが悪いんだよ。なんつー発言を……」
「母さんのどこが悪いんだ、葵。……尊くんなら、子供の頃から見ているから、どういう人間か俺たちも知っている。電車の中でいちゃついたり、学校の中やそこら辺の路上で発情することもなければ、ラブホに入ろうとすることもないだろう。品行方正で礼儀正しい。尊くんがおまえの彼氏になるなら清く正しく、学生らしいお付き合いができるだろう」
もっともな意見を言ったといわんばかりの顔をして、うんうんと首を縦に振りながら、父さんがご飯を口の中に入れて味わい深そうに噛んでいる。
「はい、葵ちゃんには十八歳になるまで不純な行為は絶対にしないと、おじさんとおばさんに誓います!」
キリッと凛々しい顔で尊が答えれば、母さんが「さすが、尊ちゃん!」と目をキラキラさせている。
「いえ、それほどでも……褒められると照れちゃいます」
えへへと尊がデレデレしながら頭の後ろをかいた。
「ところで尊くん、葵の勉強のことなんだがな」
「はい、なんでしょう。おじさん!」
なんなんだ、この茶番……と思いながら俺は口元をティッシュで拭い、味噌汁をこぼしたテーブルの上を台拭きで拭くのだった。
箸を進めていれば、あっという間に楽しい(?)夕食の時間が終わった。
俺は父さんたちに言われるまま尊が暴漢や不審者に襲われないよう、家まで送っていった。
「ありがとね、葵ちゃん! 家まで送ってくれて」
「俺としては、俺の部屋のベランダからジャンプしてもらいたいところだったんだけどな」
俺の部屋と尊の部屋はちょうど向かいにあり、ガキの頃からよくベランダを伝って、互いの部屋に行き来していた。
「まあまあ、そういうこと言わないでよ。おじさんとおばさんも交際スタートの日だから気を遣ってくれたんだって」
呆然としていれば、母さんの「葵、何してるの?」という声が聞こえてきた。
今日の夕飯は、カリカリでサクサクに揚がっているエビフライと千切りキャベツのトマト添え。らっきょう入りのピリ辛タルタルソースがドレッシング代わりで、ホカホカの白米と、昆布とおかかの出汁がきいてる豆腐となめこの味噌汁だ。
ちゃっかり尊が母さんの料理を手伝って、夕食を一緒に食べているのは百歩譲ってよしとする。だけど――……。
「そうか、それはよかったな。尊くんも、ようやく葵と両思いか! めでたいなー」
「そうね、あなた。尊くんなら葵を任せても大丈夫だから安心ね。後、五年か十年もすれば、私も尊くんのお母さんね。……こんなイケメンで、お手伝いもできる子が息子になるなら、嬉しい限りよ」
「いやー、おばさんってば気が早いですよ! まだ僕たち、」
なんで、この人たち、普通に談笑してるわけ……?
そりゃあ小学生の頃から、しょっちゅう尊の家に行ったり来たりしてる。小学生の頃は家族ぐるみで旅行もした。
中学に入って部活が忙しくなってからも、俺が向こうの家で食事をさせてもらったり、今日みたいに尊が俺の家で飯を食うこともある。テスト期間のときだって図書館に寄ったり、バーガーショップで勉強したり、息抜きにストバスなんかをやることだって、ある。
仕事をしている両親よりも尊と一緒にいる時間のほうが長いことは確かだ。
だからって、ひとり息子に同性の恋人ができたんだぞ。しかも隣んちの同級生だ。
一言、二言意見を言ったりしねえのかなと疑問に思う(逆に反対されたら尊がへそを曲げて、めんどくさいことになりそうだけど……)。
俺たちはLGBTQについて授業でやったりするけど、父さんや母さんの世代では同性愛なんてナンセンスな話か、アニメやドラマなんかで取り上げられるお茶の間のお笑いで取り上げられるネタって感覚がデカいと思う。ましてや、うちの両親は海外に行ったり、日本人以外の人と職場で関わり合いを持つこともないわけだし。
父さんや母さんも尊ラブって感じで、贔屓してるのはわかっているけど、こんなにすんなり受け入れられるものかと驚いてしまう。
俺の感覚が、おかしいのか? と思いつつ、ソースをかけたエビフライと甘じょっぱいタルタルソースのかかった千切りキャベツを頬張り、咀嚼する。エビの尻尾をガジガジ齧りつつ、味噌汁の入った椀に手を伸ばす。
「へたに女の子と付き合って妊娠……なんて心配する必要もないしねー」
のほほんとした声で母さんがとんでもない爆弾発言をして、俺は飲んでいた味噌汁が気管に入り、吹き出した。慌てて手を当てたものの対面する形で座っている父さんが、心底いやそうな顔をした。
でも溺れたときみたいに苦しくて何も言えなくなってしまう。
「ちょっと!? あんた、汚いわね。何してるのよ……」
「葵ちゃん、大丈夫!?」
俺の斜め左前に座っていた母さんがテーブルの上にあったティッシュと台拭きを寄越し、左横に座っている尊が俺の背中をさする。
涙目になりながら、俺は母さんに向かって文句を言った。
「か、母さんが悪いんだよ。なんつー発言を……」
「母さんのどこが悪いんだ、葵。……尊くんなら、子供の頃から見ているから、どういう人間か俺たちも知っている。電車の中でいちゃついたり、学校の中やそこら辺の路上で発情することもなければ、ラブホに入ろうとすることもないだろう。品行方正で礼儀正しい。尊くんがおまえの彼氏になるなら清く正しく、学生らしいお付き合いができるだろう」
もっともな意見を言ったといわんばかりの顔をして、うんうんと首を縦に振りながら、父さんがご飯を口の中に入れて味わい深そうに噛んでいる。
「はい、葵ちゃんには十八歳になるまで不純な行為は絶対にしないと、おじさんとおばさんに誓います!」
キリッと凛々しい顔で尊が答えれば、母さんが「さすが、尊ちゃん!」と目をキラキラさせている。
「いえ、それほどでも……褒められると照れちゃいます」
えへへと尊がデレデレしながら頭の後ろをかいた。
「ところで尊くん、葵の勉強のことなんだがな」
「はい、なんでしょう。おじさん!」
なんなんだ、この茶番……と思いながら俺は口元をティッシュで拭い、味噌汁をこぼしたテーブルの上を台拭きで拭くのだった。
箸を進めていれば、あっという間に楽しい(?)夕食の時間が終わった。
俺は父さんたちに言われるまま尊が暴漢や不審者に襲われないよう、家まで送っていった。
「ありがとね、葵ちゃん! 家まで送ってくれて」
「俺としては、俺の部屋のベランダからジャンプしてもらいたいところだったんだけどな」
俺の部屋と尊の部屋はちょうど向かいにあり、ガキの頃からよくベランダを伝って、互いの部屋に行き来していた。
「まあまあ、そういうこと言わないでよ。おじさんとおばさんも交際スタートの日だから気を遣ってくれたんだって」
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き
toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった!
※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。
pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/100148872
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。



家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
真面目な部下に開発されました
佐久間たけのこ
BL
社会人BL、年下攻め。甘め。完結までは毎日更新。
※お仕事の描写など、厳密には正しくない箇所もございます。フィクションとしてお楽しみいただける方のみ読まれることをお勧めします。
救急隊で働く高槻隼人は、真面目だが人と打ち解けない部下、長尾旭を気にかけていた。
日頃の努力の甲斐あって、隼人には心を開きかけている様子の長尾。
ある日の飲み会帰り、隼人を部屋まで送った長尾は、いきなり隼人に「好きです」と告白してくる。

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。
牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。
牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。
そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。
ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー
母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。
そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー
「え?僕のお乳が飲みたいの?」
「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」
「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」
そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー
昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」
*
総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。
いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><)
誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる