今宵、百合の庭園で……

鶴機 亀輔

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第2章

親公認の仲!?2

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 父さんは俺の声なんて聞こえていないみたいに、俺の前を通り過ぎてスーツから部屋着へ着替えるために自室へと帰っていく。

 呆然としていれば、母さんの「葵、何してるの?」という声が聞こえてきた。



 今日の夕飯は、カリカリでサクサクに揚がっているエビフライと千切りキャベツのトマト添え。らっきょう入りのピリ辛タルタルソースがドレッシング代わりで、ホカホカの白米と、昆布とおかかの出汁がきいてる豆腐となめこの味噌汁だ。

 ちゃっかり尊が母さんの料理を手伝って、夕食を一緒に食べているのは百歩譲ってよしとする。だけど――……。

「そうか、それはよかったな。尊くんも、ようやく葵と両思いか! めでたいなー」

「そうね、あなた。尊くんなら葵を任せても大丈夫だから安心ね。後、五年か十年もすれば、私も尊くんのお母さんね。……こんなイケメンで、お手伝いもできる子が息子になるなら、嬉しい限りよ」

「いやー、おばさんってば気が早いですよ! まだ僕たち、」

 なんで、この人たち、普通に談笑してるわけ……?

 そりゃあ小学生の頃から、しょっちゅう尊の家に行ったり来たりしてる。小学生の頃は家族ぐるみで旅行もした。

 中学に入って部活が忙しくなってからも、俺が向こうの家で食事をさせてもらったり、今日みたいに尊が俺の家で飯を食うこともある。テスト期間のときだって図書館に寄ったり、バーガーショップで勉強したり、息抜きにストバスなんかをやることだって、ある。

 仕事をしている両親よりも尊と一緒にいる時間のほうが長いことは確かだ。

 だからって、ひとり息子にの恋人ができたんだぞ。しかも隣んちの同級生だ。

 一言、二言意見を言ったりしねえのかなと疑問に思う(逆に反対されたら尊がへそを曲げて、めんどくさいことになりそうだけど……)。

 俺たちはLGBTQについて授業でやったりするけど、父さんや母さんの世代では同性愛なんてナンセンスな話か、アニメやドラマなんかで取り上げられるお茶の間のお笑いで取り上げられるネタって感覚がデカいと思う。ましてや、うちの両親は海外に行ったり、日本人以外の人と職場で関わり合いを持つこともないわけだし。

 父さんや母さんも尊ラブって感じで、贔屓ひいきしてるのはわかっているけど、こんなにすんなり受け入れられるものかと驚いてしまう。

 俺の感覚が、おかしいのか? と思いつつ、ソースをかけたエビフライと甘じょっぱいタルタルソースのかかった千切りキャベツを頬張り、咀嚼する。エビの尻尾をガジガジかじりつつ、味噌汁の入った椀に手を伸ばす。

「へたに女の子と付き合って妊娠……なんて心配する必要もないしねー」

 のほほんとした声で母さんがとんでもない爆弾発言をして、俺は飲んでいた味噌汁が気管に入り、吹き出した。慌てて手を当てたものの対面する形で座っている父さんが、心底いやそうな顔をした。

 でも溺れたときみたいに苦しくて何も言えなくなってしまう。

「ちょっと!? あんた、汚いわね。何してるのよ……」

「葵ちゃん、大丈夫!?」

 俺の斜め左前に座っていた母さんがテーブルの上にあったティッシュと台拭きを寄越し、左横に座っている尊が俺の背中をさする。

 涙目になりながら、俺は母さんに向かって文句を言った。

「か、母さんが悪いんだよ。なんつー発言を……」

「母さんのどこが悪いんだ、葵。……尊くんなら、子供の頃から見ているから、どういう人間か俺たちも知っている。電車の中でいちゃついたり、学校の中やそこら辺の路上で発情することもなければ、ラブホに入ろうとすることもないだろう。品行方正で礼儀正しい。尊くんがおまえの彼氏になるなら清く正しく、学生らしいお付き合いができるだろう」

 もっともな意見を言ったといわんばかりの顔をして、うんうんと首を縦に振りながら、父さんがご飯を口の中に入れて味わい深そうに噛んでいる。

「はい、葵ちゃんには十八歳になるまで不純な行為は絶対にしないと、おじさんとおばさんに誓います!」

 キリッと凛々しい顔で尊が答えれば、母さんが「さすが、尊ちゃん!」と目をキラキラさせている。

「いえ、それほどでも……褒められると照れちゃいます」

 えへへと尊がデレデレしながら頭の後ろをかいた。

「ところで尊くん、葵の勉強のことなんだがな」

「はい、なんでしょう。おじさん!」

 なんなんだ、この茶番……と思いながら俺は口元をティッシュでぬぐい、味噌汁をこぼしたテーブルの上を台拭きで拭くのだった。

はしを進めていれば、あっという間に楽しい(?)夕食の時間が終わった。

 俺は父さんたちに言われるまま尊が暴漢や不審者に襲われないよう、家まで送っていった。

「ありがとね、葵ちゃん! 家まで送ってくれて」

「俺としては、俺の部屋のベランダからジャンプしてもらいたいところだったんだけどな」

 俺の部屋と尊の部屋はちょうど向かいにあり、ガキの頃からよくベランダを伝って、互いの部屋に行き来していた。

「まあまあ、そういうこと言わないでよ。おじさんとおばさんも交際スタートの日だから気を遣ってくれたんだって」
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