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第2章
親公認の仲!?1
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「白昼堂々と路チューなんかするか!」
目を開けた尊は「ええー、残念だなー」とブーブー文句を言っている。尊の手をギュッと握りながら額に手を当てる。
「手ぇ、つなぐのは許してやる! ハグも試合とかでするからありだ。けど、俺だってな……恋人とのファーストキスはもっとムードとかを大事にしてえとか、雰囲気のあるとこでやりたいって思ったりするんだよ! それに人目のあるところでキスするのは、なんか、やだし……」
「そうだよね。浮かれてて葵ちゃんの気持ちを、ちゃんと考えなかった。ごめんね」
情けない顔をして謝る尊を見ていれば、小動物をいじめているような感じがして胸がチクチクと針で刺されているみたいに、痛くなる。
「べつに……そこまでは気にしてねえから。ガチで謝るのは、なしな。俺だって、おまえと付き合えて、テンション上がってるし」
「そっか、葵ちゃんも同じ気持ちでいてくれるんだ。嬉しいな」
「……馬鹿。おまえのことを少しでも好きだって思わなきゃ、告白を受けても振ってるっつーの!」
穏やかに笑みを浮かべる尊を見て、夢みたいだなと思う。
俺たちは手をつないで家までの道をゆっくり歩いて帰った。
その後、遅い昼食を食べたら、すぐに恋人同士の甘い雰囲気なんて吹っ飛んだ。教科書と問題集と模試の結果やら、二年半受けた試験の答案用紙を全部ひっくり返され、五教科全部を身体に叩き込まれた。泣き言を言う暇なんか与えられず、まるでバスケの強化合宿を思い出すくらいの勢いで、夜までみっちりしごかれた。
「み、尊。もう頼むから……勘弁してくれって……俺、マジ、死んじまうって!」
立ち上がって、そのまま逃げようとすれば尊に肩を摑まれ、椅子に座るように促される。
「駄目だよ、葵ちゃん。この社会科の問題のどれかを解けるようになるまで、絶対放さないからね。はい、『いい箱作ろう』?」
「『玉手箱』? えっ、違う?」
「――『鎌倉幕府』だよ」
にっこりと笑っている尊が怖い。
交際一日目で、こんな目に遭わされるのか、わけがわからない。
どうにかして逃げようと思っていれば、一階から「「ただいま」」と父さんと母さんの声が聞こえる。
「父さん、母さん、お帰りー!」
俺はしめたと思い、すぐに立ち上がって階段を駆け下りた。
仕事終わりに仲よくふたりで帰宅した父さんと母さんは、出迎えにきた俺の姿を目にするやいなや、しかめっ面をした。
「なんだ、葵。明日の朝は槍でも降るのか?」
「そうよ……あんたが、わたしたちの迎えに来るなんて、おかしいわ。何を悪巧みしているの?」
空き巣にでも遭遇したかのような様子で、ふたりは俺の様子がいつもと違うことを訝しんだ。
「ちげえ、そうじゃねえよ! 自分の息子をなんだと思ってるんだよ!?」と喚いていれば、背後から尊がぬっと現れる。
「おじさん、おばさん。お邪魔してます」
「あれ、尊くん。この家に来るなんて珍しいね。どうしたんだい?」と父さんが、素っ頓狂な声を出した。
「もう受験シーズン突入で部活をメインにやることも少なくなるので、久々におうちへ上がらせていただきました! 実は、さっきまで葵ちゃんの勉強を見ていたんです」
「あらー、こんな愚息のために、尊ちゃんったら。もう、こんな頭パッパラパーなバカは、ほっといていいのに……やさしいわね」
母さんは目をキラキラさせて、尊を見上げる。
思わず俺は口元を引くつかせた。
「ちょっと母さん、それどういう意味……?」
しかし母さんは、俺の言葉なんて耳に入らないのか、俺のノリツッコミを無視して玄関のところで尊と話し始める。
「いえいえ、そんな。とんでもないですよ、おばさん」
「もう謙遜なんてしくていいのよ。事実なんだから」
「そうだな、葵は何をやらせてもダメだからな。その点、尊くんは文武両道。うちのアホと交換したいくらいだな」
腕組をして、父さんも「うんうん」なんて、うなずく。
なんだよ、この地獄絵図……とゲンナリしていれば、ネギの入っているエコバッグを手にした母さんがローヒールのパンプスを脱いで、家に上がる。
「おばさん、ショルダーバッグと買い物を一緒に持っていたら大変でしょ。荷物、持ちますよ」
白地に花模様のエコバッグをひょいと母さんの手から取り、尊がキッチンまで歩いていく。
その後ろを母さんがついていく。
「まあ、気が利くわね。ありがとう……」
「これくらい当然です。子供の頃から、おばさんたちにはお世話になっているんですから」
「尊ちゃんったら、口がうまいわね。よかったら、今夜はうちで食べていかない?」
「わあっ、嬉しいです! いいんですか?」
「もちろんよ。後でご両親に、連絡しておいて」
「はい! そうします」
尊と母さんは和気藹々と喋りながら、キッチンのドアの向こうに行ってしまった。
呆然としていれば、父さんに「おい」と声を掛けられる。
「何――って、重っ!?」
両腕に重みを感じれば、父さんの黒いリュックを持たされる。ノートPCやらノート、スキルアップのためのテキスト、水筒なんかが入っていて、やたらめったら重い。
「おまえも少しは尊くんを見習えよ」
「そんな無茶苦茶な!」
目を開けた尊は「ええー、残念だなー」とブーブー文句を言っている。尊の手をギュッと握りながら額に手を当てる。
「手ぇ、つなぐのは許してやる! ハグも試合とかでするからありだ。けど、俺だってな……恋人とのファーストキスはもっとムードとかを大事にしてえとか、雰囲気のあるとこでやりたいって思ったりするんだよ! それに人目のあるところでキスするのは、なんか、やだし……」
「そうだよね。浮かれてて葵ちゃんの気持ちを、ちゃんと考えなかった。ごめんね」
情けない顔をして謝る尊を見ていれば、小動物をいじめているような感じがして胸がチクチクと針で刺されているみたいに、痛くなる。
「べつに……そこまでは気にしてねえから。ガチで謝るのは、なしな。俺だって、おまえと付き合えて、テンション上がってるし」
「そっか、葵ちゃんも同じ気持ちでいてくれるんだ。嬉しいな」
「……馬鹿。おまえのことを少しでも好きだって思わなきゃ、告白を受けても振ってるっつーの!」
穏やかに笑みを浮かべる尊を見て、夢みたいだなと思う。
俺たちは手をつないで家までの道をゆっくり歩いて帰った。
その後、遅い昼食を食べたら、すぐに恋人同士の甘い雰囲気なんて吹っ飛んだ。教科書と問題集と模試の結果やら、二年半受けた試験の答案用紙を全部ひっくり返され、五教科全部を身体に叩き込まれた。泣き言を言う暇なんか与えられず、まるでバスケの強化合宿を思い出すくらいの勢いで、夜までみっちりしごかれた。
「み、尊。もう頼むから……勘弁してくれって……俺、マジ、死んじまうって!」
立ち上がって、そのまま逃げようとすれば尊に肩を摑まれ、椅子に座るように促される。
「駄目だよ、葵ちゃん。この社会科の問題のどれかを解けるようになるまで、絶対放さないからね。はい、『いい箱作ろう』?」
「『玉手箱』? えっ、違う?」
「――『鎌倉幕府』だよ」
にっこりと笑っている尊が怖い。
交際一日目で、こんな目に遭わされるのか、わけがわからない。
どうにかして逃げようと思っていれば、一階から「「ただいま」」と父さんと母さんの声が聞こえる。
「父さん、母さん、お帰りー!」
俺はしめたと思い、すぐに立ち上がって階段を駆け下りた。
仕事終わりに仲よくふたりで帰宅した父さんと母さんは、出迎えにきた俺の姿を目にするやいなや、しかめっ面をした。
「なんだ、葵。明日の朝は槍でも降るのか?」
「そうよ……あんたが、わたしたちの迎えに来るなんて、おかしいわ。何を悪巧みしているの?」
空き巣にでも遭遇したかのような様子で、ふたりは俺の様子がいつもと違うことを訝しんだ。
「ちげえ、そうじゃねえよ! 自分の息子をなんだと思ってるんだよ!?」と喚いていれば、背後から尊がぬっと現れる。
「おじさん、おばさん。お邪魔してます」
「あれ、尊くん。この家に来るなんて珍しいね。どうしたんだい?」と父さんが、素っ頓狂な声を出した。
「もう受験シーズン突入で部活をメインにやることも少なくなるので、久々におうちへ上がらせていただきました! 実は、さっきまで葵ちゃんの勉強を見ていたんです」
「あらー、こんな愚息のために、尊ちゃんったら。もう、こんな頭パッパラパーなバカは、ほっといていいのに……やさしいわね」
母さんは目をキラキラさせて、尊を見上げる。
思わず俺は口元を引くつかせた。
「ちょっと母さん、それどういう意味……?」
しかし母さんは、俺の言葉なんて耳に入らないのか、俺のノリツッコミを無視して玄関のところで尊と話し始める。
「いえいえ、そんな。とんでもないですよ、おばさん」
「もう謙遜なんてしくていいのよ。事実なんだから」
「そうだな、葵は何をやらせてもダメだからな。その点、尊くんは文武両道。うちのアホと交換したいくらいだな」
腕組をして、父さんも「うんうん」なんて、うなずく。
なんだよ、この地獄絵図……とゲンナリしていれば、ネギの入っているエコバッグを手にした母さんがローヒールのパンプスを脱いで、家に上がる。
「おばさん、ショルダーバッグと買い物を一緒に持っていたら大変でしょ。荷物、持ちますよ」
白地に花模様のエコバッグをひょいと母さんの手から取り、尊がキッチンまで歩いていく。
その後ろを母さんがついていく。
「まあ、気が利くわね。ありがとう……」
「これくらい当然です。子供の頃から、おばさんたちにはお世話になっているんですから」
「尊ちゃんったら、口がうまいわね。よかったら、今夜はうちで食べていかない?」
「わあっ、嬉しいです! いいんですか?」
「もちろんよ。後でご両親に、連絡しておいて」
「はい! そうします」
尊と母さんは和気藹々と喋りながら、キッチンのドアの向こうに行ってしまった。
呆然としていれば、父さんに「おい」と声を掛けられる。
「何――って、重っ!?」
両腕に重みを感じれば、父さんの黒いリュックを持たされる。ノートPCやらノート、スキルアップのためのテキスト、水筒なんかが入っていて、やたらめったら重い。
「おまえも少しは尊くんを見習えよ」
「そんな無茶苦茶な!」
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