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第2章
天使と恋する時間6
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想像していた内容とぜんぜん違うことを尊が話す。俺は自意識過剰な自分が恥ずかしくなって、目を泳がした。
「いやー……さすがにそれは無理じゃね?」
「無理なんかじゃない! せっかく高校生になって、いろいろと自由にできることも増えるんだよ!? それなのに葵ちゃんと同じ高校に通えないなんて、やだよ。必ず僕と同じ学校に行こうね」
ふたりで並んで帰り道を歩きながら、会話を続ける。
隣にいる尊は、さっき俺のことをいきなり抱きしめてきたとは思えないくらいに、いつも通りだ。
せっかく今日から恋人同士だっていうのに、すごく喜んだりするわけじゃねえんだな。恋人になるっていっても、ダチだったときと変わんねえじゃん……なんて内心、残念に思っている。
「おまえ、俺の通知表とか内申点わかってて言ってるんだよな?」
「もちろんだよ。たしかに葵ちゃんの成績はアヒルさんが多いし、電信柱もあるけど――」
「いちいち、そういうことを口に出すなよ! 喧嘩売ってるのか!?」
「でもバスケは真面目に頑張ってきたわけだし、体育の成績もいいんだから! 後は秋の中間や期末で学年十位キープして、模試も頑張って偏差値上げたり、入試でいい点数を出せば受かるって」
爽やかな笑顔で尊が「元気出して!」と肩を軽く叩いてくる。
口から出てくる言葉は勉強、勉強、勉強。母さんや父さんに口うるさく言われているのと変わらない。
色気が、これっぽっちもねえ!
「いつから好きになったか」とか「デートする場所は遊園地や動物園にする?」なんて話をカップルだったらするんじゃねえのかよ!? いくら受験前とはいえ、ウンザリしてきた。
「簡単なこと言うなよ。めちゃくちゃ難しいんだからな。おまえは学年首席だから、そういうことも言えるんだろうけど……」
「学年首席の恋人がついてるんだから大丈夫だよ。葵ちゃんの彼氏として、いっぱい頑張るね。どんなわからないことも教えるから、いっぱい頼って」
「あ、うん。ありがとな」
俺だけソワソワしてるのか、と気落ちする。また尊にからかわれたりしたら悔しいから何食ぬ顔をしているけど、心の中では初めて恋人ができたことに浮ついてる。相手は自分と同じ男とはいえ、ずっと可愛いと思っていた尊だからか、なんだかムズムズするし、ドキドキする。
でも、それは俺だけなんだなと胸が少し痛くなった。
「たとえ、おまえの教え方がうまくて奇跡的に同じ高校に合格しても、クラスが一緒とは限んねえんだぞ」
「大丈夫! もしクラスが違っても、お隣さんだから登下校は一緒だよ。また同じようにバスケ部に入れば長時間、葵ちゃんといられるし」
「まあ、そうだけどさ……つーか、おまえ、調子いいよな。もとから父さんたちに気に入られてるっつーのに、俺をダシにしてさらに好かれようとするなんてさ」
「だって、好きな人の家族には好かれたいしね」と尊は小首を傾げて目を細めた。
めちゃくちゃ綺麗な顔をして大人っぽく笑う尊の顔を見たら、ブワリと身体が歩くなる。思わず足を止めてリュックの持ち手を両手でギュッと握りしめた。
「なんだよ、それ……」
「好きな人」、そう言われただけで口元が緩む。鼻が痒いふりをして手で顔を隠す。
「葵ちゃん、もしかして照れてる? 耳、赤いよ」
尊が耳たぶの辺りをそっと手で触れてきた。ゾクゾクっと電流が走ったみたいになって俺は飛び退いた。尊の手が触れた右耳を両手で押さえる。
「なっ……! おまえ、いきなりどこ触って!? 俺の許しがなきゃしないっていう話は、どこに行ったんだよ!」
「べつに胸やおしりを触ったわけでも唇に触れたわけでもないよ」
「屁理屈言うなし! せ、セクハラだ!」
ズイと尊が顔を寄せてきて、眉を下げた。捨て犬みたいな顔をして、目を潤ませる。普通の男がやってたら「何してんだよ?」とツッコミを入れるところだが、天使みたいな容姿をした尊だから様になるのが憎らしい。
「葵ちゃんは、いやだった……? 僕、葵ちゃんの彼氏になったのに、嫌われるようなことしちゃったのかな? ……」
俺が尊の泣きそうな顔や、悲しい顔に弱いことがわかっていて、わざとやってる。その手には乗るかと思いながらも、「ねえ、葵ちゃん。嫌いになったりしないで……」なんて言われれば、勝ち目などない。
「いやじゃねえから困るんだよ、馬鹿! 後、セクハラは言い過ぎた。ごめん……」
「そっか! なら、よかった」
ころっと笑顔になった尊に手をつながれてしまう。俺は、尊に手をつないでもらって嬉しい半分恥ずかしい半分で泡を食った。
「おい、尊……よせって! 男同士、手ぇつないでたりしたら、周りの人に……」
「大丈夫だよ。今は昔よりも、そういうのに寛容なんだから。一部の女の人なんかは男同士、女同士で手をつないだり、キスをしているのを見て喜ぶ人もいるくらいなんだよ。葵ちゃん、今からキスする? 僕からがいやだったら、葵ちゃんからして。ほら」
目を閉じて、キスを待つ尊の顔を見ていれば顔が熱くなるし、心臓が口から飛び出しそうになる。
「いやー……さすがにそれは無理じゃね?」
「無理なんかじゃない! せっかく高校生になって、いろいろと自由にできることも増えるんだよ!? それなのに葵ちゃんと同じ高校に通えないなんて、やだよ。必ず僕と同じ学校に行こうね」
ふたりで並んで帰り道を歩きながら、会話を続ける。
隣にいる尊は、さっき俺のことをいきなり抱きしめてきたとは思えないくらいに、いつも通りだ。
せっかく今日から恋人同士だっていうのに、すごく喜んだりするわけじゃねえんだな。恋人になるっていっても、ダチだったときと変わんねえじゃん……なんて内心、残念に思っている。
「おまえ、俺の通知表とか内申点わかってて言ってるんだよな?」
「もちろんだよ。たしかに葵ちゃんの成績はアヒルさんが多いし、電信柱もあるけど――」
「いちいち、そういうことを口に出すなよ! 喧嘩売ってるのか!?」
「でもバスケは真面目に頑張ってきたわけだし、体育の成績もいいんだから! 後は秋の中間や期末で学年十位キープして、模試も頑張って偏差値上げたり、入試でいい点数を出せば受かるって」
爽やかな笑顔で尊が「元気出して!」と肩を軽く叩いてくる。
口から出てくる言葉は勉強、勉強、勉強。母さんや父さんに口うるさく言われているのと変わらない。
色気が、これっぽっちもねえ!
「いつから好きになったか」とか「デートする場所は遊園地や動物園にする?」なんて話をカップルだったらするんじゃねえのかよ!? いくら受験前とはいえ、ウンザリしてきた。
「簡単なこと言うなよ。めちゃくちゃ難しいんだからな。おまえは学年首席だから、そういうことも言えるんだろうけど……」
「学年首席の恋人がついてるんだから大丈夫だよ。葵ちゃんの彼氏として、いっぱい頑張るね。どんなわからないことも教えるから、いっぱい頼って」
「あ、うん。ありがとな」
俺だけソワソワしてるのか、と気落ちする。また尊にからかわれたりしたら悔しいから何食ぬ顔をしているけど、心の中では初めて恋人ができたことに浮ついてる。相手は自分と同じ男とはいえ、ずっと可愛いと思っていた尊だからか、なんだかムズムズするし、ドキドキする。
でも、それは俺だけなんだなと胸が少し痛くなった。
「たとえ、おまえの教え方がうまくて奇跡的に同じ高校に合格しても、クラスが一緒とは限んねえんだぞ」
「大丈夫! もしクラスが違っても、お隣さんだから登下校は一緒だよ。また同じようにバスケ部に入れば長時間、葵ちゃんといられるし」
「まあ、そうだけどさ……つーか、おまえ、調子いいよな。もとから父さんたちに気に入られてるっつーのに、俺をダシにしてさらに好かれようとするなんてさ」
「だって、好きな人の家族には好かれたいしね」と尊は小首を傾げて目を細めた。
めちゃくちゃ綺麗な顔をして大人っぽく笑う尊の顔を見たら、ブワリと身体が歩くなる。思わず足を止めてリュックの持ち手を両手でギュッと握りしめた。
「なんだよ、それ……」
「好きな人」、そう言われただけで口元が緩む。鼻が痒いふりをして手で顔を隠す。
「葵ちゃん、もしかして照れてる? 耳、赤いよ」
尊が耳たぶの辺りをそっと手で触れてきた。ゾクゾクっと電流が走ったみたいになって俺は飛び退いた。尊の手が触れた右耳を両手で押さえる。
「なっ……! おまえ、いきなりどこ触って!? 俺の許しがなきゃしないっていう話は、どこに行ったんだよ!」
「べつに胸やおしりを触ったわけでも唇に触れたわけでもないよ」
「屁理屈言うなし! せ、セクハラだ!」
ズイと尊が顔を寄せてきて、眉を下げた。捨て犬みたいな顔をして、目を潤ませる。普通の男がやってたら「何してんだよ?」とツッコミを入れるところだが、天使みたいな容姿をした尊だから様になるのが憎らしい。
「葵ちゃんは、いやだった……? 僕、葵ちゃんの彼氏になったのに、嫌われるようなことしちゃったのかな? ……」
俺が尊の泣きそうな顔や、悲しい顔に弱いことがわかっていて、わざとやってる。その手には乗るかと思いながらも、「ねえ、葵ちゃん。嫌いになったりしないで……」なんて言われれば、勝ち目などない。
「いやじゃねえから困るんだよ、馬鹿! 後、セクハラは言い過ぎた。ごめん……」
「そっか! なら、よかった」
ころっと笑顔になった尊に手をつながれてしまう。俺は、尊に手をつないでもらって嬉しい半分恥ずかしい半分で泡を食った。
「おい、尊……よせって! 男同士、手ぇつないでたりしたら、周りの人に……」
「大丈夫だよ。今は昔よりも、そういうのに寛容なんだから。一部の女の人なんかは男同士、女同士で手をつないだり、キスをしているのを見て喜ぶ人もいるくらいなんだよ。葵ちゃん、今からキスする? 僕からがいやだったら、葵ちゃんからして。ほら」
目を閉じて、キスを待つ尊の顔を見ていれば顔が熱くなるし、心臓が口から飛び出しそうになる。
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