10 / 34
第2章
天使と恋する時間4
しおりを挟む
「いや、ねえけど……でも、なんで俺なんだよ? おまえなら、よりどりみどりだろ。わざわざ俺なんか選ばなくてもいいはずだ」
自分の容姿が優れていないことは重々承知している。映画やドラマの撮影で、そんじょそこらの田舎をのんびり歩いてる通行人Aに抜擢される。可もなく不可もなく地味な容貌をした普通の日本人。特別なんて言葉とは縁もゆかりもない。
対して尊は栗色の巻き毛に針葉樹の葉を思わせる緑の目をして、まるで絵画の中にいる天使みたいだ。子どもの頃の中性的な愛くるしさから、年相応の美少年になっている。いずれ大人になれば美形となり、女も、男も魅了するだろう。
「……葵ちゃんが可愛いから」
「はあ? 俺が?」と自分を指で差す。
「うん」
頬を赤く染めた尊が頷き、はにかんだ。
俺はなんだか腑に落ちなくて顔をしかめた。
「あのなあ……可愛いって言葉は、おまえみたいなやつに使うんだよ。俺みたいな平凡野郎に使う言葉じゃねえ」
「そんなことないよ!」と尊が俺の両手を摑んだ。「葵ちゃんの笑った顔が可愛いし、仕草とか、行動、言葉なんかも僕にとっては可愛いんだから!」
急に熱弁を振るう尊に若干、引きながら「お、おう、そうなのか?」と返事をした。
「そうだよ!」
ズイと尊が身を乗り出してきた。めちゃくちゃ近くに尊の人間離れした綺麗な顔があって、思わずギョッとする。
「僕にとっては、葵ちゃんはすっごい魅力的で、素敵なんだよ!? そこにいてくれるだけで胸がドキドキするし、笑いかけてもらえたらもうそれだけで天にも昇るような思い出一日幸せって感じなんだ。お昼にご飯を美味しそうに食べる姿も、昼休みに机で昼寝してる姿も胸がドキドキする、バスケしてて応援してもらえれば百人力だし、試合中も観客や敵チームの声がホールいっぱいに響いても葵ちゃんの『頑張れ、尊』って声がわかって……」
「わかった、わかったよ!」
胸の前で両手を出しながら「落ち着けよ!」とマシンガントークをやめてもらうようにする。
眉を八の字にした尊は、しゅんとするとおとなしくベンチに座り直した。
人から褒められることなんて、ほとんどない。褒め慣れていないから、なんだかムズムズして恥ずかしくなる。顔が熱い。
「それくらい葵ちゃんのことが好きなんだよ。――本当は、言葉で言い表せないくらい、きみのことを『好き』なんだ」
「熱烈に思ってくれて嬉しい。けどさ、おまえが俺を好きになったきっかけってなんだよ? 俺、そんな人から好かれる要素なんてねえぞ」
子どもの頃から、しょっちゅう人と衝突して喧嘩ばかりしてきた。それは中学生になってからも変わらずじまい。尊のおかげでバスケのメンバーやクラスでもやっていけてるけど、尊がいなかったら毎日周りの人たちと口論ばかりしていたと思うんだ。
後、さっき事故りそうになったときみたいに、すぐ見境なくイタズラを考えついて実行したり、調子に乗るところがあると自覚している。両親からも「これだから尊は」と呆れられている。
尊はふわりと微笑んで「そんなことないよ」と俺の自虐を否定した。「葵ちゃんが自分で気づいてないだけで、葵ちゃんのいいところはいっぱいあるよ。動物や人に優しいところとか、まっすぐで強いところとか、上げたらきりがないくらい!」
「おまえ、そんなに俺のこと褒めてもなんもでねえぞ」
すると尊は顔を少しうつむかせて「それは、ちょっと困っちゃうな」とつぶやいた。「……葵ちゃんは僕のことが嫌い?」
「……嫌いじゃねえよ。嫌いなやつとつるんだり、毎日一緒に話したりするわけねえだろ」
「それなら、よかった。……だったら、少しでも僕のことを好きな気持ちがあるんだったら……僕の恋人になってほしいんだ。その……気持ち悪いかな?」
「べつにお前のことを気持ち悪いとかは思わねえよ。けど……」
俺は手の平の中にある飲みかけのサイダーのボトルへと目線をやった。汗でじっとりして、熱くなっている手のひらを冷ますために、ペットボトルを握りしめる。
「けど?」と隣から尊が不安げな声で問いかけてくる。
だけど不安な気持ちは俺だって一緒だ。
「付き合うって手ぇつないでデートしたり、ハグしてほっぺにチューだけじゃねえんだろ? 唇にキスしたり、その……エッチなこととかも、ゆくゆくはするんだろ……? そりゃあ、おまえのことは好きだけどさ……先輩がふざけて見せてきたゲイビデオみたいなことをするのは、なんかな……って感じがするし。もし、何かの拍子で別れたりしたら、もうおまえと二度と話せねえのかなって……それは、めちゃくちゃ、やだなって思うんだ」
「そっか、じゃあ約束するよ」
「約束?」
なんだろうと思って俺は目線を上げて、尊の顔を見つめる。
「うん。もし別れたとしても、葵ちゃんとは何事もなかったみたいにする。だから友だちでもなんでもない他人同士ってことにはならないよ。別れても普通に友だちに戻るだけ」
「でも、それじゃ、おまえがつらくなるんじゃねえか?」
自分の容姿が優れていないことは重々承知している。映画やドラマの撮影で、そんじょそこらの田舎をのんびり歩いてる通行人Aに抜擢される。可もなく不可もなく地味な容貌をした普通の日本人。特別なんて言葉とは縁もゆかりもない。
対して尊は栗色の巻き毛に針葉樹の葉を思わせる緑の目をして、まるで絵画の中にいる天使みたいだ。子どもの頃の中性的な愛くるしさから、年相応の美少年になっている。いずれ大人になれば美形となり、女も、男も魅了するだろう。
「……葵ちゃんが可愛いから」
「はあ? 俺が?」と自分を指で差す。
「うん」
頬を赤く染めた尊が頷き、はにかんだ。
俺はなんだか腑に落ちなくて顔をしかめた。
「あのなあ……可愛いって言葉は、おまえみたいなやつに使うんだよ。俺みたいな平凡野郎に使う言葉じゃねえ」
「そんなことないよ!」と尊が俺の両手を摑んだ。「葵ちゃんの笑った顔が可愛いし、仕草とか、行動、言葉なんかも僕にとっては可愛いんだから!」
急に熱弁を振るう尊に若干、引きながら「お、おう、そうなのか?」と返事をした。
「そうだよ!」
ズイと尊が身を乗り出してきた。めちゃくちゃ近くに尊の人間離れした綺麗な顔があって、思わずギョッとする。
「僕にとっては、葵ちゃんはすっごい魅力的で、素敵なんだよ!? そこにいてくれるだけで胸がドキドキするし、笑いかけてもらえたらもうそれだけで天にも昇るような思い出一日幸せって感じなんだ。お昼にご飯を美味しそうに食べる姿も、昼休みに机で昼寝してる姿も胸がドキドキする、バスケしてて応援してもらえれば百人力だし、試合中も観客や敵チームの声がホールいっぱいに響いても葵ちゃんの『頑張れ、尊』って声がわかって……」
「わかった、わかったよ!」
胸の前で両手を出しながら「落ち着けよ!」とマシンガントークをやめてもらうようにする。
眉を八の字にした尊は、しゅんとするとおとなしくベンチに座り直した。
人から褒められることなんて、ほとんどない。褒め慣れていないから、なんだかムズムズして恥ずかしくなる。顔が熱い。
「それくらい葵ちゃんのことが好きなんだよ。――本当は、言葉で言い表せないくらい、きみのことを『好き』なんだ」
「熱烈に思ってくれて嬉しい。けどさ、おまえが俺を好きになったきっかけってなんだよ? 俺、そんな人から好かれる要素なんてねえぞ」
子どもの頃から、しょっちゅう人と衝突して喧嘩ばかりしてきた。それは中学生になってからも変わらずじまい。尊のおかげでバスケのメンバーやクラスでもやっていけてるけど、尊がいなかったら毎日周りの人たちと口論ばかりしていたと思うんだ。
後、さっき事故りそうになったときみたいに、すぐ見境なくイタズラを考えついて実行したり、調子に乗るところがあると自覚している。両親からも「これだから尊は」と呆れられている。
尊はふわりと微笑んで「そんなことないよ」と俺の自虐を否定した。「葵ちゃんが自分で気づいてないだけで、葵ちゃんのいいところはいっぱいあるよ。動物や人に優しいところとか、まっすぐで強いところとか、上げたらきりがないくらい!」
「おまえ、そんなに俺のこと褒めてもなんもでねえぞ」
すると尊は顔を少しうつむかせて「それは、ちょっと困っちゃうな」とつぶやいた。「……葵ちゃんは僕のことが嫌い?」
「……嫌いじゃねえよ。嫌いなやつとつるんだり、毎日一緒に話したりするわけねえだろ」
「それなら、よかった。……だったら、少しでも僕のことを好きな気持ちがあるんだったら……僕の恋人になってほしいんだ。その……気持ち悪いかな?」
「べつにお前のことを気持ち悪いとかは思わねえよ。けど……」
俺は手の平の中にある飲みかけのサイダーのボトルへと目線をやった。汗でじっとりして、熱くなっている手のひらを冷ますために、ペットボトルを握りしめる。
「けど?」と隣から尊が不安げな声で問いかけてくる。
だけど不安な気持ちは俺だって一緒だ。
「付き合うって手ぇつないでデートしたり、ハグしてほっぺにチューだけじゃねえんだろ? 唇にキスしたり、その……エッチなこととかも、ゆくゆくはするんだろ……? そりゃあ、おまえのことは好きだけどさ……先輩がふざけて見せてきたゲイビデオみたいなことをするのは、なんかな……って感じがするし。もし、何かの拍子で別れたりしたら、もうおまえと二度と話せねえのかなって……それは、めちゃくちゃ、やだなって思うんだ」
「そっか、じゃあ約束するよ」
「約束?」
なんだろうと思って俺は目線を上げて、尊の顔を見つめる。
「うん。もし別れたとしても、葵ちゃんとは何事もなかったみたいにする。だから友だちでもなんでもない他人同士ってことにはならないよ。別れても普通に友だちに戻るだけ」
「でも、それじゃ、おまえがつらくなるんじゃねえか?」
6
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き
toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった!
※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。
pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/100148872
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。



家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。
牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。
牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。
そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。
ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー
母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。
そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー
「え?僕のお乳が飲みたいの?」
「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」
「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」
そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー
昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」
*
総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。
いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><)
誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる