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第2章
天使と恋する時間2
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「ごめんね、勝手に見たりして。だから、そんなに怒らないでって!」
そうして肩を摑まれるが、俺は尊の手を払いのけた。灼熱地獄の外に出て後ろも見ずにズカズカとあるき始める。
家が隣同士だから寄り道をしないとなると帰り道が一緒だ。それでも、普通はひどい態度をとった友だちに腹を立て「頭を冷やせ」と放置するだろう。
でも葵は俺の後ろをついてきた。
そんな彼の行動を内心嬉しいと思う。でも、怒った表情をして、さもうっとうしげな態度をとっている俺は、どうかしている。
「うっせえ、推薦で楽々高校に行けるおまえと一緒にすんな! どうせ、バカな俺のことを見下してんだろ!?」と背後にいる葵に向かって怒鳴った。
「違うよ! 僕はただ、このままじゃ葵ちゃんと同じ高校に行けなくなっちゃうのが心配なだけで……」
弱々しげな声で、尊が俺の言葉に返答する。
ふと気がつくと目の前の横断歩道の青信号がチカチカと点滅していた。
このままじゃ葵に追いつかれる。そうだ、走って渡ろう。
そうして俺は走り出した。
横断歩道の近くにあるコンビニの前にコンビニトラックが止まっている。首元にタオルを巻いた年配の業者が、弁当やおにぎりの荷下ろしをしているのを目にして、そうだ! と、ひらめいた。
コンビニの前についたら、葵のほうを向いて「ひでえやつ!」って言ってやろう。で、「アイスを奢ってくれたら許す」ってことにして一緒に食べながら家まで帰るんだ。自分でも子どもじみたことを考えつくものだなと思いながら、実行に移る。
「ちょ、ちょっと、葵ちゃん!?」
葵の焦り声が聞こえる。そんな状況にテンションが上がってしまうなんて性格が悪いなと思いながらも、葵が俺のことを見ていてくれることを喜ばずにはいられない。
横断歩道渡っている最中に信号が赤へ変わった。周りをよく見ないで、考えごとをしていた俺はコンビニトラックの運転手が「危ない!」と大声で叫ぶ声にえっ? となる。
プウーッ! と耳をつんざくようなクラクションの音がする。コンビニトラックを追い越した黒の軽自動車が俺めがけて突進してきた。
「葵ちゃん!」
骨が軋んで痛くなるほどの強い力で腕を引かれ、身体が後ろに傾く。そのまま尻もちをつきそうになるが尊に支えられる。
キーッ……と急ブレーキのかかる音がして車が止まった。黒い軽自動車の窓が開き、金髪頭にサングラスをした中年男が顔を出す。「馬鹿野郎! てめえ、死ぬつもりか!?」と、つばを飛ばしながら怒鳴り散らしてきた。
心臓が口から飛び出そうなくらい高鳴って、頭がクラクラする。全身に冷たい汗をかいて、俺は喉が詰まったみたいな状態になって、男への返事ができないでいた。
「すみません。以後、気をつけるように言い聞かせますので、今回だけは許していただけませんか」
本当なら俺が謝るべきところなのに、俺の身体を抱きとめている葵のほうが男に向かって頭を下げた。
フンと鼻を鳴らして男は顔を引っ込める。窓を閉めたかと思うとブオンとエンジンをふかせ、車を走らせた。黒い軽自動車はすぐに黒点のようになって、ついには見えなくなってしまった。
「大丈夫か!? 怪我は、平気かい?」
血相を変えた業者に声を掛けられ、「はい……大丈夫です」と小さく返事をする。
業者は安堵のため息をつき、胸を撫で下ろした。
「まったく危ないことをして……こっちの寿命が縮んだよ! そこのイケメンくんがいなきゃ、きみ、病院行きだったぞ?」
「すみませんでした」
「車が来てるんだから赤信号で渡っちゃ駄目だよ。さっきの運転手がグラサンつけて、猛スピードで走っているのも、どうかと思うけど……もっと周りを注意してくれないと困るよ」
白髪の黒縁メガネをかけたおじさんに叱られて、しゅんとしてしまう。
「もうこういう危ないことはしちゃ駄目だよ。気をつけてね」と荷物を店内へ持ち運んでいった。
何も言わずに尊は黙っている。いやな予感がして、そうっと振り向くと、しかめっ面をして何か言いそうな目をしている尊がいた。
「みっ、尊……ごめん。ありがと」
はあっと重いため息をついたかと思うと、尊に手首を引っ張られる。進む方向がコンビニでもなく、帰り道でもないことを指摘するものの返事がない。
「な、なあ、どこ行くんだよ?」と訊いても、ぜんぜん耳に入ってないみたいで、無言のままスタスタ歩いていく。しっかり手首を摑まれ、引きずられるようにして後をついていく。
普段から温和で、愛想よくにこにこ笑っている尊だが――怒るときは、めちゃくちゃ怒るんだ。
そもそも怒ることが一年に一回あるかないかだから、どのタイミングで葵の怒りが収まるのか、どうしたらいいのかがいまだもってわからない。
内心どうしようとオロオロしながら、この状況の打開策を考える。
素直に謝っても「ねえ、本当に反省してるの?」って綺麗な笑顔で聞かれて、ネチネチ嫌味を言われるだけだし。あえて逆ギレしたふりをして無理矢理、手を放して「帰る!」なんて突っぱねても、「葵ちゃん、その態度は何?」と説教されるだけ。そんなことをすれば、ますます状況がひどくなる。
……なすすべもなく、俺は尊についていくことしかできなかった。
そうして肩を摑まれるが、俺は尊の手を払いのけた。灼熱地獄の外に出て後ろも見ずにズカズカとあるき始める。
家が隣同士だから寄り道をしないとなると帰り道が一緒だ。それでも、普通はひどい態度をとった友だちに腹を立て「頭を冷やせ」と放置するだろう。
でも葵は俺の後ろをついてきた。
そんな彼の行動を内心嬉しいと思う。でも、怒った表情をして、さもうっとうしげな態度をとっている俺は、どうかしている。
「うっせえ、推薦で楽々高校に行けるおまえと一緒にすんな! どうせ、バカな俺のことを見下してんだろ!?」と背後にいる葵に向かって怒鳴った。
「違うよ! 僕はただ、このままじゃ葵ちゃんと同じ高校に行けなくなっちゃうのが心配なだけで……」
弱々しげな声で、尊が俺の言葉に返答する。
ふと気がつくと目の前の横断歩道の青信号がチカチカと点滅していた。
このままじゃ葵に追いつかれる。そうだ、走って渡ろう。
そうして俺は走り出した。
横断歩道の近くにあるコンビニの前にコンビニトラックが止まっている。首元にタオルを巻いた年配の業者が、弁当やおにぎりの荷下ろしをしているのを目にして、そうだ! と、ひらめいた。
コンビニの前についたら、葵のほうを向いて「ひでえやつ!」って言ってやろう。で、「アイスを奢ってくれたら許す」ってことにして一緒に食べながら家まで帰るんだ。自分でも子どもじみたことを考えつくものだなと思いながら、実行に移る。
「ちょ、ちょっと、葵ちゃん!?」
葵の焦り声が聞こえる。そんな状況にテンションが上がってしまうなんて性格が悪いなと思いながらも、葵が俺のことを見ていてくれることを喜ばずにはいられない。
横断歩道渡っている最中に信号が赤へ変わった。周りをよく見ないで、考えごとをしていた俺はコンビニトラックの運転手が「危ない!」と大声で叫ぶ声にえっ? となる。
プウーッ! と耳をつんざくようなクラクションの音がする。コンビニトラックを追い越した黒の軽自動車が俺めがけて突進してきた。
「葵ちゃん!」
骨が軋んで痛くなるほどの強い力で腕を引かれ、身体が後ろに傾く。そのまま尻もちをつきそうになるが尊に支えられる。
キーッ……と急ブレーキのかかる音がして車が止まった。黒い軽自動車の窓が開き、金髪頭にサングラスをした中年男が顔を出す。「馬鹿野郎! てめえ、死ぬつもりか!?」と、つばを飛ばしながら怒鳴り散らしてきた。
心臓が口から飛び出そうなくらい高鳴って、頭がクラクラする。全身に冷たい汗をかいて、俺は喉が詰まったみたいな状態になって、男への返事ができないでいた。
「すみません。以後、気をつけるように言い聞かせますので、今回だけは許していただけませんか」
本当なら俺が謝るべきところなのに、俺の身体を抱きとめている葵のほうが男に向かって頭を下げた。
フンと鼻を鳴らして男は顔を引っ込める。窓を閉めたかと思うとブオンとエンジンをふかせ、車を走らせた。黒い軽自動車はすぐに黒点のようになって、ついには見えなくなってしまった。
「大丈夫か!? 怪我は、平気かい?」
血相を変えた業者に声を掛けられ、「はい……大丈夫です」と小さく返事をする。
業者は安堵のため息をつき、胸を撫で下ろした。
「まったく危ないことをして……こっちの寿命が縮んだよ! そこのイケメンくんがいなきゃ、きみ、病院行きだったぞ?」
「すみませんでした」
「車が来てるんだから赤信号で渡っちゃ駄目だよ。さっきの運転手がグラサンつけて、猛スピードで走っているのも、どうかと思うけど……もっと周りを注意してくれないと困るよ」
白髪の黒縁メガネをかけたおじさんに叱られて、しゅんとしてしまう。
「もうこういう危ないことはしちゃ駄目だよ。気をつけてね」と荷物を店内へ持ち運んでいった。
何も言わずに尊は黙っている。いやな予感がして、そうっと振り向くと、しかめっ面をして何か言いそうな目をしている尊がいた。
「みっ、尊……ごめん。ありがと」
はあっと重いため息をついたかと思うと、尊に手首を引っ張られる。進む方向がコンビニでもなく、帰り道でもないことを指摘するものの返事がない。
「な、なあ、どこ行くんだよ?」と訊いても、ぜんぜん耳に入ってないみたいで、無言のままスタスタ歩いていく。しっかり手首を摑まれ、引きずられるようにして後をついていく。
普段から温和で、愛想よくにこにこ笑っている尊だが――怒るときは、めちゃくちゃ怒るんだ。
そもそも怒ることが一年に一回あるかないかだから、どのタイミングで葵の怒りが収まるのか、どうしたらいいのかがいまだもってわからない。
内心どうしようとオロオロしながら、この状況の打開策を考える。
素直に謝っても「ねえ、本当に反省してるの?」って綺麗な笑顔で聞かれて、ネチネチ嫌味を言われるだけだし。あえて逆ギレしたふりをして無理矢理、手を放して「帰る!」なんて突っぱねても、「葵ちゃん、その態度は何?」と説教されるだけ。そんなことをすれば、ますます状況がひどくなる。
……なすすべもなく、俺は尊についていくことしかできなかった。
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