今宵、百合の庭園で……

鶴機 亀輔

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第1章

最初の三人1*

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 *



 尊と俺が出会ったのは、小学校五年生に進級した春だった。



 尊は、俺の住んでいる家の隣に引っ越してきた。

 母親とともにあいさつをしにきたときにかいこう

 まるでフランス人形のような容姿をした尊の姿に思わず目を見張った。この世のものとは思えないほどにれいで、中性的な容姿をしている尊に、俺は胸をときめかせた。

 深海を思わせる藍色の瞳をじっと見つめていれば、尊は昼寝をする猫のように目を細めた。さくらんぼみたいに赤い唇から、清潔感漂う白い歯をのぞかせて、はにかんだ姿を今でも鮮明に覚えている。



 容姿も、頭脳も、運動神経も抜群なあいつは、あっという間に学校で一躍人気者になった。

 男女どちらからも好かれ、先生たちの受けもいい。クラスメートの母親たちからもアイドルのようにチヤホヤされていた。だれもかれもがあいつのとりこになった。

 かくいう俺も、尊と友だちになり、あいつのことを好意的に見ていた。



 精巧なビスクドールのような見た目をした、優しい微笑みを浮かべる少年を「天使」と賞賛する声はあっても、「悪魔」と後ろ指をさす者はいなかった。



 ――最初の犠牲者は、当時俺が片思いをしていたクラスメートのよしだ。

 彼女を好きになった理由はいたって単純。時間割を間違え、教科書を忘れて困っていたら、隣の席だった吉野が「教科書、一緒に見よう」と声を掛けてくれたから。

 それ以降、俺は吉野に声を掛け、彼女と会話をするようになった。

 飼育係の吉野は動物が好きで、ほかの子どもたちが嫌がる飼育当番を積極的に行っていた。彼女は中でも、うさぎが好きだった。口数が少なく大人しいものの女友だちと仲がよかった。責任感が強く、芯のある人物だったからだ。

 そんな彼女が突然学校に来なくなってしまったのである。謎の人物からの不気味な嫌がらせが原因だ。

  ある朝、彼女の席周辺が水浸しになっていた。机の周りには壊れた水槽の破片が散らばり、木製の机の上には藻とピチピチと体をのたうつメダカの姿があった。それ以降筆箱の中身が職員室前の池に捨てられて代わりにゴキブリが入っていたり、体操服を入れていた着替え袋から犬や猫のふんが出てくるようなできごとが続いた。

 当初は吉野も気味悪がりながら「こんなことをする人を許せないし、負けない」と言っていた。教師に相談しながら、友だちと犯人さがしを始めたくらいだ。

 だが犯人の手口は次第に残忍なものになっていた。

 羽をもがれて瀕死状態になっている飼育場のインコが靴箱の中に入れられ、ランドセルの中からネズミたちの死骸が出てくる始末。ついには彼女がかわいがっていたうさぎがおなかを刃物でズタズタにされた状態で見つかった。

 かわいがっていたうさぎが死んだのは自分のせいだと彼女は自身を責めた。いかも教師や友だちとともに犯人をさがしたものの見つからず。とうとう登校拒否になってしまったのだ。



 第二の犠牲者は、俺の友人だったじまひろだ。

 兄弟みたいに仲がよかった。学校では、いつも弘樹と話して、つるんでいた。授業で自由にクラスメートとペアを組んでいいことになったり、給食の時間はいつも弘樹とペアを組んだ。放課後は、あいつとクラスメートとサッカーや野球をしたし、休みの日も一緒に遊んだ。

 いつも笑顔で性格のいいやつだった。

 だけど、なぜか尊と衝突したり、ケンカをすることが多かった。

 ある日、弘樹が鬼みたいな形相をして、尊に殴りかかろうとしている姿を目撃した。

 俺は、ひどく怯えて泣きじゃくっている尊を背に隠した。

 弘樹は激昂しながら始終尊のことをののしり、悪口をあげつらった。

「そいつはとんでもない嘘つきで、人のことを馬鹿にしている!」と弘樹が怒鳴ると尊は静かに涙を流した。そして身体を震わせながら弘樹に頭を下げたのだ。

「ごめんね、真島くん。ぼくがあいまいな言い方をしたから、そんなふうに受け取ったんだよね。いやな思いをさせて、本当にごめんなさい……」

 すると弘樹は顔を真っ赤にして尊に詰め寄る。

 素直に謝っているのに許してもらえず、悲痛な面持ちでいる尊がかわいそうで、見ていられなかった。俺は弘樹に「いい加減にしろよ!」と怒鳴ってしまったのだ。

 そうして俺と弘樹は激しく口論した。お互い頭に血がのぼり、思ってもいないことを口にする。

 最後には「絶交だ! おまえなんか友だちじゃない!」と俺は呪いの言葉を吐いた。

 さあっと弘樹の顔色が青くなる。あいつは、なぜか泣きそうな顔をして俺にひどい言葉をかけたことを謝ってくれた。

 だけど俺は聞く耳を持たず「尊に謝らないかぎり、おまえのことを絶対に許さない」と弘樹に宣言したのだ。

 あんなに仲がよかったのが嘘みたいに弘樹と俺は口をきかなくなった。挨拶もしないし、顔も見ない、一言もしゃべらない。ペアを組むこともなければ、一緒に遊ぶこともない。赤の他人になったのだ。


 そして第三の犠牲者は、クラスのカーストの頂点に君臨していたあかまつけいだ。

 お調子者で口がうまい金持ちのボンボンだった。あいつは金を持っているからと、いつもやりたい放題。好き勝手するような輩で自分の気に入らない人間に対して暴言を吐いたり、殴る・蹴るの暴力を働いた。
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