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第9章
ギャンブル5
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「すみません。それはできかねます」
「なんでだい? バカなことはおよしよ! あんたのおっかさんが悲しむようなことは、おやめ!」
「そうさ、母親を泣かせるようなことは、よすんだ!」
女性たちは、おいおい泣き出し、僕の血が滲んでいる手を取ろうとした。しかし、僕の手に触れることができず、ますます悲しい顔をして嗚咽を漏らす。
母様が僕の身を案じて書いただろう手紙を思い出し、胸がズキズキと痛み始める。
「本当にごめんなさい。それでも、やらなくてはいけないんです。『過去』の女神様が僕の命を助けてくださり、やり直す機会を二度も設けてくださいました。だから英雄を見つける使命を全うしなくてはならないのです」
「でも……」
「よしな、あんたたち!」
ビックゴブリンの入った酒瓶を手にしたお姉さんが喝をいれると、お姉さんたちは泣くのをやめた。
「そのお方は、あたしらの亡くした子供じゃないし、もう立派な大人だよ」
「だけどマリア……」
「人には命を懸けてやらなきゃいけないことがある。その方は、あたいらを売り飛ばした金で遊んでた旦那や、戦に巻き込まれて命を落としたあたしらの子供とは違うよ。天上に住む神様に命じられた使命を遂行しなきゃいけない運命だ。その使命のためなら命だって張る。あたしらに、この方をお止めする権利はないよ」
「マリアお姉さん」
母様と同じ名前をした女性の名前を呼ぶ。
「ルキウス」
「はい、なんでしょう」
「あんたを見たとき、我が子が戻ってきたような気がした。王様たちを恨み、呪おうとしていたあたいらを見つけて話しかけてくれた日が、つい昨日のことに思えるよ」
お姉さんは手は伸ばし、僕の頬に触れようとした。しかし、その手は僕に触れることなく、すっと僕の体をすり抜けた。
「そうですね。お姉さんたちには、ずいぶんお世話になりました」
「あんたのおかげで王族の方々を祟り殺したり、子供たちを探し求めずに済んだ。あたしらが怨霊や亡霊にならずに済んだのは、あんたのおかげだよ。感謝してる」
「僕は何もしてません。ただ……友達が欲しかっただけです。学院に入学し、学外での交流会が行われたとき、僕は廃れたカジノの跡地へ置き去りにされました。でも、お姉さんたちが気軽に話しかけてくれたからすごく心強かったし、嬉しかったんです。ピーターと友達になれたのも、お姉さんたちのおかげですよ」
「違うよ。あれはあんたがピーターとわかり合えるように努力したからさ。後、ピーターが底抜けにいいやつだからだね。――これでギルドの加入条件はクリアだ。ギルドの人たちとも、きっとわかり合えるようになるよ」
「マックスってヤツもいい男っぽいしね」「そうだね! いろいろと楽しみだ」「いつ恋仲になるか賭けるかい!?」
お姉さんたちは恋バナをする町娘たちのようにテンションを上げた。
なんのことだろう? と首をかしげていれば、ゆっくりマリアお姉さんが首を横に振った。「色恋については、まだまだ子供だねえ」と、なぜか苦笑いをしている。「とりあえずゴブリンたちのことは、あたしらに任せときな。またなんかあったら、すぐに呼ぶんだよ」
「ありがとうございます」
「ルキウス――神のご加護があらんことを」
そうしてお姉さんたちはすっと空気に溶けるようにして消え、カジノは跡形もなく夢のようになくなる。
僕はほっと息を吐き、ビックゴブリンたちの根城で膝をついた。
「ルキウス!」
グラグラする頭を持ち上げれば、目の前にマックスさんがいる。
「どうやって、ここへ?」
「メリーの転移魔法だ」と彼は答え、水筒を手渡してくれた。
マックスさんから受け取った水筒の水をちびちび飲みながらクロウリー先生の治癒魔法を受ける。傷ができ、ピリピリとひりついていた肌が、あっという間に元通りになっていく。
「水晶玉から貴殿の動きを見させてもらったが実にあっぱれじゃった。あのようにビックゴブリンを倒すとは思いもよらなんだ」
「いえ、あれは七匹のゴブリンやお姉さんたち、『裁定』の神の力のおかげですよ。うまくいって、よかったです」
「そう――あんたは何もしてない」
ジトリとした目つきをしたエリザさんが僕のことを見据える。
「よさないか、エリザ。ルキウス殿は七匹のゴブリンからゴブリンの特性を聞き、作戦を立て、ビックゴブリンを倒した。適当に動いていたわけではない」
メリーさんが、しかめ面をするとエリザさんはムッとした表情を浮かべた。
メリーさんを一瞥してから僕のほうへ目線を移す。
「殺すのではなく生け捕りにして、罪を償う機会を与える。そんな倒し方もあるのかと驚かされたわ。それに、このパーティのリーダーはマックスよ。異論はないわ。でも、あんたは人の手を借りるだけ。そんなんじゃエドワード王子の野望を打ち砕くことも、ノエルとかいう闇の魔術を行使するやつを止めることは、できないわ」
エリザさんに痛いところを突かれ、僕は両の拳を握った。
「おじい様は魔術師だけど杖で敵を薙ぎ払うわ。魔術師や魔法使いは、魔力が枯渇したら剣や拳で戦うものよ。でも、あんたは魔力がなくなったら、すぐにぶっ倒れるだけ。自分の力で魔物を倒すことができない。それじゃギルドでは、やってけないわ」
「なんでだい? バカなことはおよしよ! あんたのおっかさんが悲しむようなことは、おやめ!」
「そうさ、母親を泣かせるようなことは、よすんだ!」
女性たちは、おいおい泣き出し、僕の血が滲んでいる手を取ろうとした。しかし、僕の手に触れることができず、ますます悲しい顔をして嗚咽を漏らす。
母様が僕の身を案じて書いただろう手紙を思い出し、胸がズキズキと痛み始める。
「本当にごめんなさい。それでも、やらなくてはいけないんです。『過去』の女神様が僕の命を助けてくださり、やり直す機会を二度も設けてくださいました。だから英雄を見つける使命を全うしなくてはならないのです」
「でも……」
「よしな、あんたたち!」
ビックゴブリンの入った酒瓶を手にしたお姉さんが喝をいれると、お姉さんたちは泣くのをやめた。
「そのお方は、あたしらの亡くした子供じゃないし、もう立派な大人だよ」
「だけどマリア……」
「人には命を懸けてやらなきゃいけないことがある。その方は、あたいらを売り飛ばした金で遊んでた旦那や、戦に巻き込まれて命を落としたあたしらの子供とは違うよ。天上に住む神様に命じられた使命を遂行しなきゃいけない運命だ。その使命のためなら命だって張る。あたしらに、この方をお止めする権利はないよ」
「マリアお姉さん」
母様と同じ名前をした女性の名前を呼ぶ。
「ルキウス」
「はい、なんでしょう」
「あんたを見たとき、我が子が戻ってきたような気がした。王様たちを恨み、呪おうとしていたあたいらを見つけて話しかけてくれた日が、つい昨日のことに思えるよ」
お姉さんは手は伸ばし、僕の頬に触れようとした。しかし、その手は僕に触れることなく、すっと僕の体をすり抜けた。
「そうですね。お姉さんたちには、ずいぶんお世話になりました」
「あんたのおかげで王族の方々を祟り殺したり、子供たちを探し求めずに済んだ。あたしらが怨霊や亡霊にならずに済んだのは、あんたのおかげだよ。感謝してる」
「僕は何もしてません。ただ……友達が欲しかっただけです。学院に入学し、学外での交流会が行われたとき、僕は廃れたカジノの跡地へ置き去りにされました。でも、お姉さんたちが気軽に話しかけてくれたからすごく心強かったし、嬉しかったんです。ピーターと友達になれたのも、お姉さんたちのおかげですよ」
「違うよ。あれはあんたがピーターとわかり合えるように努力したからさ。後、ピーターが底抜けにいいやつだからだね。――これでギルドの加入条件はクリアだ。ギルドの人たちとも、きっとわかり合えるようになるよ」
「マックスってヤツもいい男っぽいしね」「そうだね! いろいろと楽しみだ」「いつ恋仲になるか賭けるかい!?」
お姉さんたちは恋バナをする町娘たちのようにテンションを上げた。
なんのことだろう? と首をかしげていれば、ゆっくりマリアお姉さんが首を横に振った。「色恋については、まだまだ子供だねえ」と、なぜか苦笑いをしている。「とりあえずゴブリンたちのことは、あたしらに任せときな。またなんかあったら、すぐに呼ぶんだよ」
「ありがとうございます」
「ルキウス――神のご加護があらんことを」
そうしてお姉さんたちはすっと空気に溶けるようにして消え、カジノは跡形もなく夢のようになくなる。
僕はほっと息を吐き、ビックゴブリンたちの根城で膝をついた。
「ルキウス!」
グラグラする頭を持ち上げれば、目の前にマックスさんがいる。
「どうやって、ここへ?」
「メリーの転移魔法だ」と彼は答え、水筒を手渡してくれた。
マックスさんから受け取った水筒の水をちびちび飲みながらクロウリー先生の治癒魔法を受ける。傷ができ、ピリピリとひりついていた肌が、あっという間に元通りになっていく。
「水晶玉から貴殿の動きを見させてもらったが実にあっぱれじゃった。あのようにビックゴブリンを倒すとは思いもよらなんだ」
「いえ、あれは七匹のゴブリンやお姉さんたち、『裁定』の神の力のおかげですよ。うまくいって、よかったです」
「そう――あんたは何もしてない」
ジトリとした目つきをしたエリザさんが僕のことを見据える。
「よさないか、エリザ。ルキウス殿は七匹のゴブリンからゴブリンの特性を聞き、作戦を立て、ビックゴブリンを倒した。適当に動いていたわけではない」
メリーさんが、しかめ面をするとエリザさんはムッとした表情を浮かべた。
メリーさんを一瞥してから僕のほうへ目線を移す。
「殺すのではなく生け捕りにして、罪を償う機会を与える。そんな倒し方もあるのかと驚かされたわ。それに、このパーティのリーダーはマックスよ。異論はないわ。でも、あんたは人の手を借りるだけ。そんなんじゃエドワード王子の野望を打ち砕くことも、ノエルとかいう闇の魔術を行使するやつを止めることは、できないわ」
エリザさんに痛いところを突かれ、僕は両の拳を握った。
「おじい様は魔術師だけど杖で敵を薙ぎ払うわ。魔術師や魔法使いは、魔力が枯渇したら剣や拳で戦うものよ。でも、あんたは魔力がなくなったら、すぐにぶっ倒れるだけ。自分の力で魔物を倒すことができない。それじゃギルドでは、やってけないわ」
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