リスタート―三度目の正直―

鶴機　亀輔

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第９章

ギャンブル３

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　すっかりゴブリンたちはギャンブルをやりたくてウズウズしている。

「お待ちください。僕ひとりではギャンブルの余興を開くことはできません」

「なんだ？　期待させて落とすつもりか!?　さっさとしねえとおまえを叩き殺すぞ！」

「ギャンブルをしたいとご所望であれば、この縄を解いていただけないでしょうか？　さすればギャンブルの会場を魔法で開きましょう」

「なんだと!?」とビックゴブリンは棍棒を手に取った。

　しかし、酒で気が大きくなっているゴブリンたちは、僕に対して警戒心をむき出しにしたビックゴブリンを諌める。

「大丈夫ですぜ、親分。あんな貧弱な人間に何ができやしょう？」

「そうですぜ！　多勢に無勢。あんな貴族のボンボンは孤軍奮闘すら、できやせんって！」とビックゴブリンの周りに集たかり、ひそひそ話をする。

「……縄を解いてやれ」

　レッドとオレンジが僕の縄を解き、イエローが杖を渡してくれた。

　その間にグリーンとブルーが酒瓶や酒樽を片づけ、インディゴとパープルは僕の持ってきたコインをゴブリンたちに配り回る。

「少しでも怪しい動きをしてみろ。おまえの息の根を止めてやる」

「恐れながら申し上げます。現在、僕の命はビックゴブリン様が握っておられる状態です。犬死にするような真似をするとお思いですか？」

　ビックゴブリンは口を真一文字に結び、腕組をした。

　詠唱し、杖を振る。するとピンクのモヤが辺りを包み、燭台の火をかき消す。

　裸体とほとんど大差ない格好をしたウサギ耳を生やした豊満な女性たちが現れる。するとゴブリンたちは口笛を吹いたり、手を叩いた。

　中でも真っ赤な口紅を引き、豊満な体つきをしたロングドレスの美しい女性が「いらっしゃい」と微笑みを浮かべる。

「なんだい、クライン家の坊やじゃないか。魔物崩れの妖精なんぞに捕まって、助けでも請いに来たのかい」

「いいえ、ギャンブルの会場を開いていただきたいのです」

「……いいだろう。たっぷり稼がせてもらおうじゃないか」

　そうして女性が指を鳴らすと一瞬にして洞窟の中はカジノへと早変わりする。

　わっとゴブリンたちは笑顔になった。まるでサーカス団が訪れて喜ぶ子供たちのようだ。

　お尻が見えてしまいそうなほどに短いスカートを履いた女性が前に出る。

「お客様、当店のルールは――」と説明をしようとするが、ゴブリンたちは話を聞かない。物珍しいものに目を奪われ、走っていく。

　女性たちに酒を持って来いと命令し、タバコやパイプに火をつける。各々ルーレットやスロット、トランプゲームで遊び始めた。

　無言となったビックゴブリンが僕と女性を睨みつける。

「僕は、僕の金庫にある全財産を賭けます。ビックゴブリンさまは何をお賭けになりますか？」

　彼は僕の問いに答えようとせず、女性がサービスで長テーブルの上に出したカクテルを口に含んだ。

「なんでも賭けてやろう。ただし、ゲームの内容はこちらで決めさせてもらおうぞ」

「あら旦那、気前がいいねえ！　なんでも賭けてくれるなんて……」と美女がニヒルな笑みを浮かべる。

　酒をあおったビックゴブリンは、氷だけとなった透明なグラスをテーブルに叩きつける。

「酒の飲み比べと行こう。人間は勝つためなら手段を選ばない。平然と嘘をつき、詐欺やイカサマもする。この女たちも、おまえが呼び出したものだ。人間ではないもののおまえに味方してカードやら機械やらに細工を施している可能性が高い。だが酒ならば細工はできまい」とビックゴブリンが僕のことを見据える。

「……いいでしょう。ですが、あなたたちも妖精の端くれであり、魔王様の忠実な下僕しもべ。一度口にした約束を破るようなことはしないでくださいね」

「ああ、約束しよう」

　ビックゴブリンが返事をするや否や僕らの前に、オレンジ色の液体の入った小さなグラスが置かれる。

「じゃあ飲み比べスタートってことだね。ルールは簡単。先に酔い潰れたほうが負けさ」

「わかっている」

「ええ、構いません」

　そうして僕らはグラスを鳴らし、酒を一気に飲み干した。

　　　＊

「貴殿、なかなかやりおるな」

　互いのグラスは、すでに二十杯を数えるほどになっていた。

　青白い顔をしたビックゴブリンに微笑みかけ、僕は二十一杯目を喉の奥へと流し込んだ。

　胸が焼けるような思いがし、めまいを覚える。

　近くにいたレッドが小声で「しっかりしてください、ルキウスさま」と小声で僕の背を鏃やじりで突く。

　痛みによって意識を取り戻した僕は二十一杯目のグラスを積み上げる。

「おかわりを！」

「……あいよ」

　美女はなんともいえない顔をして二十二杯目を僕の前に出した。

　僕は二十二杯目を震える手で持つ。

　ちらと横目で見れば、ビックゴブリンは二十一杯目に口をつけていない。

「どうやら、この賭けは僕の勝ちで決まりですね？」

「ほざけ！」とビックゴブリンが負け惜しみのごとく怒鳴り散らす。「これくらいで勝ったと思い上がるなよ！」

　ビックゴブリンはグラスの中の液体を一気に飲んだ。

　やりきったと笑みを浮かべたビックゴブリンが、そのままの状態で後ろへ倒れる。

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