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第8章

覚悟のほどを見る4

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「オレだってビックゴブリンのやってることは許せねえ。けど――」

「それに僕が文官として働いてきたのは、フェアリーランドに住む人たちのためになることを、したかったからです」

 マックスさんは、なんのことだといわんばかりに困惑した顔のまま口をつぐんだ。

 この人は自分を取り繕ったりしないんだなと感銘を受け、自分の身の内について彼に話す。

「兄や友は兵役について外敵から人々を守っています。弟も普段は教授たちと論議していますが、実際に人々の暮らしぶりを見聞きし、財政問題について考えています。ですが僕は病弱だったので王宮の外で働いたことは一度もありません。外の世界を知らなかったんです」

「ルキウス……」

「僕が担当した仕事は貴族や騎士の報告書を見て担当部署へ取り次ぐことでした。ですが商人や庶民の嘆願書をまったく読まないわけではありません。義理の姉ができたことをきっかけに庶民の暮らしぶりを知り、お忍びで城下町を歩いたりしたんです。そうして自分が、家族から愛され、具合が悪くなっても従者や医師に助けてもらえることが特別なことだと知りました。両親を亡くして孤独だったり、愛人や妾の子として生まれて肩身の狭い思いをする人もいます。重い病気にかかっても、お金を持っていなくいから医師に診てもらえない人たちが大勢いる。どれだけ自分が恵まれているのかを痛感させられました。学院に通っている間、同性愛者であることや容姿のことをほかの貴族から揶揄され、嫌味を言われたり、嫌がらせを受けたりもしました。でも助けてくれる友がいた。

 いつも人から守ってもらって、助けてもらうことが当たり前になっていたんです。自分から何もしませんでした。そのツケで……愛する人たちを失った」

「おまえは……自分のせいで、大切な人たちが不幸になったと思っているのか?」

「事実ですよ。恋人だと思っていたエドワードさまに手酷く裏切られ、ノエルさまにしてやられました。本来なら王族の方々を暗殺し、反乱を起こそうとした人間として死んでいたんです。『過去』の女神様の恩情を運よく賜ったから生きているだけ」

「だとしても、おまえはここにいる。今、オレたちの目の前で生きているんだ。ビックゴブリンを倒そうと大胆不敵なことを考えて、実行しようとしてる」

「はい、その通りです。僕は、いろんな人たちのおかげで今日まで生きてこられました。だから――今度は、僕がみんなのことを守るんです。ギルドの話もフェアリーランドの庶民の人たちが教えてくれました。なんのメリットもないのに、親切にしてくれた。そんな人たちの役に立ちたい。ちょっとでもいいから彼らの助けとなって恩返しをしたいんです」

 自分ひとりで、できることは少ないとわかってる。だけど、今、できることを精一杯やりたい。そうして僕は、大切な人たちが笑顔でいられる世界を――希望に満ちた未来を掴みたいんだ。

「世間知らずの人間が生意気なことを言っていると、わかってます。マックスさんたちのように、日々魔族と戦って、人々を救ってきた人たちから『甘ったれたことを』と思われても仕方がありません」

「そんなことはねえよ。……少なくともオレには、ルキウスが本気だし、覚悟ができてるって伝わった」

 これから、とてつもない強敵と戦いに行く状況だ。倒す策があると言っても熟練のギルドを倒すよう魔族と対峙する。殺される可能性はゼロではないし、マックスさんたちが駆けつけてくれるにしても大怪我をする恐れはある。腕や足の一本は持ってかれるかもしれない。

 だから怖いと思う気持ちがある。

 でもマックスさんの言葉を聞いたら、ほんの少しだけ怖いと思う気持ちがなくなって、安心できた。

「無理は絶対にしません。それに勝算もありますから僕がギルドに加入しても問題ないことを証明してみせます」
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