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第8章
覚悟のほどを見る1
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僕は震える唇を開き、今までの経緯を順序立てて彼らに話した。
*
「――だからギルドに加入したいんです」
エリザさんは鋭い目つきで僕のことを見据えて無言のまま、こちらへ歩いてくる。彼女に胸ぐらを掴まれて無理やり立ち上がらせられ、頬を張られた。僕はいきなりのことで目を白黒させる。
「エリザ、何をしとるんじゃ!」
先生がエリザさんを羽交い締めにする。
エリザさんが先生の手を振りほどき、顔を真っ赤にさせて怒った。
「王宮で安穏と暮らしてきたあんたに、何ができるって言うの!?」
「落ち着け、エリザ!」
渋い顔つきをしたメリーさんが、興奮状態になったエリザさんをなだめ、僕のほうへ同情に似た眼差しを送る。
「あなたの事情は痛いほどに理解できる。だからこそ、それはギルドに任せてほしい。貴殿は王族の血を引く身分の高い方だ。このような死と隣り合わせの場所で、できることは少ないだろう」
「そうよ! あたしたちはね、命懸けでこの仕事をやってるの。王族のお坊ちゃまに付き合ってる暇はない!」
どうしたら伝わるのだろう……。自分の真剣さを、この気持ちを彼らに伝えることができないもどかしさを感じる。
「自分でも何ができるかわかりません。けど、どうしても英雄を探して未来を変えたいんです。大切な人たちが命を落としたり、傷ついたり、悲しい目に遭うのはいやなんです……!」
「では問わせていただこう。貴殿はなんのために戦う?」
表情の読めない顔つきをした先生に尋ねられる。
僕は即座に答えた。
「僕は大切な人たちを守るために戦うんです。大好きな人たちが、誰かの悪意によって今の暮らしを壊されることなく、笑っていてほしい……幸せでいてほしいんです」
「あんたの考え方、嫌いじゃないぜ。で、ビックコブリンをどうやって倒すんだ?」
「マックス!」とエリザさんが、かなり切り声をあげる。「ギルドの登録も済んでないやつをパーティに加入するの!? もし協会にバレたりしたら、うちは大目玉を食らうわ!」
「おまえが言うな、エリザ。ガキの頃に似たようなことをしただろ?」
「なっ、なんのことよ!?」とエリザさんが動揺する。
「北国の雪の城の潜入捜査」
ため息まじりにメリーさんが答えた。
するとエリザさんはわざとらしく目線を花々の方へとやる。
「『危ないからついてくるな』って口を酸っぱくして言ったのに、最後まで言うことを聞かないでオレたちを困らせた。で、そのときの功績とオレの推薦のおかげでギルドに加入できたんだ。忘れたとは言わせねえぞ」
僕はマックスさんの言葉に驚き、エリザさんのほうを見る。
バツの悪そうな顔をしてエリザさんは、唇を噛みしめていた。
「さてと、もうわかってそうだが、念のために軽く自己紹介しとくな。オレはマックス。見ての通り剣士だ。んでもって、白ひげの長い杖持ったじいさんがクロウリー。治癒系の白魔法も、攻撃系の黒魔法もなんでもござれな魔術師だ。そこの赤い服を着ている銀髪の兄ちゃんがメリー。盗賊あがりのトレジャーハンターで飛び道具やら両手剣が得意だぞ。で、うちの紅一点が……」
「エリザ。剣闘士よ! 肉弾戦が得意だけどランスも使うわ」とやけくそ気味にエリザさんが喋った。
「クライン家の次男、ルキウスと申します。皆さんの足を引っ張らないように精一杯頑張りますので、よろしくお願いします」
そうして先生とメリーさんと握手を交わす。
しかしエリザさんは面白くなさそうに、ふんと鼻を鳴らしてそっぽを向く。
行場のなくなった自分の手と彼女の横顔を交互に見た。
「ったく、いい歳して大人げないやつだな。ところで、あんたのことはクライン殿? それともルキウスさまってお呼びしたほうがいいか?」とマックスさんは言いづらそうに僕の名前を呼んだ。
「お気軽にルキウスとお呼びください」
「じゃあ、そのままルキウスって呼ばせてもらうな。エリザも悪いやつじゃねえから誤解しないでやってくれ。ただ、一度へそを曲げるとがんとして人の言うことを聞かないんだ。だから、あんまり気にするな」
手を下ろして申し訳なさそうにしているマックスさんを見上げる。
「大丈夫です。お気遣いいただき、ありがとうございます。エリザさんやサギーさんに認めていただけるよう、ビックコブリンを倒したいと思います」
「そうか、それは頼もしいな。で、どうやってビックコブリンを倒すんだ? 聞かせてくれよ」
*
成人したゴブリンの大きさは、80から140センチメートルと人間の子供くらいだ。
だけどビックコブリンは巨人のように大きかった。人間の大人を掴めてしまうくらいの手の大きさをした大男だ。
僕は縄で両手を縛られた状態で前後左右にいる七人の小さなゴブリンたちにせっつかれ、ビックコブリンたちの前に出る。
「親分、人間を生け捕りにしてきました!」
赤い帽子をかぶったゴブリンが大声でビックゴブリンへと話しかける。
するとビックゴブリンと一緒に酒を飲み、食事をしていたゴブリンたちの視線が僕に集まる。
「なんでも王様の親戚だとかで、このように金銀財宝を持っておりました」
*
「――だからギルドに加入したいんです」
エリザさんは鋭い目つきで僕のことを見据えて無言のまま、こちらへ歩いてくる。彼女に胸ぐらを掴まれて無理やり立ち上がらせられ、頬を張られた。僕はいきなりのことで目を白黒させる。
「エリザ、何をしとるんじゃ!」
先生がエリザさんを羽交い締めにする。
エリザさんが先生の手を振りほどき、顔を真っ赤にさせて怒った。
「王宮で安穏と暮らしてきたあんたに、何ができるって言うの!?」
「落ち着け、エリザ!」
渋い顔つきをしたメリーさんが、興奮状態になったエリザさんをなだめ、僕のほうへ同情に似た眼差しを送る。
「あなたの事情は痛いほどに理解できる。だからこそ、それはギルドに任せてほしい。貴殿は王族の血を引く身分の高い方だ。このような死と隣り合わせの場所で、できることは少ないだろう」
「そうよ! あたしたちはね、命懸けでこの仕事をやってるの。王族のお坊ちゃまに付き合ってる暇はない!」
どうしたら伝わるのだろう……。自分の真剣さを、この気持ちを彼らに伝えることができないもどかしさを感じる。
「自分でも何ができるかわかりません。けど、どうしても英雄を探して未来を変えたいんです。大切な人たちが命を落としたり、傷ついたり、悲しい目に遭うのはいやなんです……!」
「では問わせていただこう。貴殿はなんのために戦う?」
表情の読めない顔つきをした先生に尋ねられる。
僕は即座に答えた。
「僕は大切な人たちを守るために戦うんです。大好きな人たちが、誰かの悪意によって今の暮らしを壊されることなく、笑っていてほしい……幸せでいてほしいんです」
「あんたの考え方、嫌いじゃないぜ。で、ビックコブリンをどうやって倒すんだ?」
「マックス!」とエリザさんが、かなり切り声をあげる。「ギルドの登録も済んでないやつをパーティに加入するの!? もし協会にバレたりしたら、うちは大目玉を食らうわ!」
「おまえが言うな、エリザ。ガキの頃に似たようなことをしただろ?」
「なっ、なんのことよ!?」とエリザさんが動揺する。
「北国の雪の城の潜入捜査」
ため息まじりにメリーさんが答えた。
するとエリザさんはわざとらしく目線を花々の方へとやる。
「『危ないからついてくるな』って口を酸っぱくして言ったのに、最後まで言うことを聞かないでオレたちを困らせた。で、そのときの功績とオレの推薦のおかげでギルドに加入できたんだ。忘れたとは言わせねえぞ」
僕はマックスさんの言葉に驚き、エリザさんのほうを見る。
バツの悪そうな顔をしてエリザさんは、唇を噛みしめていた。
「さてと、もうわかってそうだが、念のために軽く自己紹介しとくな。オレはマックス。見ての通り剣士だ。んでもって、白ひげの長い杖持ったじいさんがクロウリー。治癒系の白魔法も、攻撃系の黒魔法もなんでもござれな魔術師だ。そこの赤い服を着ている銀髪の兄ちゃんがメリー。盗賊あがりのトレジャーハンターで飛び道具やら両手剣が得意だぞ。で、うちの紅一点が……」
「エリザ。剣闘士よ! 肉弾戦が得意だけどランスも使うわ」とやけくそ気味にエリザさんが喋った。
「クライン家の次男、ルキウスと申します。皆さんの足を引っ張らないように精一杯頑張りますので、よろしくお願いします」
そうして先生とメリーさんと握手を交わす。
しかしエリザさんは面白くなさそうに、ふんと鼻を鳴らしてそっぽを向く。
行場のなくなった自分の手と彼女の横顔を交互に見た。
「ったく、いい歳して大人げないやつだな。ところで、あんたのことはクライン殿? それともルキウスさまってお呼びしたほうがいいか?」とマックスさんは言いづらそうに僕の名前を呼んだ。
「お気軽にルキウスとお呼びください」
「じゃあ、そのままルキウスって呼ばせてもらうな。エリザも悪いやつじゃねえから誤解しないでやってくれ。ただ、一度へそを曲げるとがんとして人の言うことを聞かないんだ。だから、あんまり気にするな」
手を下ろして申し訳なさそうにしているマックスさんを見上げる。
「大丈夫です。お気遣いいただき、ありがとうございます。エリザさんやサギーさんに認めていただけるよう、ビックコブリンを倒したいと思います」
「そうか、それは頼もしいな。で、どうやってビックコブリンを倒すんだ? 聞かせてくれよ」
*
成人したゴブリンの大きさは、80から140センチメートルと人間の子供くらいだ。
だけどビックコブリンは巨人のように大きかった。人間の大人を掴めてしまうくらいの手の大きさをした大男だ。
僕は縄で両手を縛られた状態で前後左右にいる七人の小さなゴブリンたちにせっつかれ、ビックコブリンたちの前に出る。
「親分、人間を生け捕りにしてきました!」
赤い帽子をかぶったゴブリンが大声でビックゴブリンへと話しかける。
するとビックゴブリンと一緒に酒を飲み、食事をしていたゴブリンたちの視線が僕に集まる。
「なんでも王様の親戚だとかで、このように金銀財宝を持っておりました」
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