リスタート―三度目の正直―

鶴機 亀輔

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第8章

巫術師またの名を召喚師2

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「十五年前のことです。フェアリーランドに東の国の使節が来ました。城下町には使節とともにやってきた見世物小屋の一座がいました。その中に青白く銀色に光る美しい蛇を操る蛇使いがいたんです。ある貴族の子供が両親に『蛇を買ってほしい』とせがみました。子供の両親は大金を蛇使いに渡すなり、無理やり蛇を奪い取ったのです。突然尾を強く掴まれた蛇は驚いて子供に噛みつきました。怒った両親は蛇をいたぶり、半死半生となった蛇をクライン家の館の庭へ投げ捨てたのです。

 僕は兄弟たちと外で遊んでいた際に蛇を発見し、医師に手当をしてもらいました。蛇は一命をとりとめ、彼と話をしたんです。彼の名前は“蛟の主”。東の国の水神であることを知りました。蛇使いは、もともとは蛟の主に仕える身分でしたが時代の変化により、神々の信仰も減少して家が廃れてしまったんです。蛟の主は蛇の姿をとって蛇使いを見守っていました。そして蛟の主が傷が全快した際に蛇使いのもとへ帰したんです。そのとき彼から『困ったときは力になる』と約束をしていただきました」

「だからって、こいつがいやなやつであることに変わりないわ。こいつのせいで、あたしは王宮をクビになったのよ! 任務を完遂できなくて報酬もゼロ。踏んだり蹴ったりだわ」

 カリカリ怒るエリザさんが腕組をし、そっぽを向く。

 危険な状況を抜け出して気分も落ち着いてきたからだろうか。エリザさんの顔に見覚えがあることに気づく。どこで会ったのだろうと奇妙に思い、あらためて彼女の顔をマジマジと見る。

「何よ、顔にゴミでもついてる?」とエリザさんが頬の辺りを手の甲で拭った。

 化粧もしていないし、ヘソ出しルックのキャミソールに革のジャケット、ショートパンツだから気づかなかった。

「あなたは、エドワードさまづきの女官だった方ですね。僕が彼から殴られているとき、助けようとしてくれた……」

「やっと、わかった? 後、あれは、あんたのことを助けようとしたわけじゃないから。マックスのこともなかなか気づかないし、鈍いわね」

「すみません……」

 彼女は鼻を鳴らして顔にかかった横髪を手で払った。

「あたしはね、王宮内にいる悪魔の信者をリスト化して動向を見張る役目だったのよ。エドワード王子が悪魔の信者である可能性が浮上して、潜入捜査をしていた。けど、あんたが王子のご機嫌を損ねたから、あの場にいた女官は全員解雇されたわ」

 やり直し前の世界でクライン家のメイドが露頭に迷い、娼婦となって身売りをしたり、浮浪者になったことを思い出してゾッとする。

「申し訳ございません……。その後、女官たちの行方は……?」

 エリザさんは眉根を寄せ、「運よく王妃様の恩情を賜ったおかげであたし以外は別の部署に配属されたわ」とつっけんどんに答える。「あたしは、王妃様づきの女官長や護衛隊長に出自を怪しまれちゃったから……って、そんなことはどうでもいいのよ。あんたこそ、こんなところで何をしてるの? イワーク洞窟に住む魔族はザコが多いけど、ビックコブリンは違うわ。気まぐれに洞窟内をうろついてはギルドに襲いかかってくる。命を落とした人間だっているのよ」

 いたずらをした子供を叱るような口調でエリザさんから、たしなめられる。

 老人も「エリザの言っていることも一理あるな」と難しい顔をした。「なぜクライン家のご子息が、このような危険なところへ足を踏み込んだんじゃ? 黒服のやつらに無理やり連れてこられたわけでもなかろう?」

「その――ビックゴブリンを倒そうと思って」

「「「「ビックゴブリンを倒す!?」」」」

 四人は声を合わせて叫んだ。

 近距離からマックスさんの野太い声を聞いて耳がキーンとする。頭がグワングワンして、足元がふらついて倒れてしまいそうになり、マックスさんに再度抱きとめられる。

 そのまま近くにある大きな岩の前まで誘導してもらい、腰を下ろすように促された。

「何を考えているんだ!? 死ぬつもりか!」

 メリーさんが焦った声を出すちエリザさんも「そうよ!」と額に汗を滲ませる。「ビックコブリンは熟練のギルドでも手に負えない魔獣。やつは図体がデカいけど俊敏な動きをして、特性の棍棒で人間を薙ぎ払ったり、叩きつぶすのよ。そんな化け物をあんたみたいなお坊ちゃまが倒せるわけがない! どういう頭をしてるのよ? ギルドの親方や受付が止めに入ったんじゃないの!?」

 僕は「イワーク洞窟のビックコブリンを倒せば、ギルドへ加入する」という話をちょび髭のおじさんがしてくれたと四人に伝える。

 すると先生が苦い顔をして「サギーのやつめ、また適当なことを言いおったな」と愚痴をこぼした。「クライン家のご子息よ、悪いことは言わん。そなたの力ではビックコブリンを倒すことは不可能だ。今すぐここを離れられよ」

「いいえ、帰りません」

 メリーさんとエリザさんが怒りの形相で僕に詰め寄る。

「なぜだ? 血族である貴殿がギルドの真似事をする必要はない。いくら任を解かれたからといってヤケを起こすな。きみなら他の仕事にいくらでもつける」

「メリーの言う通りよ。あんたが召喚師だとしても戦い慣れしてないじゃない。今だって魔力が尽きてヘロヘロなのに、なんでサギーの言うことを真に受けるの!?」
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