リスタート―三度目の正直―

鶴機 亀輔

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第7章

第一の試練4*

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 数秒するとマックスさんの少しかさついた唇と大きな手が離れていった。すぐに彼は後ろ手に大剣を振るい、僕の方へ飛んできた矢を叩き切った。

 僕は、彼のはちみつ色をした瞳を無言で見つめる。

「これで魔力の補充は済んだ。後は任せたぞ」

 そうして、彼は三人のところへ駆けていった。

 僕は杖を振って詠唱する。

 勝利を予感した長が「愚か者め、ここで皆殺しにしてやる!」と宣言する。

 長が叫んだのと同じタイミングでゴゴゴと地鳴がして地面が大きく揺れ始めた。

「ちょっと何、これ! 地震!?」

 女性がよろめくと男性が彼女の肩を抱き、老人がふたりと自分の周りに防御壁を作った。

「まさか……おまえたち、今すぐルキウスを殺せ! やつの息の根を止めろ!」

 異様に焦る長の言葉に「ただごとじゃない」と直感した黒服の男たちのありとあらゆる攻撃が、詠唱をしている僕のところへ集中する。

 怖くて目をつぶろうとした僕の前にマックスさんが立つ。

 彼が大剣を地面へ突き立てると僕に集中していた魔法攻撃がすべて弾かれ、物理攻撃をしようとした者たちは無数の鋼鉄でできた盾を相手するかのように僕とマックスさんの周りに近寄れなくなった。

 マックスさんが大剣を瞬時に引き抜き、軽々と大剣をグルグル振り回す。すると竜巻がいくつも巻き起こり、黒服の男たちを吹き飛ばしていく。

 僕が詠唱を終えると地面の揺れは止まり、川の水面が大きく揺れた。

 ザパアッ! と水しぶきをあげて大蛇が姿を現す。シューシューと鳴いて彼は黒服の男たちを威嚇した。


 黒服の男たちの中でも大蛇の目を見た者は、蛇に睨まれた蛙のごとく身動きが取れなくなり、石化状態になる。

「嘘でしょ……なんなのよ、あれ!」

 女性が悲鳴をあげ、ひどく狼狽した様子の男性が老人の方へ顔を向ける。

「師匠、あれは一体――?」

「儂も目にするのは初めてじゃ。あれは太古の昔に東国で水をつかさどっていた邪神――みずちの主じゃ!」

「お願い、あの黒服の人たちをここから追い出して!」

 僕が祈りを捧げると蛟の主はブンと尾を振り、器用に黒服の男たちだけを薙ぎ払っていった。そして大きく口を開けて大量の水を放出する。水はまるで生き物のように黒服の男たちを次々に捕まえていく。そして蛟の主が巨体を川の水面に打ちつけると川の水が一気に溢れ出す。川の水は自由自在に動いて男たちを勢いよく押し流した。

「覚えていろよ、ルキウス・クライン! 貴様の首を必ず切り落としてやる!」

 長は恐ろしい捨て台詞を残して水に流されていく。

 よかった、成功したと安心していれば、蛟の主がキュウキュウと鳴いて長い首を伸ばし、僕に頬ずりをした。

(ルキウス、恩返しできたよ。会えて嬉しい!)

「うん、僕も君と会えて嬉しいよ。本当に久しぶりだね。子供の頃に一度会っただけなのに来てくれてありがとう。助かったよ……!」

 僕は彼のヒンヤリと冷たい滑らかな頭を撫でた。

(ぼく、覚えてる。ルキウスがパパとぼくを助けてくれたこと。困ったら呼んで、また力になるよ)

 蛟の主はキラキラと光の粒子になり、消えていった。

 魔力切れを起こして、どっと疲れが出る。頭がぼうっとして足に力が入らなくなり、体が横に傾いた。重いまぶたを閉じ、このままじゃ身体をぶつけるなと他人ごとのように思う。

 だけど、いつまで経っても体を地面に打ちつける衝撃が来ない。

 草原を駆けたときのような清々しい香りと温かな人の腕や肌を感じ、目を開ける。倒れる直前でマックスさんに抱きとめてもらったのだ。

「ありがとな、これでおまえに救われるのは二度目だ」

「えっ?」

 頭にクエスチョンマークを浮かべる。突然、男性が女性を抱くように横抱きにされ、僕はうろたえた。

「何をなさるのですか!? 下ろしてください!」

「無理するな。魔力は渡したけど、さっき蛟の主を召喚するときに全部使っちまっただろ?」

 図星を突かれて、ぐうの音も出ない。だからといって小さい子供のように軽々と抱き上げられるのは、男として悲しい。

「ご心配いただき、ありがとうございます。ですが大丈夫です。ギルドのほかの方の目もありますから、お離しください。自分で立てます!」

 マックスさんがため息をついて僕のことを下ろしれくた。が、すぐにふらつき、膝をついてしまいそうになる。

 即座にマックスさんのたくましい腕に抱きとめられる。

 手を借りないと突っぱねたくせして彼の手を借りている状況に顔全体が熱くなる。

「……すみません」

「まあ……お姫様抱っこされるよりも、こっちのほうがほかのメンバーと話しやすいか。気にすんな」

 マックスさんは白い歯を見せて、無邪気な子供のように笑みを浮かべた。

 肩を貸してもらうにも身長差があり(僕の身長は175センチメートルあるが、マックスさんは190センチメートルを優に超えている)、右手をお借りして背中を支えてもらう。
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