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第7章
第一の試練3
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ギルドの人たちは信じられないくらいに強かった。彼らの動きには無駄がなく、戦い慣れしている。
だけど黒服を纏った男たちは、まるで宮廷魔術師や歴戦の騎士のように洗練された動きをして、ギルドの人たちよりもさらに強かった。
とうとうギルドの四人は、黒服の男たちに追いつめられてしまう。
「こんだけ殴っても、蹴っても倒れないって、あり得ないわ! こいつら、鉄でできてるの? それともゾンビ!?」
「大方、防御魔法と速攻の治癒魔法を掛け合わせておるんじゃろう。王宮の魔術師たちがよく使う技じゃ」
「王宮の暗殺部隊か、万事休すだな。メリー、緊急退避はできるか?」
「ダメだ。退路を塞がれているし、転送魔法を使おうとした時点で魔力を封じられる」
長は首を左右にゴキゴキ鳴らして息をついた。
「まったくとんだ邪魔が入ったものだな」
大剣を手にした男性が眉間に皺を寄せて長を指差した。
「おい、あんた。暗殺はフェアリーランドや、その周辺国では禁止されてるぞ。法律上やってはいけない行為だとわかって、こんな真似をするのか?」
「もちろん。法律上は禁止されている。だが、これはさる貴いお方のご命令だ。あの方の言葉こそ我らの法律。我々はただ、命令に従うだけだ」
「だから、いやなのよ。王宮で左団扇している神官や貴族って……ほんと、傲慢な連中!」
「言葉を慎め、女! 本来であれば、おまえのような卑しい者が、我らと口を聞くことも許されないのだぞ。その舌、引っこ抜くぞ!」
「やれるものならやってみなさいよ」
女性は槍を取り出し、長に狙いを定める。
だが赤い衣を纏った男性に「おい、よせ!」と腕を掴まれてしまった。
険しい顔つきをした老人が杖を構え、僕と大剣を構えている男性を交互に見た。
「マックス、このままじゃパーティーは全滅するぞ。どうする?」
老人の言葉にギクリとする。
ギルドの人たちは見ず知らずの人間である僕を助けてくれた。それなのに、このままじゃ命を落としてしまう。そんなの絶対にダメだ!
杖を握り直し、ちらりと川の水へと目線をやる。それから背水の陣となっているギルドの人たちのほうを見る。
大剣を手にした男性と僕の目線が合う。
彼は口元に笑みを浮かべ、黒服の男たちへと目線を戻した。
「そうだな。オレは、あいつに賭けてみようと思う」
「あんた、頭でもおかしくなったの!? あいつは、自分じゃ何もできないお坊ちゃまよ!」
女性が大剣を手にした男性を非難する。
「マックス、こんなときに冗談を言うのはよせ。どう見ても彼は戦闘向きではないぞ!」
「ふたりとも、この非常事態によさんか!」
女性と赤い衣を着た男性は老人に諌められる。
僕は困惑しながら、ところどころ破けているマント身につけ、大剣を手にしている男性の背中を見つめた。
(聞こえるか?)
えっ? と思い、僕は目を見張る。どこからか声が聞こえた。しかし誰も声に関して反応しない。空耳かと心の中で、ため息をつく。
(空耳じゃない!)とどこからか、また声がする。(敵に聞かれちゃ困るからな。今、おまえの心に向かって語りかけてる。聞こえるか?)
ギルドのマックスと呼ばれていた人が読心術を使っていることに気づき、僕は慌てて心の中で答えた。
(はい、しっかり聞こえます)
(なら、よかった。あんた、水に関する魔獣や神獣を呼べるか?)
今さっきまで考えていたことを彼に読まれ、びっくり仰天してしまう。
(いいえ、彼が応えてくれるかどうかわからないので呼べません。それに僕の魔力が足りないです……!)
杖は戻ってきたけど、今の僕は魔力が底をつきている状態だから、どっちにしろ彼を呼び出せない。腕を縛られたときに装備品も全部奪われ、頼みのエーテルが手元にない。
不甲斐なさを感じ、視線を足元にやる。
(大丈夫だ)とマックスさんが優しく力強い声で励ましてくれた。(魔力はオレがサポートする。だから思う存分やれ)
(でも呼べなかったら……)
(自分を信じろ。おまえならできる。もし失敗しても策はあるから、やってみろよ!)
僕は決心し、幼い頃に出会った彼を頭の中に思い浮かべて一か八かの賭けをする。
「ルキウス、こっちへ来い。さすれば、そいつらの命だけは助けてやるぞ」
「させねえよ!」
マックスさんが僕のほうへ走ってくる。
何事かと思った黒服の男たちが攻撃を再開する。
ところが老人が魔法で作った攻撃反射壁により、攻撃魔法と物理攻撃が跳ね返される。
女性と男性が老人を援護しながら応戦した。
「マックスさん!」
僕は彼の名前を初めて口にし、魔力を快復するためのエーテルをもらおうとする。
しかし彼はエーテルの小瓶を手にしていない。グイと腰を抱かれ、左頬に手をあてられる。
「いやだろうけど少しの間、我慢してくれよ」
突然のことに頭が真っ白になる。
会って間もない人に――エドワードさま以外の男性に口づけられた。
僕は目を大きく見開いてマックスさんの彫刻のように彫りの深い顔を見つめた。
不思議と嫌悪感はなかった。むしろ心地よくて唇から温かいものが全身へ伝わるのを感じる。体の内側からどんどん力がみなぎり、枯渇していた魔力がグングン増えていく。
だけど黒服を纏った男たちは、まるで宮廷魔術師や歴戦の騎士のように洗練された動きをして、ギルドの人たちよりもさらに強かった。
とうとうギルドの四人は、黒服の男たちに追いつめられてしまう。
「こんだけ殴っても、蹴っても倒れないって、あり得ないわ! こいつら、鉄でできてるの? それともゾンビ!?」
「大方、防御魔法と速攻の治癒魔法を掛け合わせておるんじゃろう。王宮の魔術師たちがよく使う技じゃ」
「王宮の暗殺部隊か、万事休すだな。メリー、緊急退避はできるか?」
「ダメだ。退路を塞がれているし、転送魔法を使おうとした時点で魔力を封じられる」
長は首を左右にゴキゴキ鳴らして息をついた。
「まったくとんだ邪魔が入ったものだな」
大剣を手にした男性が眉間に皺を寄せて長を指差した。
「おい、あんた。暗殺はフェアリーランドや、その周辺国では禁止されてるぞ。法律上やってはいけない行為だとわかって、こんな真似をするのか?」
「もちろん。法律上は禁止されている。だが、これはさる貴いお方のご命令だ。あの方の言葉こそ我らの法律。我々はただ、命令に従うだけだ」
「だから、いやなのよ。王宮で左団扇している神官や貴族って……ほんと、傲慢な連中!」
「言葉を慎め、女! 本来であれば、おまえのような卑しい者が、我らと口を聞くことも許されないのだぞ。その舌、引っこ抜くぞ!」
「やれるものならやってみなさいよ」
女性は槍を取り出し、長に狙いを定める。
だが赤い衣を纏った男性に「おい、よせ!」と腕を掴まれてしまった。
険しい顔つきをした老人が杖を構え、僕と大剣を構えている男性を交互に見た。
「マックス、このままじゃパーティーは全滅するぞ。どうする?」
老人の言葉にギクリとする。
ギルドの人たちは見ず知らずの人間である僕を助けてくれた。それなのに、このままじゃ命を落としてしまう。そんなの絶対にダメだ!
杖を握り直し、ちらりと川の水へと目線をやる。それから背水の陣となっているギルドの人たちのほうを見る。
大剣を手にした男性と僕の目線が合う。
彼は口元に笑みを浮かべ、黒服の男たちへと目線を戻した。
「そうだな。オレは、あいつに賭けてみようと思う」
「あんた、頭でもおかしくなったの!? あいつは、自分じゃ何もできないお坊ちゃまよ!」
女性が大剣を手にした男性を非難する。
「マックス、こんなときに冗談を言うのはよせ。どう見ても彼は戦闘向きではないぞ!」
「ふたりとも、この非常事態によさんか!」
女性と赤い衣を着た男性は老人に諌められる。
僕は困惑しながら、ところどころ破けているマント身につけ、大剣を手にしている男性の背中を見つめた。
(聞こえるか?)
えっ? と思い、僕は目を見張る。どこからか声が聞こえた。しかし誰も声に関して反応しない。空耳かと心の中で、ため息をつく。
(空耳じゃない!)とどこからか、また声がする。(敵に聞かれちゃ困るからな。今、おまえの心に向かって語りかけてる。聞こえるか?)
ギルドのマックスと呼ばれていた人が読心術を使っていることに気づき、僕は慌てて心の中で答えた。
(はい、しっかり聞こえます)
(なら、よかった。あんた、水に関する魔獣や神獣を呼べるか?)
今さっきまで考えていたことを彼に読まれ、びっくり仰天してしまう。
(いいえ、彼が応えてくれるかどうかわからないので呼べません。それに僕の魔力が足りないです……!)
杖は戻ってきたけど、今の僕は魔力が底をつきている状態だから、どっちにしろ彼を呼び出せない。腕を縛られたときに装備品も全部奪われ、頼みのエーテルが手元にない。
不甲斐なさを感じ、視線を足元にやる。
(大丈夫だ)とマックスさんが優しく力強い声で励ましてくれた。(魔力はオレがサポートする。だから思う存分やれ)
(でも呼べなかったら……)
(自分を信じろ。おまえならできる。もし失敗しても策はあるから、やってみろよ!)
僕は決心し、幼い頃に出会った彼を頭の中に思い浮かべて一か八かの賭けをする。
「ルキウス、こっちへ来い。さすれば、そいつらの命だけは助けてやるぞ」
「させねえよ!」
マックスさんが僕のほうへ走ってくる。
何事かと思った黒服の男たちが攻撃を再開する。
ところが老人が魔法で作った攻撃反射壁により、攻撃魔法と物理攻撃が跳ね返される。
女性と男性が老人を援護しながら応戦した。
「マックスさん!」
僕は彼の名前を初めて口にし、魔力を快復するためのエーテルをもらおうとする。
しかし彼はエーテルの小瓶を手にしていない。グイと腰を抱かれ、左頬に手をあてられる。
「いやだろうけど少しの間、我慢してくれよ」
突然のことに頭が真っ白になる。
会って間もない人に――エドワードさま以外の男性に口づけられた。
僕は目を大きく見開いてマックスさんの彫刻のように彫りの深い顔を見つめた。
不思議と嫌悪感はなかった。むしろ心地よくて唇から温かいものが全身へ伝わるのを感じる。体の内側からどんどん力がみなぎり、枯渇していた魔力がグングン増えていく。
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