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第5章

終わりを告げる恋3*

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 当惑しているうちにソファの上へ放り投げられ、エドワードさまが馬乗りになる。慌てて起き上がろうとすれば、強引に口づけられた。

 以前はエドワードさまとの口づけが好きで、僕から彼に口づけをねだることだってあった。

 それなのに――今は嫌悪感と気持ち悪さしか感じない。

「エドワードさま、おやめください!」

「つれないな。最近、構ってやれなかったから、そんな態度をとるのだろう?」

「違います。おどきください!」

 彼の肩を押し返そうとしている間にシャツのリボンを解かれ、ボタンに手をかけられる。

「普段から従順なおまえが反抗的な態度をとるのも燃えるな。そそられるぞ」

 エドワードさまの舌が首筋を何度も往復する。彼の手が僕の下半身へと伸びる。強くまれて痛みを感じ、顔を歪める。

「いや、いやです……。やめて……」

「強情だな。少しはおとなしくしろよ」

 ノエルさまを愛していたときのような優しさなどじんも感じられない。

「やめてください!」

 犯される恐怖に駆られ、彼の頬を張ってしまった。

 エドワードさまは、一度も逆らったことのない僕がたてついてきた状況をうまく飲み込めないのか、呆然としていた。

 さっと彼の下から抜け出し、着衣の乱れを手早く直す。

 だからエドワードさまのお顔が次第に赤くなり、全身をわななかせていることに気づけなかった。

「生意気な……俺はこの国の第三王子だぞ。血族だからと無礼極まりない態度をとっていいと思ってるのか!」

 髪をむんずと掴まれ、床に向かって投げつけられる。

 身体を強く打った衝撃で一瞬息ができなくなる。

「しょせんは側室が生んだ子だと、おまえも俺を馬鹿にしているのだろう!」

 烈火のごとくお怒りになったエドワードさまは容赦なく僕のことをおうした。

 騒ぎを聞きつけた女官たちが控えの間から飛んでくる。

 彼女たちが僕の名前を叫ぶ声が遠くから聞こえてきた。

 女官のひとりが勇敢にもエドワード様の凶行を止めようと行動に出る。

 だが――「邪魔をするな!」とエドワード様に振り払われ、床に尻もちをついてしまった。

 そうして僕はまたエドワードさまの拳を一身に受け、口の中に血の味が広がり、唇や頬がズキズキと痛んだ。

「王族の血を引いている以外、取り柄のない不細工な虫けらが思い上がるな! 今すぐ、こうべを垂れて謝罪しろ!」

 殴る手を止めたからと思うと後頭部を強い力で押され、床に鼻がぶつかる。鼻の奥が熱くなっていく。喋りにくさを感じながらも言われたとおりに謝罪の言葉を口にする。

「っ……不快な思いをさせてしまい……大変……申し訳ございません」

 途端にエドワードさまは機嫌を直し、「わかればいいのだ」と満足そうに笑みを浮かべた。僕の上から退き、手を差し伸べる。

「さあルキウス、仲直りをしよう。もう二度と『別れる』なんて、ひどいことを言わないでくれよ」

 僕はエドワードさまの手を振り払った。ふらつきながらも、ひとりで立ち上がり、ふらつきながら歩く。

 壁際に身を寄せ、身体を震わせていた女官たちは恐ろしい魔物でも見たような形相をするなり、「ひっ!」と悲鳴をあげる。

 状況を理解できずにいるエドワードさまをいちべつし、ドアノブを握る。

「エドワード様は……この国の王子様でございます。……男であり、出産もできぬ役立たずな僕よりも……どうか 聡明なご令嬢や姫君を奥方に……お迎えくださいませ」

「何を、」

 体中が痛い。身じろぎひとつするだけで、悲鳴をあげたくなるほどの激痛が全身を走る。

 それでも不思議と大切な人たちを失ったときや、エドワードさまに裏切られたときに味わった屈辱に比べれば、さいなことのように思えた。

「僕の気持ちは変わりません。……僕は……自分で選んだ道を歩きます……。さようなら……エドワードさま」

 エドワード様の私室を出て、扉を閉める。

「許さん、許さんぞ、ルキウス。俺をこけにしおって! このような仕打ちを、王子にしていいと思っているのか!? 覚えてろよ、俺を袖にしたことを後悔させてやる! 一生誰からも愛されぬまま、ひとり野垂れ死ぬがいい!」

 背後からエドワードさまが僕を呪う声がする。迫りくる闇を振り払うように、王城を後にした。

 文官棟のほうを歩いていると誰かに肩を叩かれる。はっとして後ろを振り返ったら……「ルカ、どうした? 怪我でもしたのか!?」

 眉間にしわを寄せて、困惑しているピーターがいた。

 自嘲気味な笑みを浮かべ、「なんでもない、なんでもないんだよ」と繰り返した。

 そのまま職場へ戻り、仕事を始める。

 だけどヒッチャカメッチャカで、いつもならしない単純なミスばかりしてしまった。

 仕事仲間や先輩たちは「そんな日もあるよ」と慰めてくれた。「重大な過ちをていないんだから、そんなに落ち込まないでほしい」とまで言ってくれた。

 だけど僕は自分に失望せざるを得なかった。

 十八で学院を卒業したときから続けてきた仕事だ。普段なら、目をつぶっていても間違えたりしないと断言できる。それくらい自信があるし、仕事が完璧にできるよう努力して頑張ってきた。
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