リスタート―三度目の正直―

鶴機 亀輔

文字の大きさ
上 下
11 / 195
第3章

過ちを繰り返す2※

しおりを挟む
 沸々と込み上げてくる怒りや憎しみをどうすることもできないまま、とてつもない屈辱を受けていることを、血の味がする唇を噛みしめることで堪えるしかなかった。

「やあ、ん……だめ! エド、エド……! すき、大好きぃ……」

「ああ、愛しているよ……ノエル……」

 ノエルさまが赤い舌をちらつかせて、エドワードさまに口づけを求める。

 エドワードさまはノエル様の求めに応じ、赤くぽってりとして、唾液まみれになった唇を貪った。右手でノエルさまのテラテラしている赤い乳首をこねくり回し、左手はノエル様の肉感のあるももを抱えている。

 ノエルさまの勃起しても小ぶりなペニスが、先走り液を飛ばしながら彼の腹を打った。

 エドワードさまは欲情しきった男の顔をして、夢中で種馬のようにノエルさまの後孔にペニスの挿入を繰り返す。

 ぶちりとまた僕の唇が切れて血の味が口の中に広がった。

「ん、あっ……ああ……あーっ……!」

「うっ……ぐっ……ん、あ゛っ……」

 そうしてノエルさまは甲高い喘ぎ声で鳴いた。もう何度目かもわからない射精を終え、エドワードさまの腕の中で意識を失ってしまう。

 すかさずエドワードさまは意識を失ったノエルさまを抱きとめた。愛しげな表情を浮かべながら、ノエルさまの汗で額に貼り付いた黒い前髪を、かき上げてやる。

「ふふっ……気持ちよさのあまり、気を失ってしまったのか……」

いやつめ」とノエルさまの赤く上気した頬へエドワードさまは口づけた。

 僕の胸は、怒りや絶望、憎しみ、嫉妬といった負の感情で今にも、はち切れそうだった。

 冷たい鉄格子を握りながらエドワードさまに尋ねる。

「あなたは、僕のことを愛してなかったのですか? すべて――嘘だったと?」

「気づくのが遅いな。その通りだ。おまえのことを愛したことなど一度もない」

「……では、どうして僕に口づけをしたり、身体を繋げたのですか? 愛していたからではないのですか?」

「愚かな。男は愛情がなくても口づけをすることも、抱くこともできる。おまえは俺の欲を発散するための道具、性欲処理の人形だ。光栄に思え」

 あまりにもひどい言葉を掛けられ、閉口する。エドワードさまは僕が一度も見たことがないくらいにやさしい顔つきをして、ノエルさまのことを見つめていた。

「おまえにはわからぬだろうな。愛し合うことの尊さ、愛し合った者との交歓がどれほど甘美かを……俺が愛しているのはノエルだ。おまえじゃない」

 鉄格子を握っていた手を放し、冷たい床の上へと座り込む。

 僕のことを見向きもしないでエドワードさまはノエル様を横抱きにし、その場を去っていった。

 なんて愚かなんだろう。甘い言葉に騙され、性欲を満たすための人形扱いされていたことに気づかないでいたなんて……。

「エドワードさまは、ピーターの言う通りの人だったんだね。ちゃんと言うことを聞けばよかったな」

 狂ったように僕は泣き笑いをした。

 悲しみの涙が枯れるまで一晩中、泣き続けた。



   *



 翌日、夜間の見張りの兵が居眠りをした隙を狙って両手を胸元で交差し、「『過去』の女神様、どうかこの愚か者の声が聞こえましたら、ご慈悲をください。何卒お助けくださいませ!」と祈りを捧げる。

 世界が灰色一色になり、目の前にまばゆい光を纏った女神様が現れる。

「私を呼びましたね、ルキウス」

「はい、女神様。機会はもう一度いただけるのですよね!? どうしても、やり直しがしたいのです。どうか僕を過去の世界へ連れて行ってください!」

「よいでしょう、許します」

 ふたつ返事で了承してくれた女神様に女神様にお礼を言う。

 だが彼女は悲しそうな顔をして「ですが結果は変わらぬやも知れません」とポツリと言った。

「どういう意味でしょう?」

「結局あなたは――愛する人に裏切られ、大切な人たちを失う。今度は、もっとひどい目に遭うかもれません」

「いいです。大切な人たちの命を救えるなら、どんな目に遭おうと構いません!」

 切羽詰まった心の内をあらわにすると女神様の肩にとまっていた七色に光る蝶が、僕のことを慰めるように僕の固く握りしめた拳の上にとまった。

「どうやらこの子は、あなたのことがよほど気に入っているようですね。では大盤振る舞いをしましょう。あなたに助言をします」

「ありがたきお言葉……ぜひご教示ください。どうしたら、みんなを守れますか!?」

「復讐は、あの少年に仕返しをすることだけではありません」

 思わず「えっ?」と訊き返した。

「あなた自身が幸福になり、新たな幸せを掴むこと。それが復讐になる場合もあります。何かを得るために、大切なものを手放さなくてはならない。すべての人を守りたい気持ちは痛いほどわかりますが、あなたひとりには荷が重すぎる。

 もっと多くの人々の手を借りるのです。思うようにいかず、くじけそうになることもあるでしょう。それでも諦めないで。必ず誰かが、あなたのひたむきで真剣な気持ちに気づき、手を差し伸べてくれます。勇気を持って一歩を踏み出すことができれば奇跡は起きるのです。さすれば道も開けていくでしょう」

「よくわかりません」と問えば、女神様はふっと口元に笑みを浮かべた。

「私が口出しできるのはここまで。さあ、お行きなさい。最後の機会を与えましょう」

 そうして女神様は時計の針を逆回転させた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

Fragment-memory of future-

黒乃
ファンタジー
小説内容の無断転載・無断使用・自作発言厳禁 Repost is prohibited. 무단 전하 금지 禁止擅自转载 平和な生活を送っていた半人前の魔術師レイはある日、まるで予知夢のような不思議な夢を見る。その夢の正体を突き止めるため、謎に引き込まれるように彼は旅に出ることにした。 旅の最中で異種族の少年エイリークと出会い、物語は大きく動くことになる。 W主人公で繰り広げられる冒険譚のような、RPGを彷彿させるようなストーリーになります。 バトル要素、BL要素あり。転生転移ものではありません。 Copyright 2017 黒乃(@2kurono5)

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

処理中です...