リスタート―三度目の正直―

Prologue

冤罪を被った青年

　人々から石を投げつけられ、罵ば詈り雑ぞう言ごんを浴びせられる。

「ルキウス・クライン。なんじは王族の血を引く血族でありながら傲岸不遜にも王様、王妃様、王子様たちの暗殺および王位簒さん奪だつを企てた。己の私利私欲のために、第三王子・エドワードさまと婚約者であるノエルさまを抹殺しようと反乱クーデターを起こしたことは重罪に値する。よって――斬首刑に処す」

　大剣を手にした死刑執行人が壇上へ上る。

　民衆がどよめき、剣が振り下ろされる瞬間を今か、今かと待っている。

　恋人であるエドワードさまが、異世界からやってきた神み子このノエルさまに一目惚ぼれして心変わりをした。

　だけど僕は死刑執行人が述べた罪状のようなことを毛頭考えていなかったし、実行していない。だから身の潔白が明かされる日を待っていた。

　でも僕は死罪を賜ることになった。

　エドワードさまとノエルさま、そしてノエルさまの信奉者とエドワードさま推進派の王宮役人たちに陥れられたからだ。

　エドワードさまは、第一王子のアーサーさま、第二王子のシャルルマーニュさまと半分しか血が繋つながっていない。それはお二方が王妃様の産んだお子で、エドワードさまはご側室様が唯一産んだお子だからだ。

　ご側室様と王妃様は、従兄弟いとこだ。歳が同じで、どちらも高貴な上級貴族の令嬢だった。同時期に王様へ嫁いだから大層不仲だった。王宮内で顔を合わせれば、嫌味と皮肉の言い合い。後宮では、王様のご寵ちょう愛あいを賭けた駆け引きがなされ、彼女たちに仕える女官たちも角を突き合わせた。

　結局、王様の心を掴つかんだのはご側室様だった。

　しかしながら、先に王様のお子を授かったのは王妃様だ。

　長男のアーサーさまが生まれ、矢継ぎ早に次男のシャルルマーニュさまが生まれた。

　結果、王妃様の生家が優遇され、お世継ぎの座は王妃様の子であるアーサーさまが勝ち取った。

　その後ご側室様はエドワードさまを産んだけど、産後の肥立ちが悪く、病に伏せた。王妃様がご側室様に毒を盛り、呪ったという噂うわさが国中に流れた。

　ご側室様の女官たちは、その噂を否定するどころかエドワードさまに吹き込んだ。

　エドワードさまは、ご側室様だけでなく王妃様のことを慈しんだ王様をひどくお恨みなさった。そして王妃様と王妃様のご家族に復ふく讐しゅうを誓ったのだ。自らが王になり、王様や王妃様、王妃様のご家族、兄であるアーサーさまとシャルルマーニュまを亡き者にすることを考えた。

　そのための生け贄スケープゴートが、元・恋人である僕だ。

　エドワードさまは関係者に賄賂を渡し、証拠を捏ねつ造ぞう。金で買った証人による嘘うその証言から僕を暗殺計画と反乱を企てた首謀者にした。

　僕のことを信じて擁護してくれた仕事仲間に上司、助けようと尽力してくれた友や家族、従者たちまで陥れられてしまった。

　爵位や資産を剥奪された上で平民に降格となった者、奴隷の身分に落とされ国外へ売られた者、流刑に処せられた者、死ぬまで牢ろう獄ごくにいる者、そして――王族から死罪を賜った者。

　最後までエドワードさまのことを信じて待っているだけで、何もしなかった。そのせいで大勢の人たちが不幸になり、命を落としていった。

　きっと僕の行きつく先は、地獄だ。

　死刑執行人の足音が近づいてくる。もうすぐ剣が振り下ろされる。

　僕は目を見開いて、その瞬間を待っていた。