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第2章
アルファの力関係1
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腕組みをしながら、玄関の前に立つ。
黒のリボンストラップがついた厚底のヒールを履いた壱架が笑顔で振り返って、あたしも口元に笑みを浮かべた。
「そろそろ仕事、行くね。朝早くからお弁当、ありがとう!」
「それくらい、どうってことないわ。大したものじゃないんだから」
梅と明太子ののりで巻いた三角おにぎりに、タコさんウインナー。だし巻き玉子に、レタスときゅうりとプチトマトの簡単メニューだ。
本格的な料理や、SNSで映えるものは苦手で作れない。それにもかかわらず、壱架は「そんなことないよー!」と声を弾ませる。淡いパステルピンクを基調とした、うさぎの巾着袋をハート型のリュックに入れる。
「おにぎり作ってもらうと、おばあちゃん思い出して懐かしいし。こういうお弁当、遠足のときとか、運動会のときみたいでワクワクするから好きだよ」
「まったく、おべっかなんか使って……生意気よ」
「違うよー、お世辞じゃないってば!」
「そう、ありがとね。……あたしも少しは料理の本でも見て、勉強しよっかな? 料理のヴァリエーション、増やしたいし」
「ほんと!? じゃあ、もっと絹香のご飯が楽しみになるね! もう外食食べられなくなっちゃうかも」
チョップとはいえないチョップをほんの軽く頭に入れう。「いてっ」と言う声をタイミングよく出して壱架が舌を出す。
「調子に乗っちゃった」
「もう、んなわけないでしょ。プロにはプロのよさ・味ってもんがあるんだから」
「そっか、それもそうだね。今度お給料出たらさ、新しくできたホテルのレストランでフランス料理でも食べに行こうよ! 店長が超・美味しいって言ってたんだ」
「いいわね、行きましょうか」
「うん!」
そうしてハグをして触れるだけのキスをする。
「あの男がショップに行くことはないと思うけど、気をつけてね」
「わかってる。今日、四時で上がりだから絹香のお店でチョコパフェ食べさせて。その後、一緒に帰ろ」
「ええ、そうしましょう。待ってるわね」
「うん! じゃあ絹香、行ってきます」
手を振って壱架のことを見送り、あたしも自分の仕事へ行く準備を始める。
*
青のパーカーに黒のスニーカー。黒のレギンスのポケットにスマホというラフな格好で駅の中を歩く。こぢんまりとしたレストランのドアを開けて店内を見回した。
土曜といえど、朝から席が満杯近くになることは、そんなにない。だけど、すでに席のほとんどが埋まっていて、朝のホールの子が朝ご飯をとった客の食器を片づけている。
「おはよう」
「あっ、蛇崩先輩! おはようございます」
トレーいっぱいに白い食器やグラスを入れて机を拭いていたJKの真面目そうな女の子が、こっちへやってきてペコペコと何度も頭を下げる。
「その感じだと今日は混んでるみたいね」
「はい、朝からもう、お客様がいっぱいですよ。キッチンの三上さんも、ひっきりなしにお料理を作ってて。なのに深夜の子たちがぜんぜん仕事してないから大変でした……」
「マジか。あいつら、これで何度目?」
「五回目です」
「あれだけ口を酸っぱくして注意したのに! 日報も見てないわけ?」
客が来ていても平然とお喋りをして、女の子のアルバイトに嫌がらせやつきまといをする。仕事そっちのけでオメガや女のお客様を眺めながら品評会を始める大学生のアルファと、そいつに同調している男たちを思い出して頭が痛くなる。
天を仰ぎ、ぎゅっと目をつぶって、舌打ちをする。顔をもとに戻し、髪の毛が乱れている目の前の子に視線を戻す。
「シフト組み直してもらって、ラストのほうに回るわ。あいつら締め上げとくから今日は許してね」
「さ、さすが先輩……! ありがとうございます。もう、本当に、あの人達にはいやになっちゃいます……」
「任せといて。で、店長は? 今日、一緒のはずでしょ?」
「遅れるって電話あって、まだ来てません」
「あの人、新婚だからって奥さんとイチャツイてるのね。――わかった、すぐにあたしも入って手伝うわ。ここまでありがとう。戻って食器を洗浄機にかけといて」
「お願いします!」
今にも泣きそうな声を背後に聞きながら、速歩きでキッチンの横を通り過ぎる。
「蛇崩、おはよう」
そう言いながら、三上は焼き上がったトーストを小皿へ移し、葉物野菜を大きな丸皿へ移す。
「おはよう、戦況は?」
「見ての通り。夜シフトの連中と店長の遅刻のせいでマジ、てんてこ舞い。南さんも超頑張ってくれたけど、圧倒的に人が足りない。お掃除の風間さんの手まで借りてた始末」
「風間さんは?」
「残業覚悟でトイレ掃除。夜の連中がしてないからヤバいらしいよ。酒を飲んだ客がぶちまけてたみたいでクレーム来たし」
「これじゃ、口コミでまた悪口のオンパレードじゃない。とにかく着替えてくるわ」
「頼むから急いで! ヘルプよろしく」
スタッフルームに入り、ロッカーの前で手早くギャルソンの格好に着替え、靴を履き替える。そのまま日報の内容を確認し、パソコンに入ってる予定や天気予報を見て、タイムカードを押す。
「秋祭りねえ。人が来るわけだわ」
黒のリボンストラップがついた厚底のヒールを履いた壱架が笑顔で振り返って、あたしも口元に笑みを浮かべた。
「そろそろ仕事、行くね。朝早くからお弁当、ありがとう!」
「それくらい、どうってことないわ。大したものじゃないんだから」
梅と明太子ののりで巻いた三角おにぎりに、タコさんウインナー。だし巻き玉子に、レタスときゅうりとプチトマトの簡単メニューだ。
本格的な料理や、SNSで映えるものは苦手で作れない。それにもかかわらず、壱架は「そんなことないよー!」と声を弾ませる。淡いパステルピンクを基調とした、うさぎの巾着袋をハート型のリュックに入れる。
「おにぎり作ってもらうと、おばあちゃん思い出して懐かしいし。こういうお弁当、遠足のときとか、運動会のときみたいでワクワクするから好きだよ」
「まったく、おべっかなんか使って……生意気よ」
「違うよー、お世辞じゃないってば!」
「そう、ありがとね。……あたしも少しは料理の本でも見て、勉強しよっかな? 料理のヴァリエーション、増やしたいし」
「ほんと!? じゃあ、もっと絹香のご飯が楽しみになるね! もう外食食べられなくなっちゃうかも」
チョップとはいえないチョップをほんの軽く頭に入れう。「いてっ」と言う声をタイミングよく出して壱架が舌を出す。
「調子に乗っちゃった」
「もう、んなわけないでしょ。プロにはプロのよさ・味ってもんがあるんだから」
「そっか、それもそうだね。今度お給料出たらさ、新しくできたホテルのレストランでフランス料理でも食べに行こうよ! 店長が超・美味しいって言ってたんだ」
「いいわね、行きましょうか」
「うん!」
そうしてハグをして触れるだけのキスをする。
「あの男がショップに行くことはないと思うけど、気をつけてね」
「わかってる。今日、四時で上がりだから絹香のお店でチョコパフェ食べさせて。その後、一緒に帰ろ」
「ええ、そうしましょう。待ってるわね」
「うん! じゃあ絹香、行ってきます」
手を振って壱架のことを見送り、あたしも自分の仕事へ行く準備を始める。
*
青のパーカーに黒のスニーカー。黒のレギンスのポケットにスマホというラフな格好で駅の中を歩く。こぢんまりとしたレストランのドアを開けて店内を見回した。
土曜といえど、朝から席が満杯近くになることは、そんなにない。だけど、すでに席のほとんどが埋まっていて、朝のホールの子が朝ご飯をとった客の食器を片づけている。
「おはよう」
「あっ、蛇崩先輩! おはようございます」
トレーいっぱいに白い食器やグラスを入れて机を拭いていたJKの真面目そうな女の子が、こっちへやってきてペコペコと何度も頭を下げる。
「その感じだと今日は混んでるみたいね」
「はい、朝からもう、お客様がいっぱいですよ。キッチンの三上さんも、ひっきりなしにお料理を作ってて。なのに深夜の子たちがぜんぜん仕事してないから大変でした……」
「マジか。あいつら、これで何度目?」
「五回目です」
「あれだけ口を酸っぱくして注意したのに! 日報も見てないわけ?」
客が来ていても平然とお喋りをして、女の子のアルバイトに嫌がらせやつきまといをする。仕事そっちのけでオメガや女のお客様を眺めながら品評会を始める大学生のアルファと、そいつに同調している男たちを思い出して頭が痛くなる。
天を仰ぎ、ぎゅっと目をつぶって、舌打ちをする。顔をもとに戻し、髪の毛が乱れている目の前の子に視線を戻す。
「シフト組み直してもらって、ラストのほうに回るわ。あいつら締め上げとくから今日は許してね」
「さ、さすが先輩……! ありがとうございます。もう、本当に、あの人達にはいやになっちゃいます……」
「任せといて。で、店長は? 今日、一緒のはずでしょ?」
「遅れるって電話あって、まだ来てません」
「あの人、新婚だからって奥さんとイチャツイてるのね。――わかった、すぐにあたしも入って手伝うわ。ここまでありがとう。戻って食器を洗浄機にかけといて」
「お願いします!」
今にも泣きそうな声を背後に聞きながら、速歩きでキッチンの横を通り過ぎる。
「蛇崩、おはよう」
そう言いながら、三上は焼き上がったトーストを小皿へ移し、葉物野菜を大きな丸皿へ移す。
「おはよう、戦況は?」
「見ての通り。夜シフトの連中と店長の遅刻のせいでマジ、てんてこ舞い。南さんも超頑張ってくれたけど、圧倒的に人が足りない。お掃除の風間さんの手まで借りてた始末」
「風間さんは?」
「残業覚悟でトイレ掃除。夜の連中がしてないからヤバいらしいよ。酒を飲んだ客がぶちまけてたみたいでクレーム来たし」
「これじゃ、口コミでまた悪口のオンパレードじゃない。とにかく着替えてくるわ」
「頼むから急いで! ヘルプよろしく」
スタッフルームに入り、ロッカーの前で手早くギャルソンの格好に着替え、靴を履き替える。そのまま日報の内容を確認し、パソコンに入ってる予定や天気予報を見て、タイムカードを押す。
「秋祭りねえ。人が来るわけだわ」
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