5 / 12
4話
しおりを挟む
僕は生まれた時から人喰いだった。
もちろん生まれた時のことは覚えていないから、これは僕が大きくなって両親から聞いたことだ。
人の少ない侘しい辺鄙な村で僕は生まれたという。
薄暗い部屋の中で母は身内の数人に囲まれ世話をされながら僕を生み、その時ばかりは元気に産まれたことを喜んだらしい。
父が生まれたばかりの僕に鋭い歯が生え揃っていることに気づくまでは。
人間の赤子としてはおおよそ相応しくないほどに生えた歯はそれだけならばまだ問題は無かった。
歯が生えているために乳をあげることには苦労したらしいが、どうにでもなっていたという。
自分達の子どもにもう歯が生えているということは周りの人には決して言わなかったらしい。
第六感で良くないものだと感じ取っていたのかもしれない。
うちの子どもは体が弱いからと言って、外にも出さずに出来るだけ誰にも会わせずにいたという。
問題が現れたのは食物を食べるような時期の頃だったらしい。所謂離乳食といった類を僕は一切口にしなかった。無理に口に入れてもすぐに吐き出してしまったという。
その時点で父は察していたものがあったらしいが、まさかとは思い口にしなかったという。いつか食べるようになってくれると両親は無意味に励ましあっていた。
しかし、そうも言っていられない出来事が起こった。飢えた僕は母に噛み付いたらしい。子どもらしくもない歯で一心不乱に食べようとしていたという。
まだ幼い子どもだったから引き離すのは容易だったらしいが、その力さえ普通の子どもの力では無かった。
もう言い逃れは出来なかった。自分達の子どもは人喰いなのだと、両親はついに認めたという。
人喰いというのはその名の通り人を喰う者のことだ。
普通の人間から突如生まれ落ちる者でそれを防ぐ手立ては今の所見つかっていない。
呪いだの前世の罪だの色々言われてはいるがどれもはっきりとした証拠はない。
ただ生まれたのが人喰いならば速やかに始末しろということだけが何処に行っても変わらない決まりだ。
ごく稀に何らかの理由で生き延びる人喰いが人を襲っては喰い殺すことで問題になっているからだ。芽は早いうちに摘んでおいた方がいい。
僕の両親はそれが出来なかった。優しくも愚かな人達だったからだ。
人喰いの息子に笑いかけ、どうにかして食べるものを探して来ていた。息子が自分達を食べたがっていることさえ知らずに。
いや、知ってはいたのかもしれない。それでも側に置いたのだから愛されていたのだろうと想像することくらいは僕にも出来る。
両親はいつも墓を掘り返していたらしい。夜中にこっそりと見つからないように。そして掘り起こされた肉を僕が食べるのだ。旨味が薄くなった死んだ肉。それでも飢えた体には美味しく感じられた。
人の肉を美味そうに喰う自分達の子どもを両親はどう思いながら見ていたのだろう。そんなことを最近、時折ふと思う。
もう確かめようもないけれど、そう思うのだ。
食べるのに夢中で気にしていなかったけれど、もしかして僕に自分の肉を食べさせるフィレナのように優しい目をしていたのかもしれない。なんの確証もないのにそう信じてしまう自分がいた。
人喰いを生むことは二人の罪ではないだろうけど、僕を育てたのはきっと二人の罪だろう。
二人は僕を、人ではない息子を、愛してしまったのだから。
もちろん生まれた時のことは覚えていないから、これは僕が大きくなって両親から聞いたことだ。
人の少ない侘しい辺鄙な村で僕は生まれたという。
薄暗い部屋の中で母は身内の数人に囲まれ世話をされながら僕を生み、その時ばかりは元気に産まれたことを喜んだらしい。
父が生まれたばかりの僕に鋭い歯が生え揃っていることに気づくまでは。
人間の赤子としてはおおよそ相応しくないほどに生えた歯はそれだけならばまだ問題は無かった。
歯が生えているために乳をあげることには苦労したらしいが、どうにでもなっていたという。
自分達の子どもにもう歯が生えているということは周りの人には決して言わなかったらしい。
第六感で良くないものだと感じ取っていたのかもしれない。
うちの子どもは体が弱いからと言って、外にも出さずに出来るだけ誰にも会わせずにいたという。
問題が現れたのは食物を食べるような時期の頃だったらしい。所謂離乳食といった類を僕は一切口にしなかった。無理に口に入れてもすぐに吐き出してしまったという。
その時点で父は察していたものがあったらしいが、まさかとは思い口にしなかったという。いつか食べるようになってくれると両親は無意味に励ましあっていた。
しかし、そうも言っていられない出来事が起こった。飢えた僕は母に噛み付いたらしい。子どもらしくもない歯で一心不乱に食べようとしていたという。
まだ幼い子どもだったから引き離すのは容易だったらしいが、その力さえ普通の子どもの力では無かった。
もう言い逃れは出来なかった。自分達の子どもは人喰いなのだと、両親はついに認めたという。
人喰いというのはその名の通り人を喰う者のことだ。
普通の人間から突如生まれ落ちる者でそれを防ぐ手立ては今の所見つかっていない。
呪いだの前世の罪だの色々言われてはいるがどれもはっきりとした証拠はない。
ただ生まれたのが人喰いならば速やかに始末しろということだけが何処に行っても変わらない決まりだ。
ごく稀に何らかの理由で生き延びる人喰いが人を襲っては喰い殺すことで問題になっているからだ。芽は早いうちに摘んでおいた方がいい。
僕の両親はそれが出来なかった。優しくも愚かな人達だったからだ。
人喰いの息子に笑いかけ、どうにかして食べるものを探して来ていた。息子が自分達を食べたがっていることさえ知らずに。
いや、知ってはいたのかもしれない。それでも側に置いたのだから愛されていたのだろうと想像することくらいは僕にも出来る。
両親はいつも墓を掘り返していたらしい。夜中にこっそりと見つからないように。そして掘り起こされた肉を僕が食べるのだ。旨味が薄くなった死んだ肉。それでも飢えた体には美味しく感じられた。
人の肉を美味そうに喰う自分達の子どもを両親はどう思いながら見ていたのだろう。そんなことを最近、時折ふと思う。
もう確かめようもないけれど、そう思うのだ。
食べるのに夢中で気にしていなかったけれど、もしかして僕に自分の肉を食べさせるフィレナのように優しい目をしていたのかもしれない。なんの確証もないのにそう信じてしまう自分がいた。
人喰いを生むことは二人の罪ではないだろうけど、僕を育てたのはきっと二人の罪だろう。
二人は僕を、人ではない息子を、愛してしまったのだから。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」
そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。
彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・
産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。
----
初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。
終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。
お読みいただきありがとうございます。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
(完結)私より妹を優先する夫
青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。
ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。
ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる