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カニカマ
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おれはカニカマが嫌いだ。
カニは好きだけど、カニカマは嫌いだ。
カニカマは大してカニに似てないのにカニのふりをしている。
全然味が違うのに、カニっぽい姿をして人間を騙そうとしているのだ。
「だからおれはカニカマが嫌い」
おれがそう言うと、テーブルの向こう側に座る父さんが笑った。
「そうか。ユウマはカニカマ嫌いか」
「きらい」
父さんはサラダの上にバラバラと乗せられたカニカマを嬉しそうに食べながら笑う。
「だって、おいしくないもん」
わざとらしい赤と白の色合いに、うげえと顔をしかめてしまう。
口の中にあのカニカマの味が蘇る気さえして、見るのも嫌だ。
「そんなの好きなの、意味わかんない」
おれが言うと、父さんは珍しく顔をしかめた。
「それはちょっと、よくないなぁ」
「え、なにが?」
「ユウマはカニは好きなんだろう?」
父さんの問いかけに大きく頷く。
カニは好きだ。もちろん。店で食べるのも家で食べるのも好きだ。
剥いで食べるのは大変だけど、がんばろうって思えるおいしさがある。
「父さんが、カニよりカニカマの方がおいしいから、ユウマのこと意味わかんないって言ったら、嫌だろ?」
父さんの言葉に答えられなかった。
「好き嫌いはみんなあるから仕方ないけど、意味わかんないとか好きな人を否定するようなことを言うのはよくないって、父さん思うよ」
「……うん」
ごめんなさいって言うのも違う気がして、でも黙ってるのもよくない気がした。
「……一口だけ、食べてみる」
「うん?」
「カニカマ」
父さんはとても驚いた顔をした。
「食べるか?」
「うん」
カニカマはやっぱりカニには到底敵わないけれど、おれの記憶より、少しだけおいしかった。
カニは好きだけど、カニカマは嫌いだ。
カニカマは大してカニに似てないのにカニのふりをしている。
全然味が違うのに、カニっぽい姿をして人間を騙そうとしているのだ。
「だからおれはカニカマが嫌い」
おれがそう言うと、テーブルの向こう側に座る父さんが笑った。
「そうか。ユウマはカニカマ嫌いか」
「きらい」
父さんはサラダの上にバラバラと乗せられたカニカマを嬉しそうに食べながら笑う。
「だって、おいしくないもん」
わざとらしい赤と白の色合いに、うげえと顔をしかめてしまう。
口の中にあのカニカマの味が蘇る気さえして、見るのも嫌だ。
「そんなの好きなの、意味わかんない」
おれが言うと、父さんは珍しく顔をしかめた。
「それはちょっと、よくないなぁ」
「え、なにが?」
「ユウマはカニは好きなんだろう?」
父さんの問いかけに大きく頷く。
カニは好きだ。もちろん。店で食べるのも家で食べるのも好きだ。
剥いで食べるのは大変だけど、がんばろうって思えるおいしさがある。
「父さんが、カニよりカニカマの方がおいしいから、ユウマのこと意味わかんないって言ったら、嫌だろ?」
父さんの言葉に答えられなかった。
「好き嫌いはみんなあるから仕方ないけど、意味わかんないとか好きな人を否定するようなことを言うのはよくないって、父さん思うよ」
「……うん」
ごめんなさいって言うのも違う気がして、でも黙ってるのもよくない気がした。
「……一口だけ、食べてみる」
「うん?」
「カニカマ」
父さんはとても驚いた顔をした。
「食べるか?」
「うん」
カニカマはやっぱりカニには到底敵わないけれど、おれの記憶より、少しだけおいしかった。
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