カニカマ

蒼キるり

文字の大きさ
上 下
1 / 1

カニカマ

しおりを挟む
 おれはカニカマが嫌いだ。
 カニは好きだけど、カニカマは嫌いだ。
 カニカマは大してカニに似てないのにカニのふりをしている。
 全然味が違うのに、カニっぽい姿をして人間を騙そうとしているのだ。
「だからおれはカニカマが嫌い」
 おれがそう言うと、テーブルの向こう側に座る父さんが笑った。
「そうか。ユウマはカニカマ嫌いか」
「きらい」
 父さんはサラダの上にバラバラと乗せられたカニカマを嬉しそうに食べながら笑う。
「だって、おいしくないもん」
 わざとらしい赤と白の色合いに、うげえと顔をしかめてしまう。
 口の中にあのカニカマの味が蘇る気さえして、見るのも嫌だ。
「そんなの好きなの、意味わかんない」
 おれが言うと、父さんは珍しく顔をしかめた。
「それはちょっと、よくないなぁ」
「え、なにが?」
「ユウマはカニは好きなんだろう?」
 父さんの問いかけに大きく頷く。
 カニは好きだ。もちろん。店で食べるのも家で食べるのも好きだ。
 剥いで食べるのは大変だけど、がんばろうって思えるおいしさがある。
「父さんが、カニよりカニカマの方がおいしいから、ユウマのこと意味わかんないって言ったら、嫌だろ?」
 父さんの言葉に答えられなかった。
「好き嫌いはみんなあるから仕方ないけど、意味わかんないとか好きな人を否定するようなことを言うのはよくないって、父さん思うよ」
「……うん」
 ごめんなさいって言うのも違う気がして、でも黙ってるのもよくない気がした。
「……一口だけ、食べてみる」
「うん?」
「カニカマ」
 父さんはとても驚いた顔をした。
「食べるか?」
「うん」
 カニカマはやっぱりカニには到底敵わないけれど、おれの記憶より、少しだけおいしかった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【1話完結】あばれたりないなら、あそぼうよ

西東友一
児童書・童話
今は昔、「鬼」たちが田畑を荒らしていた頃・・・ 一人の少女が鬼を成敗する!? やっぱりしない!! そんなお話です。

ちいさな哲学者

雨宮大智
児童書・童話
ユリはシングルマザー。十才の娘「マイ」と共に、ふたりの世界を組み上げていく。ある時はブランコに乗って。またある時は車の助手席で。ユリには「ちいさな哲学者」のマイが話す言葉が、この世界を生み出してゆくような気さえしてくるのだった⎯⎯。 【旧筆名、多梨枝伸時代の作品】

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

悪女の死んだ国

神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。 悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか......... 2話完結 1/14に2話の内容を増やしました

三姉妹のせいいっぱい 夏休みの終わり

とものりのり
児童書・童話
個性的な三姉妹のお話です。 体力自慢で行動派の長女、がんばり屋で料理好きの次女、なまけものでズル賢い三女です。 夏休みの終わり。宿題が終わっていない長女ひとみちゃんと三女のまゆちゃんにお父さんが遊園地に行こうと言い出しました。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

ピンク色のおばけ

鳥柄ささみ
児童書・童話
あるところにピンク色のおばけのモモスケがいました。 みんな白色なのに、自分だけピンク色なのをからかわれ、モモスケは自分のピンク色が嫌いでした。

きたかぜとたいふう

大秦頼太
児童書・童話
「北風と太陽」のその後の話を考えてみました。 北風は今度は誰と勝負をするのかな? 絵本ひろばでも公開中~。

処理中です...