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11.どうやら私は猫だったようです。
しおりを挟む簡単には帰れない、という言葉を聞いた時、確かに蘇る何かがあった。
前にも同じことを言われた気がする。いや、確かに言われた。そう、私は言われたのだ。
その時は餅丸のように、私たちを心配する風ではなかった。
愚かな私ではない私を笑う言葉だった。
ここに立つ私を振り払うように、ぐらぐらと揺れているのではないかと錯覚してしまうほどの衝撃だった。
怖いほど突然に蘇る記憶に、私は思わず呻き声を上げてしまう。
「美衣ちゃん、大丈夫!?」
私の異変に気付いたらしい輝が慌てたように私の身体に触れる。その暖かになんとか正気のようなものを取り戻す。
輝はここにいる。そして私はそんな輝の妻だ。私たちは結婚しているのだ。
必死に現実を頭に刻み付ける。
ようやく落ち着いてきたので、なんとか輝に頷き返す。
輝はまだ心配そうに私の背中を撫でてくれている。
「……餅丸は知ってたの?」
息を整えてから問いかけた。餅丸が、そうだと鼻を鳴らす。
『こっちに来て教えてもらった』
さも当たり前と言わんばかりの答えに私は目をひそめる。
主語が無いじゃないか、主語が。
全くもう。一体どんな飼い主が面倒を見ているんだか。しっかり教えていてほしい。
待てよ、飼い主は私と輝だ。
「誰に?」
頭が痛くなったので考えるのは止めにしよう。うん、餅丸と初めて会った時から既にもういい年だったと思うし、私たちのせいではないだろう。
ということにして簡潔に尋ねてみた。
『猫又の長に』
手短な餅丸の答えに私はすぐさま理解して頷いてみせた。
ああ、そんなやつも居たな。と今の私には容易に思い出すことが出来るのだ。
いいのか悪いのかは分からないけれど。
きっとこんな場所にいるから思い足せるのだろう。
だって、今まで生きてきて全く思い出せていないのだから、この考えも間違っていないだろう、多分。
「美衣ちゃん……なんの話?」
心配そうな輝にどう答えていいか迷う。
ああ、悔しいけれど、今なら家を出た餅丸の気持ちがよくわかる。
でも、輝に黙っているわけにはいかないだろう。
私は輝に隠し事なんて出来るわけがないし、したくもないのだから。
だって私たちは夫婦なのだ。
「私の前世が猫だったって話だよ」
意を決して言った言葉。輝がほんの少し眉をひそめただけで、それほど驚いていないのが意外と言えば意外だった。
いや、意味が理解できていないだけかもしれない。
どちらにせよきちんと思い出したことを話さなければいけない、と私は重い口を開いた。
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