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6.長生きした猫の尻尾は二本になる。
しおりを挟む私は昔のことを思い出していた。
どのくらい昔かというと、輝が学ランを着ていて私がセーラー服を着ていたくらい昔だ。
「輝、その猫どうするつもり?」
「だって可哀想だよ。こんな怪我して」
下校中に見つけた猫を、輝が制服が汚れるのも気にせずに抱きかかえていたのをよく覚えている。
輝は猫好きだったものの家族は猫を飼うことを禁止していたので、動物病院に駆け込んだ時の治療費は私と輝のお年玉から捻出された。
あの時の出費はかなり痛かった。
「見て、美衣ちゃん。丸くてお餅みたい」
元気になった猫を見ながら、輝はにこにこと笑いながら言っていた。
ちなみに私は猫にばかり興味を持つ輝に不服感を覚えつつ、まだその頃は四六時中猫に囲まれているわけでもなかった為、わりと我慢していた。
もちろん構ってアピールはしっかりしていた。妻として当然である。
もっともその頃は妻ではないけれど。恋人として、うん。そもそも私たちはお付き合いしましょう的なことをお互いに言ったことがないので、厳密に言うと恋人だったかどうかは疑問が残るのだけど。
まあ別にそれはいいから置いておく。
「確かに野良にしては太ってるね」
「うん、この子の名前、餅丸がいい」
猫を抱きかかえ、私に顔を見せながらそう言うものだから、いいんじゃないと頷くしかなかった。
その頃はまだ名前が捻っていると言えなくもなかったし。
今なんてグレーにホワイトにブラックだ。
初心に帰って欲しいところである。覚えやすいのはいいのだけど。
そんな本筋とはあまり関係ない、餅丸との出会いを詳しく思い出していた。
未だ様子のおかしい餅丸に私は再度声をかける。
「餅丸、あんたどうしちゃったの?」
餅丸は何故か答えようとしない。
そういえば他の猫たちも近づいてこないな、といま気づいた。
私たちに遠慮しているのだろうか。
それとも餅丸に近づきたがらないのだろうか。
「その尻尾も……」
さっき二本に見えた尻尾は、今も時折二本に見える。
瞬きをすれば戻るけれど、また視界がズレると二本になる。酔ってしまいそうな光景だ。
猫の尻尾が二本。なんかどこかで聞いたことあるフレーズだ。
私がじっと見つめていると、餅丸が立ち上がってしまった。そのままのっそりと動き始める。
「あ、ちょっと!」
慌てて私が声を上げると、餅丸はようやくこちらを少しだけ見てくれた。
『ちょっと散歩にいくだけだ』
その言葉に少しだけほっとするけど、まだ話は終わってない。
なんてやつだ。めちゃくちゃ気になるじゃないか。別に裂けてるとかじゃないから、病気とかではないと思うけど。
「あんまり遅くならないでよ!」
私はそう言うことしか出来なかった。
餅丸が縁側から庭に降りて、のっそりのっそりどこかに行くのを見つめながら、私はふとあることを思い出していた。
長生きした猫の尻尾が二本になることを、猫又と言うんじゃなかっただろうか。
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