惹かれて満ち足りて

蒼キるり

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8.指と口づけ

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 どの部屋にするか、と戯れるように尋ねる姿さえ魅力的だった。
 どこでもいいから早く。そう言いたかったけど、それだと強請っているように聞こえてしまうかもしれない。
 それはさすがに恥ずかしくて、薄暗い廊下だから私の顔はよく見えなかったであろうことだけが救いだった。


「シャワー浴びる?」


 部屋に入ってすぐ、彼にそう尋ねられた。
 もちろん、と慌てて頷く私を見て面白そうに笑われてしまった。


「僕はどっちでもいいけど」


 さすがにそれはどっちでも良くない、と私は激しく首を振った。
 いってらっしゃいと優しく告げられ、ただ単に揶揄れていただけだと気づく。
 遊び慣れていないのを指摘されたようで少し気恥ずかしくて、顔を隠すようにお風呂へと向かった。
 明け透けに中が見えてしまう造りのシャワールームでないことだけが救いだった。
 彼を待たせていることを考えると手短に済ませなくてはと思うのだけど、彼にこれから触れられるのだと考えると適当に済ませるわけにはいかなかった。
 入念とは言えないけれど、それなりに満足いくまでのことを行ってから部屋に戻った。
 私はふわふわと落ち着かない心持ちで彼の待つベッドに腰掛けた。


「いつもより静かだね。緊張してる?」

「うん、少し。こういうの初めてだから」


 少し意外そうな顔で彼は私の顔を覗き込んだ。
 その整った顔立ちに否応なくどきどきと胸が高鳴る。
 するりと私の頬に手を伸ばして指先で緩やかに撫でられる。
 そんな小さなことにさえ、この次にされることを期待してしまう。
 指が冷たく感じて、自分の頬がどんなに熱いのか知らしめられている気がした。


「へえ、そうなの?」

「うん、恋人としかしたことない。そんなに遊んでるように見える?」

「そうじゃないけど」


 彼は笑いながら手を離した。近くで見ると一層綺麗な手だった。その手でもっと触れて欲しかった。
 離れていくのが名残惜しくて寂しくて、早く、と強請ってしまいそうになる。


「まあ、僕もそんなに経験ないんだけどね」

「え、うそ」


 今度こそ彼は小さく声を上げて笑った。
 上擦った声が可愛らしいとすら思った。そのことで少しだけ余裕を取り戻す。
 普段通りにすればいい。毎週会っていた相手だ。今日は少しすることが違うだけで。


「なんで嘘って思うの?」

「だって、すっごく慣れてる」


 私の答えには答えずに、彼は瞬きをせずに私の目を見つめた。


「キス、してもいい?」


 答える間も無く頷く。一言話す時間さえ惜しかった。
 ずっと、そうして欲しかった。
 初めて会った時から、ずっと。
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