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4.夢と再会
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こんなに一週間が過ぎるのが遅かった時はない。
こんなに待ち遠しかったこともない。
ひどく現実感の薄い、落ち着かない、いても経ってもいられないような、長い長い一週間だった。
仕事をしながら、あれは本当に現実の出来事だったのだろうかと考え込んでしまうことが何度もあった。
それほどまでに彼は魅力的で、それと同時に浮世離れしていた。
名前も知らない彼に惹かれていた。そんなこと問題にすらならない気がしていた。
「ほんとにいた」
先週以上に緊張しながらバーに向かい、そこに彼がいたことを確認した私は思わずそう呟いてしまった。
それを聞き逃さなかった彼はくすりと笑って、私を隣の席に招いてくれた。
「来ないと思った?」
「……先週のことが、夢かもしれないと思って」
「夢じゃないよ。そんなに信じられないなら……触ってみる?」
彼がそう言って、遊び半分のように手を差し出してきた。
からかわれているのかもしれない、と思いつつも好奇心が勝った。
彼の手にそっと触れた。思っていたより低い温度。それはさらりと私の手によく馴染んだ。
触れているだけで、何もかも超越しているみたいだった。
もし、これ以上彼に触れたら、私はどうなってしまうのだろう。そんな風に怖くなってしまうくらいだった。
私が手を出すとは思っていなかったのか、彼は一瞬驚いたような顔をしてそれからまた笑った。
楽しそうな彼の声を聞くだけで、今日ここに来て良かったと思える。
「うん、夢じゃない」
手が離れた後も触れた感触は消えなくて、じわじわと頬に熱が集まるのがわかる。
きっと彼には気づかれている。でも何も言っては来なかった。
ただ、何もかも見透かしたように目を細めて私を見ていただけだ。
それが嫌だとはやっぱり思えない。
また、時間の許す限り彼と話した。
今回はお酒の合間に、というよりも話の合間にお酒を流し込んだ。
ふわふわと心地よいのはお酒のせいだけではないだろう。
この勢いに任せて彼に縋ってみたいという衝動に駆られたのは一度や二度ではなかったけれど、辛うじて残った理性がそれをなんとか押し留めていた。
「また、会いたい」
別れ際に私がそう強請っても、彼は拒まなかった。
私がそう言うと知っていたかのように、気軽にいいよと頷いた。
「じゃあ、また来週」
彼にとってはただの暇つぶしかもしれない。でも、それでも良かった。
また会える。そう思えるだけで十分だったから。
次の週も、その次の週も、私は彼に会った。
まるで一つのルーチンワークのように、それは日常となっていった。
こんなに待ち遠しかったこともない。
ひどく現実感の薄い、落ち着かない、いても経ってもいられないような、長い長い一週間だった。
仕事をしながら、あれは本当に現実の出来事だったのだろうかと考え込んでしまうことが何度もあった。
それほどまでに彼は魅力的で、それと同時に浮世離れしていた。
名前も知らない彼に惹かれていた。そんなこと問題にすらならない気がしていた。
「ほんとにいた」
先週以上に緊張しながらバーに向かい、そこに彼がいたことを確認した私は思わずそう呟いてしまった。
それを聞き逃さなかった彼はくすりと笑って、私を隣の席に招いてくれた。
「来ないと思った?」
「……先週のことが、夢かもしれないと思って」
「夢じゃないよ。そんなに信じられないなら……触ってみる?」
彼がそう言って、遊び半分のように手を差し出してきた。
からかわれているのかもしれない、と思いつつも好奇心が勝った。
彼の手にそっと触れた。思っていたより低い温度。それはさらりと私の手によく馴染んだ。
触れているだけで、何もかも超越しているみたいだった。
もし、これ以上彼に触れたら、私はどうなってしまうのだろう。そんな風に怖くなってしまうくらいだった。
私が手を出すとは思っていなかったのか、彼は一瞬驚いたような顔をしてそれからまた笑った。
楽しそうな彼の声を聞くだけで、今日ここに来て良かったと思える。
「うん、夢じゃない」
手が離れた後も触れた感触は消えなくて、じわじわと頬に熱が集まるのがわかる。
きっと彼には気づかれている。でも何も言っては来なかった。
ただ、何もかも見透かしたように目を細めて私を見ていただけだ。
それが嫌だとはやっぱり思えない。
また、時間の許す限り彼と話した。
今回はお酒の合間に、というよりも話の合間にお酒を流し込んだ。
ふわふわと心地よいのはお酒のせいだけではないだろう。
この勢いに任せて彼に縋ってみたいという衝動に駆られたのは一度や二度ではなかったけれど、辛うじて残った理性がそれをなんとか押し留めていた。
「また、会いたい」
別れ際に私がそう強請っても、彼は拒まなかった。
私がそう言うと知っていたかのように、気軽にいいよと頷いた。
「じゃあ、また来週」
彼にとってはただの暇つぶしかもしれない。でも、それでも良かった。
また会える。そう思えるだけで十分だったから。
次の週も、その次の週も、私は彼に会った。
まるで一つのルーチンワークのように、それは日常となっていった。
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