惹かれて満ち足りて

蒼キるり

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2.会話と官能

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「隣、よろしいですか?」


 気がついたら、そう声をかけていた。
 ああ、私はこんなに積極的になれる人間だったのかと少し嬉しくなる。
 自分の主導権を自分が握れるというのは、なんて自由で素晴らしいのだろう。


「どうぞ」


 彼は緩やかに首を傾げながら、優しげに応えてくれた。
 私は遠慮もせずに隣のイスに腰掛けた。
 想像していたより幾分か高い彼の声は耳に心地よい。ずっと聴いていたい声だった。
 バーテンダーに注文を聞かれ、あまり度が高くなくて甘いものをと答えたけれど、心ここに在らずだったことは否定しない。
 私は隣の彼ばかりが気になっていた。


「よく来られるんですか?」


 私がそう尋ねると、嫌そうな顔一つせず彼は首を振った。その仕草ひとつ取っても魅力的だった。目が離せないほどに。
 バーテンダーから届けられたグラスを傾けながらも、私はそれとなくを装って彼を眺めていた。
 顔はどちらかというと中性的な顔立ちで、服装は体のラインを隠すかのように少しサイズが大きめでカジュアルなものだ。
 それでいて細身な印象に見えるのが不思議だった。黒い服もミステリアスな印象に拍車をかけている。
 どこを取っても見惚れてしまうほど魅力的なことに変わりはない。
 私は普段真面目に見えるタイプの人間が好みだから、正直言って、別にタイプというわけではないのだ。それなのにこんなに惹かれるなんて。
 つい笑ってしまいそうなほどに不思議だ。でもそれが不思議だとは思わない。
 タイプだからとかそんな単純なことじゃなくて、彼に惹かれているのだ。


「実は初めてなんです」


 彼が微笑みながらそう言った。
 ほんの少し語尾が擦れていて、それが耳を優しく撫でられているみたいに感じる自分がいた。


「バー自体もあんまり。だから慣れてなくて。あなたは?」

「私もここは初めてで」


 声が浮ついてないか少し不安だった。でもそんなことはすぐに気にならなくなるくらいその人は魅力的で、薄暗い店内の中でもその人の瞳はとても綺麗に見えた。
 何もかも見通すような透き通った瞳。
 心の中を覗かれているみたいな。私が滑稽に見えるほど惹かれていることさえ気づかれているような。
 でも、嫌だとは思わない。

 お通しで出されたナッツとチョコレートをちらりと見て、指先でナッツを摘む。
 ネイルをしてくれば良かったな、とただ磨いただけの自分の爪先を見ながら思った。


「年、近そうですよね。よかったらもう少し楽に話しません?」

「ええ、もちろん」


 話したいのは私だけではないという安心感から思い切り破顔してしまった。くすりと笑われてしまったけど、つくづく嫌な感じは全くしない。


「よかった。じゃあ、乾杯」


 彼の言葉に合わせてグラスを持ち上げた。
 かちん、と軽やかに鳴った音が耳の中でくらくらと唸って、私の官能を刺激していた。
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