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1.うちの地下には鬼がいる。
しおりを挟む家の古い台所で、私は二人分の食事を用意する。
窓の外がそろそろ暗くなり始めている。夏だからといって日が暮れるのが遅いと思っていると、夕食を作るのがついつい遅くなってしまうのは反省しなくてはいけない。
三ヶ月前、両親が亡くなってからきっちり二人分のご飯を作るのにも、もう慣れた。
人間が一人しかいない我が家には、まだ慣れないけれど。
「よし、できた」
だだっ広い家の中に私の声が寂しく響く。
私ももういい歳だし、両親の死は唐突ではあったけど、ずっと前から覚悟していたことでもあった。
寂しいけれど、いつまでも泣いて暮らすほどのことではない。
だけど、こんな風に喋っても返事が返ってこないというのは、やっぱり寂しいものがある。
作ったご飯をお盆に乗せて、落とさないようにそろそろと足を進める。
二階へ上がる階段の裏、一見階段下の収納にしか見えないそこに入り、一度お盆を棚の上に置く。
ただの壁に見える場所の微かな隙間に指を差し入れて、力を込めて引くと地下に向かって伸びる薄暗い階段が姿を現した。
「あーあ、エレベーターでもあったら楽なのに」
随分昔の建物だし、地下があることが他人にはバレない為の工夫だから、改築の必要があるエレベーターは無理だとは分かっている。
だけど、毎度毎度階段で下りるのも大変なのだ。少なくとも一日に二回は上り下りしているのだから。
ため息を吐きつつお盆を改めて持ち直し、階段を下り始める。
キシキシ、と音を立てる階段に昔はひどく怯えたのだけど、今ではすっかり慣れたものだ。
階段を下りた先には、時代劇でしか見ないような座敷牢のようなものが現れる。
鍵はかけていないので、人間は出入りが自由だから牢とは違うのかもしれないけれど、用途はさほど変わらない。
「六鬼。ご飯、持ってきたよ」
地下とは思えないほど整えられたその部屋の中で、寝そべってくつろいでいたその鬼はのっそりと起き上がった。
「おー」
鬼とは思えないほど気の抜けた返事だ。
見た目も人間とほとんど変わらないな、と物心ついた時からこの鬼と関わってきた私は思う。
ぼりぼりとかいている頭から覗く角は鬼らしくはあるし、人間より幾分鋭い八重歯も鬼の証なのだろうけど、私にはそのくらいしか違う点を見つけられない。
「ありがとな、結弦」
笑顔で言う六鬼に、私は一応あなたを使う側の人間なんですけどね、と心の中で思わずにはいられない。
それでも両親のいない今、私にとって唯一家族と言えるのは六鬼しかいないから、こんな態度を嬉しく思ってしまうのは、六鬼にはもちろん秘密だ。
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