ワームワームワーム

蒼キるり

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8.世界で一番知っている

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 今更ながらに思う。あの人は何を求めていたのだろう。いつでも自分が何処まで行けるのか試しているような生き急いでいる人だった。


「案の定あの人はあんだけ痛い思いしたのに速攻で飽きたんだよ。まあ子育て自体は二回目だしな。今度は機械系に熱上げてた。金だけはくれるし別に暴力振るうタイプでもなかったけどさ、でも放置は放置だからネグレクトなんだよなぁ。で、まあ子どもは俺が育てたよ。外には出せないから部屋の中だけで。俺も一般教育は部屋でできるように繋げ直した。まあそれは結構な人がやってるから怪しまれなかった。でも大変だったよ、ほんと。子育てロボットは俺の時の旧式しかなかったから、壊れたら困るしメンテナンスも出せないから滅多に使わなかったし。ほとんど俺一人での子育てだからめちゃくちゃ大変だった。昔の人って絶対今の人間より体力があったんだと思うんだけど、どうなんだろ。だって無理だろ。俺、途中から立ったままでも寝れてたよ」


 子育てってそれくらい大変だ。まあ俺も子どもだったからということもあるけど。あの人本当にすぐ飽きたからな。


「生まれたばっかりの子どもって大丈夫かって思うくらい温かいんだ。力入れたら崩れそうなほど柔らかくってさ、甘い匂いがするんだ。腕の中に抱くたびに本当に同じ生き物なのかって思ったよ。本当に俺みたいになるのかなって。ならないといいなって。俺みたいにならなきゃいいって」


 俺みたいになっても人生が生きづらいばかりだから、俺が育てても俺に似ないでほしいと思った。


「なんでもしてあげたよ、あいつのためなら。お腹空いたら可哀想だから、ちゃんと柔らかく煮たのを食べさせてやった。一人で食べるのは寂しいから一緒に食べたよ。ちっさいスプーンに乗せて、あーんて言いながら口まで運んでやるんだ。俺はされた記憶がないけどさ。それやると馬鹿みたいに喜ぶんだ。でも俺は馬鹿なんて言わないんだ。だってそんなこと言われたら悲しいだろ。笑ってやるんだ。あいつがこぼしても怒らないんだ。優しくしてやるんだ。だってそうされたいだろうから」


 俺はそれが世界で一番わかっていたと思う。何をされたいかは俺が一番知っていた。俺がされなかったことだから。


「あいつがしてほしいだろうことは全部やってあげたよ。泣いたら抱き上げてあげたし、優しく名前を呼んで、お前が大切だよと囁いたよ。心にもないのに、好きだよ大好きだよお前が世界で一番大切で可愛いよと何度も言ったよ。そうしたいなんて欠片も思わなかったけど、頭を撫でてあげたよ、あいつが望めばいつだって。そうやってずっと育ててあげるつもりだったんだよ。だってあいつには俺しかいないんだ」


 そう言い切った時、アラームが鳴った。どうやら随分長々と話していたらしい。道理で喉が乾くはずだ。


「続きはまた明日な。聞いてくれてありがとう」


 わあむ、と涙が出そうなほどの優しい響きだった。最後にもう一度優しい感触があって、それがまるで俺の頭を撫でるかのようで、俺の思い込みだったとしても嬉しかった。
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