拝啓、私の生きる修羅の国

11.私の生きる修羅の国

　どうして人はいつか悪を知らなければならない。それがない世界を望んではいけない。どうして私の生まれて住んで行く国は悪で満ちている。どうしてそれを取り除こうともしない。
　どうして。どうして。どうして。
　ああ、この国にもし手紙が書けるのなら、ありったけの皮肉を込めて書いてやろう。
　拝啓、と丁寧な挨拶と共に私の悪を書き連ねてやろう。
　私の生きる修羅の国。ここは永遠に戦い続けなければ弱者は立つこともままならない修羅の国だ。
　私、そんなに多くを望んでいるだろうか。当たり前のように生きていきたいだけだ。当たり前のように人として。
　当たり前のように。当たり前のように。戦わなくていい国に生まれたかった。
　嫌ならば出て行けと言うのなら、どうして私をこの国に降ろした。どうして。どうして。ねえ、どうして。
　生きていたいの。私、生きていたいの。でも、生きているのがこんなにも辛いの。

　永遠に等しい自己問答の時間は、けれど数分間でしかなく、きっと人生を振り返ったなら刹那のような時間で、私は私の叫びなどなかったような顔をして律儀にやってきたタクシーに乗り込んだ。
　ポストは覗かなかった。
　一日覗かなくてもなんてことはない。私の欲しいものはここにはない。ここではないならどこにある。わからない。
　私が最大限に生きやすい場所はここにはないけど、それでも今の私が一番生きやすい場所はここしかない。